京アニの話

報道を見て言葉を失ったのもこれほど憤りを感じたのも久し振りです。

33名が亡くなり、35名が負傷されました。当時現場の建屋には70名ほどが居られたそうなので、ほぼ全員が死傷されたことになります。
犠牲者のご冥福とケガをされた方の1日も早い回復をお祈り申し上げます。


今回の事件は平成以降最悪の犠牲者数で、有名な「ホテルニュージャパン火災*1」に匹敵する犠牲の大きさです。


48時間ルールのため、被疑者はまだ逮捕されていない

被疑者の男性は顔や胸などに火傷を負い、病院で治療中のためまだ逮捕されていません。
救急搬送された場合は医療行為が必要と判断されるので、その場で現行犯逮捕は出来ないのです。
万が一、被疑者が死亡なんてことになったら大問題ですし、警察には48時間ルールがあります。

警察での勾留は逮捕から48時間以内、取り調べは1日8時間以内 という取り決めがなされています。
この期間は「逮捕の有効期限」のようなものです。

警察密着ドキュメンタリーで逮捕劇が流されることがありますが、大抵早朝に踏み込むのは取り調べ時間が午前5時から午後10時までの日中で8時間以内、勾留可能時間は48時間と決まっているので、時間をフルに確保しようとするためです。

病院では取調べや検察への送検が行なえませんので逮捕は退院後になります。
そのため被疑者情報は19日に京都府警が公表した氏名「青葉真司」、「41歳男性」、「埼玉に居住歴があるらしい」、「小説を盗まれたと主張しているらしい」といった断片的な部分しかまだ明らかになっていません。
全身に火傷を負っており、意識不明状態とのことです。


放火に使用したガソリンは引火点*2が-20〜-40℃です。
室温の状態で気化するため直接火に触れなくても燃焼します。
そのため、今回の事件でも帰化した可燃性ガスに引火して爆発が起こっています。
被疑者の青葉氏は恐らくそのことを知らなかったのでしょう。思いっきり爆発に巻き込まれたようです。


下の動画はガソリンの燃焼実験映像です。ガソリンの引火力の強さがよくわかります。


ガソリン燃焼実験


「煙突化」した螺旋階段の吹き抜け

共同通信の英語サイトに掲載されていた犠牲者発見場所の図面が分かりやすかったのでお借りしました。

f:id:Ebiss:20190719191443p:plain:w400

1階から3階までを螺旋階段が貫いており、吹き抜け構造になっています。
吹き抜け構造というのは空気の流れ(エアー・フロー)の効率はとても良いのだろうと思います。
特に階段周りだけの吹き抜けは、空気の流れがそこに集中するようになっているので、空調設計がしやすいのでしょう。

問題は空気の通り道になるということは、火災の際は煙と有毒ガスの通り道になるのと同義である、ということです。
今回の火災でもここが「煙突」のような役割を果たすことで煙と一酸化炭素を上層階へ運んだものと思われます。


最も多くの犠牲者が見つかったのが屋上へ続く階段でした。(19名)
火災当時、屋上への扉は施錠されていなかった、と一部報道で出ていますが、唯一の出入り口であった1階から迫る火と煙から逃れた人達がここへたどり着いた頃には既に一酸化炭素が溜まっていたのかもしれません。
一酸化炭素は空気より軽いので吹き抜けを伝って一番高いところへ一気に登っていった可能性があります。

屋上の扉は熱による変形はなかったそうなので、もし屋上への扉が開いていれば結果は違ったかもしれません。
なんともやりきれない気分です。


*1:昭和57(1982)年2月8日深夜に東京・赤坂のホテルニュージャパンで発生した火災。死者33名、負傷者34名。客室での寝タバコが火元とされているが、被害拡大の要因として杜撰な防災管理・通報、避難誘導を怠ったホテル側の対応の拙さなどが指摘されている。

*2:火を近づけた時に燃焼を始める最低温度。