EUで動き始めたデジタル課税の話

フランス国内で売上高が2500万ユーロ以上、世界での売上高が7億5000万ユーロ超えの企業を対象にデジタル・サービス収益に3%の課税を行う「デジタル課税」法案が可決されました。
後はマクロン大統領が公布の手続きをすれば施行されます。


元々は欧州委員会主導の元、EU域内での売上に3%の課税を課すDST(Digital Service Tax)指令案の成立を目指していましたが、アイルランドなどIT企業の節税策により恩恵を得ているEU加盟国の反対により頓挫していました。
その後、EU各国が個別に対応することになっていました。
今の所、イギリス・オーストリア・フランス・イタリア・スペインが導入する意向を発表しています。

明らかにGAFAを狙い撃ちした政策でフランスが先陣を切った形になりました。


行き過ぎた租税回避への対策

デジタル課税が導入される背景には、GAFA*1を中心とした巨大IT企業の租税回避プランニングがあります。
GAFAは全て米国企業ですが、米国以外の海外法人が収めている法人税は少額です。
1980年代にAppleが作り出したと言われている「ダブル・アイリッシュ・ウィズ・ア・ダッチ・サンドイッチ*2」と呼ばれる租税回避法を使うことで可能になる合法的な節税対策のためです。

いくら合法とは言え、度が過ぎると悪質と見なされ要対策となります。
2018年には欧州委員会により「Appleがアイルランド政府から不当な優遇を受けていた」と認定され130億ユーロの(約1兆9千億円)追徴課税を命じられています。


大手IT企業による節税方法(ダブル・アイリッシュ・ウィズ・ア・ダッチ・サンドイッチ)

簡単に仕組みを説明すると、まず商標権ライセンを管理するための法人をAアイルランドに設立します。
更にもう1社、営業活動などを行うための法人Bを設立します。
BはAからライセンスを付与されて営業している支店という形にします。(Aは実体のないペーパーカンパニー

ただし、Aの経営管理を行うのはアイルランド国外にある別の法人Cです。
アイルランドは税制法の規定により、会社の管理部門が国外にある場合、非居住企業となり法人税を免除されます。
Cを置くのにバミューダ諸島など法人税が「0」の租税回避地タックスヘイブン)が使われます。

更に、オランダに法人Dを設立します。
オランダはアイルランドとの租税条約により源泉税が「対象外」となっているため、アイルランドの法人AとBの取引の間にオランダのCを挟むことで源泉税を「0」*3 にできます。

2つのアイルランドの法人A・B(ダブル・アイリッシュ)で1つのオランダ法人D(ダッチ)を挟む(サンドイッチ)するわけです。


ですが、EUと米国からの圧力によりアイルランドは2014年に源泉税回避の取り決めを廃止することを決定しました。
この方法が利用できるのは2020年までとされています。
ただし、ダブル・アイリッシュをダブル・スイスに入れ替えた変形バージョンなども存在するため根絶には至りません。

他にもAmazonのように「恒久的施設(PE)認定を避ける」という方法も使われています。


米国ではちゃんと納税

ちなみにこの件で米国が怒ることはありません。
なぜならGAFA米国ではそれなりの税金をきちんと収めているからです。
彼らが租税回避に回すのは主に海外事業の収益です。

先日のG20でも共通ルールの推進合意がありましたが、本拠地のアメリカで問題視されず、その他の国で声が上がっているのはこのためです。

「うちの国で稼いだなら相応の税金を収めるべし」と言っているわけです。

デジタル課税の導入は二重課税となる可能性がありますが、ITサービスは国境の縛りを受けませんので従来の税制だけでは対応出来ないという事情があります。


米国はフランスのデジタル課税法成立を受けて、通称法301条*4に基づき、不公正かどうか調査を開始したそうですが、フランスは「脅し」と反発しています。


いずれ日本でも本格的に動き出すでしょうから、米・仏それぞれの対応を注視しておくべきですね。


*1:GoogleAmazonFacebookAppleをまとめた通称。

*2:「ダブル・アイリッシュ・アンド・ダッチ・サンドイッチ」という場合もあり。

*3:源泉税は給与や報酬など、何らかの支払いが発生したときに発生するため、アイルランドのA・B法人が直接ライセンス貸与を行い、その報酬をやり取りすると、そこで源泉税が発生してしまう。

*4:貿易相手の不公正取引に対して、相手国と協議して解決できない場合には制裁措置を発動できることを定めている。不公正かどうかはアメリカ通商代表部が調査・判断する。