現実的な視点を持った韓国人教授の話

KAIST*1の教授であり、「行動する自由市民」という市民団体の共同代表である이병태(イ・ビョンテ)さんがFacebookに「親日は当然のことだ」と題した文章をアップし、話題となっています。


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親日は当然のことだ】
国交「正常化」をしたら、どの国でも親しく過ごしてこそ平和に共同繁栄することが可能である。
だから親米、親日、親英、親独、親仏するべきは正常である。
ところが、どうして今「親日」は悪口になるのか?
日本でも親韓が悪口になる世界を作りたいと思うのか?
親日は当然であり、通常のものである。反日が逆に異常である。
土着倭寇と考え、他人を攻撃する場合は、危険なファシストであるか、日本人への嫌悪感に満ちた人種差別者であるか、歴史の進歩を拒否する知的能力が極めて不足した人、または……


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土着倭寇を口にする人は
1. 人種差別者である
2. ファシストである
3. ナショナリストの暴力虎*2である
4. 歴史コンプレックスの精神病者
5. 他者の人格と自由を攻撃するテロリストだ


このような投稿をされました。
ニュースでも取り上げられたようで、こちらに動画がアップされています。

文章を読む限り、日本に対する擁護発言ではなく韓国の現状に対する批判になっています。
日本に都合が良いから仲良くすべき、ではなく韓国(の反日行為)が異常なのだ 、という前提で語られているように感じるのですが…上記リンクの動画のコメント欄では当然のように「親日派」認定を受けています。


この方は2年ほど前にも「ヘル朝鮮」という言葉で韓国社会の生きづらさを訴える若者世代に向けて「(現代の韓国の生きづらさを)旧世代の無能さのせいかのように批判する」「あなたが享受しているすべてのものは、あなたが成し遂げたことではない」という批判を行いました。

他にも、確か所得主導成長に対して一貫して否定的な立場だったと記憶しています。
造船業の見通しについても楽観的な見通しが多い韓国内の論調に反してかなり悲観的です。

韓国の知識人としては珍しく現実的な感覚を持っている人のように感じられます。
経済学はイデオロギーと切り離せませんので、韓国人教授から学ぶと、どうしても「韓国人」としてローカライズされた考え方になってしまいます。
それがあまり出ていないのは、恐らく国外で学ばれた経験が活きているからでしょうね。


今回の投稿で、歴史認識について触れられているのは「歴史コンプレックスの〜」の部分のみ、というのも珍しいというか…韓国人が現在の日韓関係の問題点として必ずあげるのが歴史問題ですが、その主張は大体において「日本の歴史認識が間違っている」「日本が過去の歴史を謙虚に受け止め罪を認めるべき」、こういったものです。

日韓関係において韓国人を批判する立場の少数の韓国人についても、大体は似たようなもので問題視するのは「韓国の歴史認識」です。
両国間の問題を語る上で「歴史認識」というキーワードの枠外で語られること自体が非常に稀です。

私は日韓が共通の歴史認識を持つことは不可能であり、またその必要もないと考えている人間です。
その立場からすると、問題の根本から「歴史認識」を除外した韓国人の意見というのはなかなか興味深いです。


もちろん、国交があるからと言って、必ずしも国民全員が誰でも彼でも親和的である必要はありません。
そういう意味では、イ・ビョンテ教授の意見は極端です。
個人間の意見の対立や不和はある方が自然であり、全面的に同意は出来ません。
けれども進んで不和になる必要もありませんし、政府が積極的に政治問題化する意味もありません。
それに「国交正常化した後でそれ以前の問題を蒸し返すのはナンセンス」という立場からの意見であればある程度、同意できます。

日米においても「原爆の是非」は個人間で様々な意見の対立があります。
ですが、両国政府はそれを公式に持ち出しません。
政治問題化することに何の意味も無いことだからです。

韓国にはそれが何故か理解できないようです。


*1:Korea Advanced Institute of Science and Technology。韓国の国立大学。

*2:粗野で乱暴な様を表す言い回しに「범(ヒョン;虎)」がよく使われる。日本語で言うとろろの「○○鬼」や「○○魔」に相当するような表現。ここでは「チンピラ」くらいのニュアンスが妥当かもしれない。
動物の虎を表現する際は「호랑이(ホランイ)」。固有語としては「범」であったらしいが、現在はほとんど死語だそうな。