日韓基本条約に「基本的に無効」なんて文言は出てこない話

韓国籍を取得された元・日本人(日系韓国人)で世宗大学教授の保坂さんが「日韓経済戦争を克服するためには日本の論理を知っておくべき」と講演で述べられたそうです。

一言で言ってしまうと、「日本の植民地支配は合法というのが日本の論理だが、日韓基本条約の英語の文面を見ると『基本的に無効』としている韓国の主張が正しい」のだそうです。


聯合ニュースの記事からです。

保坂教授「日本植民地時代が合法である、というのが日本の中心論理」


(前略)
保坂教授はこの日、光州光山区庁で開かれた公職者の歴史・人権意識向上トレーニングに講師として招聘され「日本側の論理を知っておくことで韓日経済戦争を克服することができる」と述べた。

彼は「日本政府と多数の日本国民は1938年の国家総動員令施行と、翌年の国民徴用令施行を合法の根拠とみなす」とし「当時、朝鮮人と台湾人だけでなく、日本人も強制労働の対象となった」と説明した。

それとともに「韓国の徴用者が本人の意思に反して仕事を強要されたという事実があるが、違法ではなかったというのが日本の論理の核心」と説明した。

保坂教授は日韓両国間の見解の違いについて「日帝強占期は違法」と判断した。

彼は「両国が1965年に締結した日韓基本条約を見れば、日本植民地時代は合法ではない」とし「日韓基本条約第2条は『1910年8月22日以前の日本帝国と帝国が締結したすべての条約と協定は基本的に無効』と明示する」と言及した。

保坂教授は「日韓基本条約の公式文書は英語で作成された」とし「日本が『already null and void』と表記したフレーズに対して、他の解釈を出しているが『基本的に無効』という韓国側の主張が正しい」と強調した。
(後略)

聯合ニュース「호사카 유지 "일제강점기가 합법이라는 것이 일본의 중심 논리"(保坂教授「日本植民地時代が合法である、というのが日本の中心論理」」)より


まず言わせてもらうと、日本では「植民地支配は合法」なんて言っている人はいませんけどね、「併合は違法じゃない(・・・・・・)」とは言っていますけど。


日韓基本条約の公式文書は英語ではありません。日本語、朝鮮語、英語の三ヶ国語で作成されています。その三ヶ国語の表現が全て公式です。解釈の相違がある場合、英語を用いるというのが一般的である、というだけです。


それぞれの言語の第2条の表現が下記です。

日本語
 千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される。

朝鮮語
 1910년 8월 22일 및 그 이전에 대한제국과 대일본제국간에 체결된 모든 조약 및 협정이 이미 무효임을 확인한다.

英語
 It is confirmed that all treaties or agreements concluded between the Empire of Japan and the Empire of Korea on or before August 22, 1910 are already null and void.


英語の「null and void」はお決まりのフレーズで「法的に無効」という意味になります。「already」は「既に」です。
「already null and void」で「既に無効」…何の問題もありません。

これを「基本的に無効」とは訳せませんし、全ての言語において、併合当初に遡って源泉無効(最初から無効)という意味合いに取れる記述はありません。
「もはや無効」にせよ「already null and void」にせよ、「有効だった」期間があることを示唆する表現ですので、これで「源泉無効」と解釈させるのは無理があるように思います。
朝鮮語の「이미」には「もう、既に」などの意味合いはありますが「基本的に、最初から、源泉」という意味合いはありません。


にも関わらず、なんでここの解釈で揉めるのかと言うと、もう何度も出てきています、遡及法的考え方です。

日本に遡及法はありませんので「既に無効」と言われれば、「現時点に置いて」という認識になります。
日韓基本条約が結ばれた1965年には、既に韓国は独立国家として成立していました。事実上、既に無効になっていた併合条約を無効とすることを、形式上の文章として明文化したに過ぎません。

つまり日本としては1945年の敗戦の時点をもって無効になったと考えるわけです。だから1965年の時点では「既に無効」という表現になります。


一方の韓国は遡及法がまかり通りますから日韓基本条約の第2条が遡って適用され、併合当初より無効が成立すると考えます。(考えたがります)
この考え方は一般的に国際常識に反します。