韓銀はドルを調達しているけれど、まだ民間のドル需要は高くないみたい?な話

Liquidity Swap Arrangement(流動性スワップ協定)という仕組みがあります。(Agreementという場合もあり)
日本語では「為替スワップ協定」とも呼ばれますが、先月19日、米FRBはそれまで5カ国(日・英・加・欧・スイス)と結んでいた契約を拡大し、一時的(6ヶ月)に9カ国を追加する措置を発表しています。

その枠を利用して米ドルを国内の民間金融機関に供給する措置を始めているのですが、韓国では応札額が限度額に満たない状態が続いており、思っていたより国内のドル需要が高くないのかもしれない、という見方が出てきているようです。


デジタルタイムズの記事からです。
記事では「通貨スワップ(통화스와프)」としていたので、そのまま訳しましたが、FRBの発表によると「U.S dollar liquidity swap(USドル流動性スワップ)」です。

1・2次 韓・米通貨スワップ入札すべて「未達」


韓国銀行が韓・米通貨スワップ契約に基づく資金競争入札方式で市場に出したが、1次に続いて2次入札も満たされた。韓国銀行は当分の間、毎週火曜日に追加入札を行う計画である。応札額が入札限度に満たない状況が続き、市場のドル需要が思ったよりも少ないのではないか、という観測も出てきている。

7日、韓国銀行は韓米通貨スワップ資金の2次競争入札を実施し、合計85億ドル(約10兆4000億ウォン)規模の外貨融資需要を募集した結果、半分程度である44億1500万ドル(約5兆4000億ウォン)だけが応札され全額落札されたと発表した。(中略)
入札予定額は満期8日ものが15億ドル、84日物が70億ドルだったが、実際の応札規模は8日物が2億7500万ドル、84日物が41億4000万ドルに留まった。

(中略)

韓国銀行は先月19日、米連邦準備制度FedFRB)と600億ドル規模の通貨スワップ契約を結んで、今月から外国為替市場でドル資金を供給し始めた。
「ドル不足」を解消するという期待の中、金融機関のドル需要は韓・米通貨スワップ資金供給の制限に及ばなかった。韓国銀行関係者は「入札前に市場のドル需要を把握し、出来るだけ需要よりも豊富に充分な量を供給しようとしている」とし「当分の間、毎週、大規模な供給があることを知っているため、市中銀行が急いで応札していないように見える」と述べた。

一部では、ドル梗塞がある程度解消され、銀行のドル資金事情が悪化の一途ではない、という観測だ。実際、銀行の外貨流動性の管理は2008年の金融危機以降、大幅に強化された。銀行は2017年から外貨流動性カバレッジ比率(LCR)規制が導入され、流動性外貨資産を管理している。

(後略)

デジタルタイムズ「1·2차 한·미 통화스와프 입찰 모두 ‘미달’(1・2次 韓・米通貨スワップ入札すべて「未達」)より


これは日銀がやっている「ドル供給オペ」と同じものです。

ドル供給オペとは、日銀が低金利で民間金融機関に米ドルを貸し付けることです。
市場が不安定になるとドル調達にかかる費用が割高になり、民間金融機関では充分なドル調達が出来なくなることがあります。

国際決済通貨であるドルが不足すると、更に経済が萎縮するなど、困ったことになるのですが、各国が勝手にドル紙幣を印刷するわけにはいきませんし、FRBが他所の国の民間金融機関に勝手にドルを融資するわけにもいきませんので、各中央銀行を通じてドルを供給できるようなラインを構築しています。
中央銀行FRBから短期借り入れを行って入手したドルを、それぞれ自国の民間金融機関へ供給するわけです。
これはLiquidity Swap Arrangementと呼ばれるもので、直訳すると「流動性スワップ協定」になります。日本では「為替スワップ協定」と一般的に呼ばれます。
※飽くまで民間にドルを供給するためのものですから、国の外貨準備高の補填に使える通貨スワップ協定(Currency Swap Arrangement)とは違います。


日本経済新聞の報道によると、3月17日に日銀は323億ドル(約3兆4千億円)規模を落札しており、以降も入札を続けています。
下の画像はFRBが公開しているドルの流動性スワップの規模です。日本のみならず、欧州でも枠が一気に拡大しているのが分かります。

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この手の入札は実際に必要だから行うというより民間の金融機関に、いつでもドルは供給できる、という一定の安心感を与える役割もあると思われます。


デジタルタイムズの記事では、韓国市場のドル需要が思っていたほど高くないのでは?という見方が示されています。

ただし、4日ほど前に中央日報が韓国の外貨準備高が90億ドル減ったと報道しています。リーマン以降最大の減少幅とされています。(記事中で外貨準備高に一切関係ない通貨為替スワップを持ち出していたので鼻で笑ってスルーしていました)

外貨準備高が減少する最も大きな要因の一つには、為替介入があります。為替安を食い止める実弾として使われるためです。
流動性スワップ協定(為替スワップ協定)で調達したドルは外貨準備高の補填には使えないので直接的には役に立ちませんが、このままウォン安が進み国内金融機関がドルの調達難になったときには大事なセーフティネットになります。(つまり外貨準備高の減少と応札額の増加が同時に起きてからが本番か)


現状、韓国には外貨準備高の減少を補填できる「ハードカレンシー」の通貨スワップ協定がありません。
上から目線でチラチラ日本を見てくるのは、日本円がハードカレンシーだからですが、記事のコメント欄では相変わらず通貨スワップと為替スワップを混同している人たちが「ドルが答え」と喜んでいらっしゃってまして…でも日本としてはその方が有り難いかもしれません。
二国間通貨スワップ協定の申し入れがあっても「え?韓米通貨スワップがあるじゃないですか」とすっとボケられますから。