徴用工問題に対して新たな提案…って、何も進展していない話

先日、長嶺駐韓日本大使が韓国の保守系最大野党である「自由韓国党」の尹相現(ユン・サンヒョン)委員長と会談した折に徴用工問題に触れ「韓国政府がより進展した案を持って来るなら、交渉の余地がある」という主旨の内容を伝えました。
その効果か、韓国政府が日本側に新たな提案を示したそうです。
Bloombergが文化日報の報道を引用する形で報じています。


それによると、元徴用工への支払いを韓国側がより多く負担するという案を提示しているそうです。
韓国の裁判所で賠償金支払い命令を勝ち取った原告に対しては、日韓企業が折半して支払いを行い、その他の徴用工(自己申告?)に対しては韓国政府が支払う、というものです。

基金設立による支払い案というベースはそのままですので、本質である「国際法違反状態」は相変わらず解消されていません。
どうしても「日本側が支払う」という構図が無いと名分が立たないと思っているようです。


「解決済み」ただし「個人請求権は生きている」の意味

日韓基本条約には付随協約というものが含まれています。
その中に「財産及び請求権に関する協定」というものがあり、その中の第2条で次のような取り決めがされています。

  1. この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国が執つた特別の措置の対象となつたものを除く。)に影響を及ぼすものではない。(a)一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつて千九百四十五年八月十五日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいつたもの
  2. 2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。


まどろっこしい言い回しを使っていますが、一番ポイントになるのは赤字の部分です。
ここを噛み砕いて言うと...

「この協定に署名後は、韓国は日本に請求できない、日本は韓国に請求できない(外交保護権の放棄)」

という意味になります。

日本政府の立場としては「日韓基本条約で解決済み」と「個人請求権は生きている」が両立します。
ただし、上記の協定により韓国人は日本政府への賠償請求は行なえません。日本政府がこれに応える義務は消滅しているのです。


「外交保護権の放棄」という視点で見れば、そもそも保障や賠償という概念はないのですが、日本は韓国に事実上の賠償を行いました。
そして現在、徴用工への個人賠償責任は韓国政府に移っています。

日本は、韓国政府が代わって賠償処理を行うという取り決めの元、経済協力金と称して事実上の賠償金合計約11億ドル*1という莫大な金額を渡しています。
この内の約3億ドルが個人への補償金となるはずでした。


少し不謹慎な例えですが、もろもろコミコミ含めて約11億ドルで韓国政府と戦後賠償業務の業務委託契約を結んだようなものです。

ところが、韓国政府は本来、徴用工(という名の募集工)に支払われるべき約3億ドルのお金まで経済発展を優先することに使いました。
(結果的にはそれに相当する以上のリターンを韓国国民は享受しただろうと思われますが…)


業務上横領とか詐欺とかのレベルの話です。なので契約違反(国際法違反)という話になるのですが、韓国側の日韓基本条約の解説やメディアの報道では「外交保護権放棄」の概念も、「賠償先が移った」という認識も欠如しているようです。
韓国政府も理解していないようで…それどころか、日韓基本条約の内容を認識しているのかも怪しいレベルです。


いずれにせよ、これは既に韓国の国内問題です。日本が二度払いを請求される謂れはありません。
個人請求権は生きているのですから、(自称)元徴用工の皆さんは韓国政府を横領罪で訴えれば良いと思います。


*1:当時のドル円レートは1ドル約360円。当時の韓国の国家予算は3.5億ドル。