ノキアの復活には鴻海の存在が欠かせないのに触れられていない記事の話

現・ノキアの取締役のリスト・シラスマ氏が来日した際のインタビュー記事東洋経済Onlineさんで配信されています。
テーマは「ノキア復活」なのに、主に経営陣の精神論の話(日本人の好物「起業家マインド」)で、実務レベルの話が無く少し残念です。

マイクロソフトへの売却の話に焦点を当てていますが、それはノキアの延命でしかなく、復活ではありません。
復活を語るには中国…厳密に言えば台湾企業の存在が大きな役割を果たしているのですが…それが無ければ、今のノキアはありえないのです。


日本ではパッとしませんでしたが、ノキアは2011年頃まで携帯電話の世界トップシェアの企業でした。
ところがスマートフォンの市場拡大に対応できず、2013年に携帯部門を従業員・製造ラインまとめてマイクロソフトに売却する計画を発表し、2014年に売却完了しました。
その後、ノキアの元幹部が集まってHMDグローバルというスタートアップ企業を立ち上げました。
マイクソフトがノキアを買収した際には特許ごと買ったわけではなく、「永続可能な10年分のライセンス契約を結んだ」というような形になっていました。
マイクロソフトは自社製品に自由にノキアの特許を利用できますが、勝手に売却したりライセンス収益を得たりは出来ないことになっていたのです。


新たに立ち上げられたHMDグローバルはマイクロソフトから携帯事業を買い戻します。

その際に、電子機器の受託製造を行う台湾企業*1Foxconn Technologyが絡んできます。
日本では 鴻海(ホンハイ)グループ と呼んだほうが馴染みがあるかもしれません。
2016年にSHARPを買収し、現在、台湾総統選に元会長の郭台銘>(テリー・ゴウ)氏が立候補しているあの鴻海(ホンハイ)です。


HMDグローバルが得た権利は、ノキアのデザインの権利と2024年まで携帯電話およびタブレットで「Nokia」ブランドを利用する権利です。
現在この権利はNokia Technologiesが管理し、HMDグローバルとライセンス契約を結ぶ形になっています。

Nokia」ブランドを冠したスマホ・携帯の設計を行うのはライセンス委託を受けたHMDグローバルです。
実際の製造は、携帯製造工場の設備を従業員ごとマイクロソフトから取得した鴻池(ホンハイ)グループが製造受託して行います。


2018年 鴻海(ホンハイ)グループ傘下のFIH Mobileは100%子会社のWonderful Starsを通してHMDグローバルに間接出資を行い、発行済株式の7.92%を保有しました。
※発行済み株式を3%以上保有している場合、株主総会の招集や帳簿の閲覧が可能になります。

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Nokiaブランド復活の流れ(概略)


製造部門を外注委託したことによる大幅なコストカットを実現し、製造へ回す分のエネルギーを付加価値の高い設計・保守・マーケティングに振り分けることが可能となったわけです。
つまり鴻海(ホンハイ)の存在がノキア復活の大きな鍵です。

ビジネスパートナーとしてこれだけ関わり合っているのに、鴻海(ホンハイ)グループとの関係に触れないことの方が違和感を感じます。
ファーウェイの件で、中国・台湾企業との関わりに対して過敏になっているのでしょうか。


*1:元会長の郭氏は中国本土にルーツを持つ台湾出身者(=外省人)であるため、一部では実質的に中国企業と見るむきもある。