領空侵犯の話

ロシアは「ロシアと中国がアジア太平洋地域で初の合同パトロールを実施」と報じています。
しかし爆撃機でパトロールって凄いですね。

領空侵犯についての韓露中それぞれの主張を確認してみます。


まず最初に、登場する機体の確認をしておきます。
中露の爆撃機、H-6(中)とTU-95(露)がそれぞれ2機ずつとロシアのA-50早期警戒管制機です。
この中で領空侵犯をしたのはA-50のみです。

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(左)ロシア機 (真ん中)ロシア機 (右)中国機
左のA-50が領空侵犯した機。レーダードームを背負っている。

早期警戒管制機とは、その名の通り「空飛ぶ管制室」です。
大型レーダーが搭載されており、敵軍・友軍の航空機などを探知・追跡し航空管制、指揮、統制を行います。
支援特化型のため、戦闘能力はほぼありません。
フレア*1や電子妨害装備による自衛は可能ですが、敵機接近時は速やかに退避し、友軍戦闘機による迎撃に任せるのが基本です。


韓国の主張

一番大騒ぎしている韓国さんの報道からです。

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06:44 中国の爆撃機2機が北西方面からKADIZ(防空識別圏)に進入
07:14 中国の爆撃機2台機が東方に離脱
07:49 中国の爆撃機2機が鬱陵島南方でKADIZに再度進入
08:20 中国の爆撃機2機がKADIZを離脱
08:33 中国の爆撃機2機、ロシアの爆撃機2機が日本海北限(NLL)で合流後南下
08:40 中国の爆撃機2機、ロシアの爆撃機2機が鬱陵島北方でKADIZに再進入
09:04 中国の爆撃機2機、ロシアの爆撃機2機が鬱陵島南方でKADIZを離脱
09:09 ロシアの早期警戒管制機1機がKADIZに進入、独島領空侵犯、韓国空軍の警告射撃
09:12 領空侵犯のロシアの早期警戒管制機1の領空離脱
09:15 領空侵犯のロシアの早期警戒管制機1、KADIZを離脱
09:33 ロシアの早期警戒管制機、領空2次侵犯、空軍警告射撃
09:37 ロシアの早期警戒管制機、領空を離脱
09:56 ロシアの早期警戒管制機、KADIZを離脱
13:11 ロシアの爆撃機2機、KADIZに再進入
13:38 ロシアの爆撃機2機、KADIZを離脱


韓国空軍はKF-16を2機出動させ、ブロック起動*2し、09:09の1度目に約80発、9:33の2度目に約360発の警告射撃をロシア機の前方約1kmの地点へ向けて行っています。
韓国空軍は中国の爆撃機に対して20回以上、ロシアの爆撃機早期警戒管制機に対しては10回以上無線通信を試みたものの、返答はなかったとしています。

韓国側のレーダーでは、ロシア機は約12.9kmの位置を飛行したと記録が残っているそうです。


細かく伝えていますが、最初は爆撃機ばかりフォーカスしているため、早期警戒管制機が急に湧いて出たようになっています。
領空にさえ入ってこなければ何ら問題ないので、爆撃機の動きをここまで細かく知らせる必要があるのかどうか…。
韓国軍の情報収集能力を無駄に晒してしまっている気がします。


朝鮮日報はこの件に触れ「KADIZに無断侵入した」「およそ6時間50分もの間KADIZをひっかき回した」と記事に書いており、あたかも「韓国のKADIZに入ったこと事態」が違法であるかのような論調で語っていますが、大きな間違いです。領空に入りさえしなければ中露の動きに国際法上の問題はありません。


ロシア側の主張

ロシア側の主張では、飛行区域は竹島から25km地点*3であり 「領空侵犯はなかった」 としています。
更に「警告射撃は受けていない」とも。
それどころか、韓国の戦闘機が進路を妨害し、フレアを発射し、無線に応答しなかった、と主張しています。


以下はロシアの直接の主張ではなく、韓国メディアに報道されたものです。

今回の事態に対して深い遺憾を表明するというロシア側の立場があった。
ロシアの国防省ですぐに調査に着手して、必要なすべての措置をとると発表した。
機器の誤作動により計画されていない地域に進入したと思うと伝えてきた。
韓国側が持っている領空侵犯時間、位置、座標、キャプチャ画像などを配信してくれれば事態の解決に役立つともした。


この情報の信憑性は不明です。ロシア側の「誰の」発言なのかが明らかにされていません。
ロシア国営メディアの記事を見てみましたが、このような内容は見当たりませんでした。
ロシアの国防省は領空侵犯を否定しています。

仮に、こうしたやり取りがあったとして、ロシア側はかなり下手に出ているように見えますけど、機密情報寄越せって言ってます。


最初に触れたように、領空侵犯した早期警戒管制機に戦闘力はありません。警告射撃を受けた時点で退避すべきですし、ロシアないし中国の戦闘機がスクランブル発進しているのが普通だろうと思います。
ところが戦闘機の護衛もなしに任務続行、で2度目の警告射撃…ちょっと奇妙な気がします。
ロシア側の報道でも「パイロットが安全上の脅威を感じた場合、即座に対処しただろう」との発言があります。(つまり、パイロットは脅威を感じていなかった=警告射撃は行われなかった…?)


韓国側は映像記録も持っているそうです。
警告射撃の部分もバッチリ写っているのだそうで…果たして出すんでしょうか?壮大なBGMを付けて編集してから。


中国側の主張

人民網の中国語版に上がっていた記事からです。
ロシアとほぼ同じ主張で領空侵犯を否定しています。
一つ付け加えるとすれば、韓国の防空識別圏についての言及があります。

曰く、 「韓国の防空識別圏は国際基準に基づいて描かれておらず、ロシア側には認識されていなかった」 と。

2013年頃に中国が東シナ海の広い範囲に防空識別圏を設置したのに対抗(?)して、韓国が防空識別圏を拡大したことがあります。
今回問題のあった場所とは別のところですが、そのことを揶揄しているのかもしれません。

※このときに拡大された防空識別圏と今回領空侵犯のあった竹島周辺は離れていますが、防空識別圏拡大の「根拠」と、竹島の領有権主張の「根拠」にはある共通点があります。
それについて当時、こんなコラムが書かれています。


日本の防衛省の公表資料

防衛省統合幕僚監部が報道資料として公開している情報では、自衛隊機をスクランブル発進させています。
※公式には何機が飛び立ったか出ていませんが、韓国報道では「日本の航空自衛隊から10機程度の戦闘機が出動し〜」となっています。

公開された飛行ルートが下図です。黒い枠内が日本の領空になります。

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爆撃機の飛行ルート 領空侵犯時の早期警戒管制機の飛行ルート→

外交ルートを通して韓国とロシアに「日本の領空でこうした行為を行ったことは受け入れられない」と伝えたそうです。
まあ、日本が警告射撃したわけじゃないですからね、現時点ではそれくらいが妥当でしょうか。


*1:ホーミング誘導ミサイルから目標を逸らし、航空機を守るためのデコイ

*2:恐らく制御ソフトウェア「Block」のこと。一定時間ごとに再起動しないとフリーズすると噂の。

*3:領空は陸地から約22km