著作権は認めるけれども、違法コピー流布は止められない話

韓国はアダルトコンテンツを厳しく取り締まっています。
DNS*1やSNI*2レベルでインターネットの接続そのものが遮断されています。

本来であれば日本や米国のアダルト動画は見られない(そもそも違法コンテツ扱い)はずですが、オンラインストレージサービスを利用した違法アップロードという方法で広く普及(?)しています。
本家に接続はさせない、でも違法コピーの取締はザル、というわけです。


日本のAV制作会社がこうしたオンラインストレージサービス業者を相手に「著作権侵害行為を幇助した」という訴えを起こし、その判決が出ました。


聯合ニュースの記事からです。

裁判所「ウェブハード業者に日ポルノの『全面遮断』要求できない」


ウェブハードに無断でアップされている日本のポルノ動画について、裁判所が「著作権侵害は認められるが、ウェブハード業者にこれを全面遮断する義務を課すことはできない」と判決した。

25日、法曹界によるとソウル中央地裁民事合意26部(チョン・ワン部長判事)は、国内の映像販売代理店A社が、日本の成人映像制作・販売代理店12社を代表してウェブハード業者B社を相手に起こした映像複製禁止訴訟で原告敗訴判決を出した。

A社と日本企業は、利用者が自社映像を無断でアップロード・ダウンロードすることをB社が幇助したとして、著作権侵害行為を止めるよう要求した。

裁判所はウェブハード利用者が日本の出版社の著作権を侵害しているという点は認めた。

(中略)

また「A社などが提示する映像は、ポルノと言っても、企画・撮影・編集などの過程を経て著作者の創作的表現形式を含んでいるので著作権法の保護対象になる」と説明した。

しかし裁判所は、B社が利用者の著作権侵害行為を幇助したとは見ることが出来ない、と判断した。不法転送を「全面的に」防ぐ義務がないという理由からだ。

(中略)

裁判所は「これは技術的な限界などにより不法送信を全面的に遮断する義務を課すことが出来ないということを考慮して、権利者の要請がある場合に必要な措置を取るよう制限的な義務を課している」と述べた。

B社の場合、5年間で26万個の映像を削除し、39万個の禁則語、95万個のハッシュ値などを設定して映像を遮断しており、技術的な措置を適切に行わなかったと断定することはできない、と裁判所は判断した。

(後略)


聯合ニュース「법원 "웹하드 업체에 日음란물 '전면차단' 요구할 수 없다(裁判所「ウェブハード業者に日ポルノの『全面遮断』要求できない」)」より


ウェブハードとは、オンラインストレージサービスのことです。Google DriveDropBox、One Driveなどが代表的です。

今回の事例は、例えばG○○gle Driveにアップロードした違法コピー動画の共有リンクを、インターネット上の掲示板やブログなどで公開した場合、そのリンクから第三者が動画をダウンロードすることが可能になります。
そうした状態でG○○gleに動画の著作権侵害行為幇助を問えるのか、と考えると分かりやすいと思います。

残念ながら、裁判所の判決は妥当ではないかと思います。
なぜなら、この訴えを認めるとオンラインストレージサービスのファイル共有機能そのものに、違法アップロード幇助の側面があるということになってしまうからです。


権利者の要請がある場合に必要な措置を取るよう義務が課されている、というのは、著作権者が具体的にアカウントを指定して自身の著作物が配布されていることを通報してきた場合に限り、という意味だと思われます。


似た事例は10年前にもありました。

中央日報日本語版では、なぜか当該ニュースが閲覧できなくなっていますが、韓国語版は残っていました。2009年8月14日の記事です。
内容を一部抜粋しますと、

アメリカ・日本のアダルト映像制作会社約50社は「映像が韓国のインターネットサイトを通じて違法に流通・販売され損害を被った」と国内ネチズンを大量に訴えた。
(中略)
告訴の対象は、ファイルのダウンロードサイトに映像を大量にアップし、会員がダウンロードすると利益を得た、いわゆる「ヘビーアップローダー」だ。
(中略)
この業者は「インターネット違法ダウンロードのために、製作業者の売上高は80%近く減少した一方、ヘビーアップローダーは一ヶ月に2000万〜3000万ウォンの収入を得ている」と主張した。
(後略)
ソース (2009.08.14 中央日報

違う点は、今回は米国企業が居ないことと、動画アップロードサイトではなく、オンラインストレージサービスが対象というところくらいです。

当時、ネチズンの主張として「韓国では法律上、ポルノは『不法映像物』であるのだから著作権自体が認められない」というトンデモ意見が報じられていました。

結局、この件については判決がどうなったのか続報は見つけられませんでした。


ただ、2011年に「アダルト動画を流布した」として個人に対して罰金刑が出た事例があります。
ここでは「アダルト動画流布も著作権侵害」としています。
ソース記事はニューシスから、一部抜粋します。

ソウル中央地裁刑事3単独、シン・オジョン判事はポルノをインターネットファイル共有サイトにアップロードした疑い(著作権法違反など)で起訴されたチェ(28)さんに罰金1500万ウォン*3を宣告したと7日明らかにした。
(中略)
著作権侵害罪は、原則として著作権者の告訴がない場合、公訴を提起することが出来ない*4、『営利目的として常習性を帯びる場合』は例外的に告訴がなくても処罰が可能だ」と説明した。
ソース (ニューシス2011.09.07ニューシス)


今回のケースと違うのは民事ではなく刑事訴訟というところ、そしてアップロード先ではなく、アップロードした個人が対象であるところです。


つまり業者側としては、違法アップロードを行っている個人アカウントを特定して情報開示請求を行い、個別に民事訴訟を起こすか、被害届けを出して(被害を立証して)警察を動かすしかない、ということになります。
どちらにしてもかなりの労力が必要になります。


韓国ではAV自体が違法であるために違法コピーに対する罪悪感はあまり抱かないのかもしれませんね…。


*1:ドメイン・ネーム・システム。
URLは本来、IPアドレス。例えば、216.58.199.227など。
でも、これだと人間には直感的に理解しづらく(覚えにくく)不便なので、意味のあるアルファベットに置き換えられている。
先の例だとgoogle.co.jpというドメインに繋がる。
この変換を行っているのがネットワーク上に存在するDNSサーバ。謂わば、インターネットの住所録にあたる。

*2:サーバ・ネーム・インディケーション。
SSL/TLSなどの暗号化通信の際、サーバ証明書を複数使い分けるために必要となる拡張機能
レンタルサーバの場合、独自ドメインを取得していてもSSLページだけはサーバ全体の共有アドレスとなってしまう。SNIを導入しているサーバだと、ホスト名を伝えることで個別に証明書を使い分けることができる。

*3:約136万円

*4:親告罪のため。