争点の核心は「主権免除」ではなく、「慰安婦は戦争犯罪か否か」の話

2016年の12月、日韓慰安婦合意から1年後に(自称)元・慰安婦たちが日本政府を相手に起こした損害賠償請求の訴訟があります。
(自称)被害者とその遺族が日本政府に対し「1人あたり2億ウォン(約1,800万円)賠償せよ」としたものです。

3年間放置されていた訴訟ですが、その理由は「日本政府がハーグ条約主権免除を根拠に複数回、訴状の送達を拒否したからだ」としています。
そこで韓国の裁判所は、公示送達手続き*1を進めて今年の5月に完了し、12月13日の午後5時、第一回口頭弁論期日を設けました。
事実上の裁判の開始を意味し、もちろん日本側は欠席です。


「主権免除」とは、主に「国は他国の裁判所で被告にならない=裁判権免除」と「国の財産は他国の裁判所による判決の強制執行保全処分の対象にされない=強制執行からの免除」の2つを指します。
今回は前者の裁判権免除というやつですね、日本は韓国の裁判所で被告になりません。

明らかな主権侵害なわけですが、聯合ニュースが「ファクトチェック」と称して「日本政府を韓国の法廷に立たせることが可能か」検証(?)記事を載せていました。


長いです。相当省きましたが、それでも長いです。

【ファクトチェック】慰安婦訴訟...日政府を韓法廷に立たせることはできるか?


慰安婦被害者と遺族が日本政府を相手に起こした損害賠償請求訴訟が訴訟提起から3年10ヶ月ぶりの13日、初の裁判で本格開始され、韓国の裁判所が日本政府に法的責任を追求することができるかに関心が集まっている。
(中略)
日本政府は「主権免除」を主張している。
(中略)
それに応じて韓国の裁判所は、慰安婦被害者が日本政府を相手に出した訴訟を受け入れてはならないというのが日本側の立場である。

次に、「主権免除」は永遠普遍の国際法原則であろうか?

◇裁判の核心争点である主権免除...過去絶対の原則だったが、次第に「例外認定」

「主権を持ったすべての国は、互いに平等で独立」という国際法の原則に基づいて形成された主権免除の趣旨を考慮すると、日本の「主権免除」の主張もそれなりに論理があると否定することはできない。
しかし、絶対的な原則に思われた主権免除が20世紀半ば以降、「国家の主権と関連した行為ではなく、単純な司法・商業行為、すなわち非主権行為については他の国にも判断出来なければならない」という主張を始め、例外が認められる相対的な概念として変化していることに注目する必要がある。
(中略)
以後、国連が2004年に欧州条約とほぼ同じ内容の「国家及びその財産の裁判権免除に関する国連条約」を採択し、主権免除の例外認定は、世界的な国際法の原理となった。
(中略)

◇国連条約上「非主権行為」は主権免除の例外...いくつかの国で「戦争犯罪は例外」判決

国連国際法律家委員会と国際アムネスティ、国連人権委員会は、国連人権理事会報告書などによると、慰安婦問題は、「日本が特定の目的を持って、官憲を動員力や欺罔の方法で慰安婦を連行して、自国の兵士の性奴隷に生活するようにした事案」として定義される。

次に、慰安婦問題は主権免除の例外事由に該当することができるか?主権免除の例外と関連した国際社会の流れが、これに対する示唆を与えることができる。
米国連邦最高裁判所は、2004年6月韓国人出身の慰安婦被害者が日本政府を相手に起こした損害賠償請求訴訟で、慰安婦問題が外国主権免除法非主権行為である商業活動として評価される余地がある旨の判断をしている。

しかし、米国の裁判所の判断を韓国の裁判所が受諾するのは限界がある。 慰安婦制度の本質は、日本が計画・組織的に慰安婦被害者を性奴隷に搾取した展示(戰時)女性の人権侵害だからだ。
(中略)
主権免除法理に詳しいイ・ヨンジン憲法裁判官は15日、聯合ニュースとの通話で「国際人権法の発達で人権侵害行為については主権免除を適用することができないとする主張が絶えず提起されている」とし「私たちも関連国内法を早急に制定したり、国連条約に加入すると共に、慰安婦問題など戦争犯罪が主権免除の例外に該当するようにする法理を着実に研究しなければならない」と述べた。

