ベルギーのアールストでは毎年3月に、600年以上の歴史があるカーニバルが行われています。
アールストのカーニバルと呼ばれていて、2010年にはユネスコの世界無形文化遺産に登録されていました。
ですが「人種差別的な表現」を理由にリストから除外されました。コロンビアで開催されたユネスコの総会で13日(現地時間)、正式に決定されました。
問題とされたのはカーニバルに登場する山車のデザインです。
毛皮の帽子を被ったカギ鼻の人形が金袋の上に乗った山車です。今年の3月の祭りに登場したもので、周りにはネズミもあしらわれていたとか。
「毛皮の帽子」と「かぎ鼻」と「金袋(守銭奴)」は、ユダヤ人を風刺目的で連想させるものです。
ネズミはナチスがプロパガンダ映画「永遠のユダヤ人(Der ewige Jude)」でユダヤ人を例えたもの*1です。
これがユネスコ側に「反ユダヤ主義」として問題視され、8日にアールストの市長が無形文化遺産取り下げを一方的に宣言しました。
ただし、市側は差別表現による取り下げではなく「表現の自由の範囲内」としてユネスコに反発する形での取り下げです。
「そんなゴチャゴチャ言うなら無形文化遺産の看板なんか要らないよ」ってことですね。
個人的には、これは「表現の自由」の範囲を逸脱していると感じます。
この間のあいちトリエンナーレの「表現の不自由展」もそうでしたけれど「意図的に他者を貶めようとする」、これは「表現の自由」の名を借りたただの「憎悪表現」です。(なぜ芸術作品なら許されてデモや言葉だとダメなの?)
ここからは、ちょっと蛇足です。
「カギ鼻」+「守銭奴」の連想イメージは根強いよ、と私が個人的に感じた話です。
捻くれているので、すごく意地悪な見方をしていることを先にお断りしておきます。
某・魔法学校を舞台とした超有名作品があります。
作品内にグリン○ッツ銀行というのが出てきます。働いているのは全員かぎ鼻のゴブリン(子鬼族)、この世界観のゴブリンは経済感覚が優れており、それゆえ守銭奴という設定です。
私はこれがユダヤ人に対するステレオタイプなイメージが、フィクション作品に表れたのものの一つではないかと思っています。
中世から近世まで、ヨーロッパを中心に金融業(金貸し)や貿易(投資)のような、キリスト教徒の目から見ると「汚れ仕事」と見なされるものを一手に引き受けていたのがユダヤ人たちです。
シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に、当時のユダヤ人に対するイメージの典型のような登場人物が出てきます。
そうした文学作品に出てきた印象というのは引き継がれます。
某・魔法学校の作者にその意図があったかどうかはまた別の話ですよ。
ですからこれは「ヘイト」にはあたらず、ただの表現自由の範囲内の話だと言えます。
ただ「かぎ鼻」と「守銭奴」という、日本人の感覚ではあまり馴染みのない2つのイメージが無意識の中で結びついている、あるいは連想されやすいだろうことは大いにあり得ると思っています。
そうしたイメージが創造性に多少なりとも影響を与えている、と言えるのではないでしょうか。