絶対音感は先天性という夢のない話

カナダのトロント大学デラウェア大学の共同研究によって所謂「絶対音感」と呼ばれるものが訓練によって獲得されるものではなく、先天性の能力であることが証明されました。

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それだけ聞くと夢のない話のように感じますが絶対音感とよく一緒に語られる相対音感に関して言えば、トレーニング次第で開花します。伸びしろのある能力です。
そう聞くとちょっと希望が湧きますか?






絶対音感相対音感

音とは

まず、絶対音感相対音感がどういった能力なのか確認しておきましょう。
音というのは、空気中を伝わる振動です。振動には固有の周波数があります。
人間の可聴域はおよそ20Hz~20,000Hzの間と言われており、振動の周波数がこの間に入っているとそれをとして認識することができます。


絶対音感とは

絶対音感を持つ人というのは、その周波数を聞き分ける能力が他より優れている人のことです。
より厳密に言うとその周波数が他のどの音と一致するか、正確に認識出来る人のことを言います。

※音の周波数は連続しています。
日常に溢れる全ての音が必ずしもドレミファソラシドの音に一致するとは限りません。
ですので、例えばパソコンのキーボードを打つ音がドレミファソラシドのどの音と一致するか、と尋ねることに意味はありません。
ラジオの周波数のように一致しない音(放送局を拾えないノイズ)というが必ずあるからです。


相対音感とは

一方で相対音感を持つ人というのは訓練により音階を聞き分ける能力を獲得した人のことを言います。
「ピアノの音であれば正確に音階を当てることができる」「ギターであれば分かる」というように、特定の楽器を長く演奏することで覚えた音と比較することで、今聞いた音がどの音であるか判断する能力です。


絶対音感相対音感は長らく混同されていた

この2つの音感はよく混同されていました。
というのも、どちらも認知能力に関わるものなので、どういう風に聞こえているのか、何が他の人と違うのか、本人たちにしか分からず客観的に比較のしようが無かったためです。
特にTVのバラエティ番組などを通して、子供の能力開花の一つとして絶対音感は子供の頃の音楽教育によって開花する能力であるかのような認識が広まっていました。
しかし実際の所、科学的・医学的根拠は全くありませんでした。

昨年、新潟大学が「日本の音楽学生は絶対音感が優れているが相対音感が弱い」という報告書を出しました。
日本・中国・ポーランド・ドイツ・アメリカの音大生を対象に絶対音感テストを実施した結果、日本の学生は6割近く、ピアノ専攻学生に関しては正答率90%という結果を叩き出したそうです。
逆に相対音感に関しては1割も正解しなかったとか…。   

ところでこのテストですが、どのように行われたかというと…

絶対音感テストでは、ピアノの中央音域にあたる5オクターブの範囲の音がランダムに近い順序で出され、参加者は各音の音高名を答えます。相対音感テストでは、さまざまに異なる長調で<属和音ー主和音ー主音ーテスト音>の系列が出され、参加者はテスト音が音階の中で占める位置を主音からの音程名や階名で答えます。

というものです。
どうでしょう、私はこのテスト内容を見た時にどちらも相対音感のテストではないのか?と感じました。
単に単音でのテストか複数音(和音)でのテストかの違いであって、日本の学生は単音の相対音感は強いが、和音の相対音感が弱いというだけの結果ではないかと思うのです。
例えランダムであっても単音であれば自分の知っている(記憶している)音と比較することは容易です。しかも出題はピアノの音で、正答率が高かったのもピアノ専攻の学生です。

一方で和音は音楽を構成する大事な要素です。これが弱いのはあまりいい傾向ではありませんね。


レポートの中で、こうなった結果について「絶対音感の獲得につながる幼少期からの教育が音楽教室などで広く行われているからです。」と指摘しています。
つまり音あてゲームや音階の歌です。
ピアノの音を聞かせて、その音を当てさせるというもので合っていればOK、違っていれば正解を教えてズレを修正させるというものです。

どちらも正しい音を覚えさせるという意味では相対音感の訓練です。
絶対音感を持っている人は、音の周波数が聞き分けられますから、その音の「名前」を覚えるだけで済むのではないでしょうか。


今回の研究発表で分かったこと

脳の反応の違い

絶対音感を持つ人とそうでない人との音を聞いたときの反応の違いをMRIで観察することにより一次聴覚野と呼ばれる部分の反応が明らかに異なることが判明しました。
この一次聴覚野は周波数を始めとする音の基本的な要素を判別する領域です。
絶対音感を持つ人は、この部分が絶対音感を持たない人より反応が大きく、体積も大きいということがわかりました。


絶対音感は先天性の能力

脳の反応の違いだけであれば、後天的にも現れる可能性があります。
しかし、今回の実験において絶対音感を持つ人の20%が7歳まで何の音楽的な教育も受けていなかったことから、先天的な能力であるとの見方が強まりました。
幼少期からの音楽教育は絶対音感を培うという意味では効果がないということです。
※幼少期からの音楽教育を否定するものではありません。あくまで「絶対音感を培う」という意味においては効果が期待できない、ということです。


まとめ

絶対音感はそれほど重要な能力ではない

絶対音感相対音感が混同されやすい、という話は既に見てきた通りです。
ということは実は相対音感なのに絶対音感だと思い込んでいる音大生(音楽家)はそれなりの数居る可能性があるということです。

そのくらい曖昧な能力であり、音楽家に必須の能力とは言えません。
楽家とは音を正確に当てる職業ではありませんので。

人間はわかりやすい答えを欲しがりますから、一つの正解がある音階当てが出来ることを能力の確認に使いたがります。でも、音楽というのは音符通りに正確に演奏できれば良いというものでもないでしょう。
音階を正確に聞き分けられるなんて、いかにも素人が喜びそうなエンタメ的能力ではないですか。
新潟大学のレポートにあるように、これを必死になって習得させようとしているのが日本の幼児音楽教育の実体なのかと思うと、ちょっと切ないです。

今回、科学的なアプローチで絶対音感は先天的な能力という見方が強まったことで、絶対音感信仰が無くなればいいな、と思います。