(後略)

聯合ニュース「[팩트체크] 위안부 소송..日정부를 韓법정에 세울 수 있나?(【ファクトチェック】慰安婦訴訟...日政府を韓法廷に立たせることはできるか?)」より


【要約】

  • 日本は「主権免除」を盾に裁判を拒否している。
  • しかし、主権免除は非主権行為や戦争犯罪には適用されない、というのが最近の国際社会の流れ。
  • 国際司法裁判所は今でも主権免除を支持している。しかし、将来的に変わる可能性がある。
  • 慰安婦問題は人権侵害であり、戦争犯罪であるので主権免除の対象とすべきでない。


要約すると、このようなことが述べられています。


あちらのメディアは「事実確認(ファクトチェック)」という言葉をよく使います。ですが個人的に、事実を「確認している」というより、事実を「自分に都合よく捻じ曲げて解釈している」だけに見えるときがあります。

さっくり省きましたが、ギリシャやイタリアの事例に言及し「ナチス・ドイツに対する損害賠償請求訴訟」でドイツの主権免除を認めなかった事例が紹介されています。

日本従軍慰安婦問題とナチス・ドイツによる強制収容・虐殺、この2つを韓国国内の定義に基づき、同列と扱っていますが、両者には違いがあります。

一方はありとあらゆる資料が見つかり、戦後、ニュルンベルク裁判でも扱われ、徹底的に調査が行われていることです。
もう一方は、ありとあらゆる資料を当たったものの、未だに決定的に「国や軍が関わった」というものが見つからず、戦後、東京裁判でも扱われずただの「軍専属の売春婦」とされていることです。

事実確認(ファクトチェック)」と言って同列に扱える事例でしょうか?


後は、事実と確認されていないことをあたかも事実であるかのように報じたり…「慰安婦強制連行は戦争犯罪」とかは、まさにそれですね。

元・慰安婦たちの「証言」でしかありません。しかも証言はコロコロ変わっており、信憑性に疑問があるものもあります。

女性たちの移動記録も残っていません。何万人もの人間の移動です。移動計画表が無いのは不自然です。(つまり、軍は女性の移動・配置に関与していなかった可能性が高い)

刑事事件に置き換えて考えてみたら恐ろしいことですよ、物証なしの証言だけで誰かを有罪に出来るのですから。


国連人権委員会などの定義は、申し訳ないけれども何の法的根拠にもなりません。
前述の通り「日本が特定の目的を持って、官憲を動員力や欺罔の方法で慰安婦を連行して、自国の兵士の性奴隷に生活するようにした事案」ここを立証する資料が何一つ見つかっていないからです。


裁判の核心は「主権免除」ではなく「慰安婦戦争犯罪か否か」

裁判の核心争点が主権免除というのは、明らかに違いますね、裁判の争点は 慰安婦戦争犯罪か」 です。
日本の主権免除が例外的に認められないのなら、慰安婦戦争犯罪であることをまず立証する必要があります。
記事本文で言うと
慰安婦制度の本質は、日本が計画・組織的に慰安婦被害者を性奴隷に搾取した展示(戰時)女性の人権侵害だからだ。」
この部分です。これを立証して下さい。
これはそのまま、(自称)元・慰安婦とその遺族たちが日本政府を相手に損害賠償請求訴訟を起こす根拠にもなるはずです。


国連裁判権免除条約においても主権免除は主張できる

他にも、「ファクトチェック」と言っているのに言及されていない事があります。

国連の「国家及びその財産の裁判権免除に関する国連条約(国連裁判権免除条約)」について、日本は2010年から批准していますが、この条約は当該国が明示的に同意した場合を除き裁判権の免除が認められる、としています。

つまり、国連基準でも日本政府が拒否すれば(同意しなければ)裁判権免除は有効です。
これを持ち出した所で、韓国裁判所に強制権はありません。


*1:何らかの理由で相手に訴状を送達出来ない場合、裁判所の掲示板や官報などの公的手段を用いて訴状を掲載し、それをもって訴状が送達されたものとみなすこと。