誰かの、何かの責任にしたい話

残念なことに、韓国で再び感染拡大の懸念が出てきてしまいました。

6日から一部始まった制限解除(「社会的距離を置く」)とは、全く関係のないところでの感染拡大です。
まだ自粛期間中の今月2日、ソウルの梨泰院(イテウォン)にある5つのクラブをハシゴした通称「容認66番確定者」による伝播とされています。(対策本部はこの人以外にも要因はある、と言っています)


この件は「社会的距離」を保ちながら学校再開など、徐々に通常生活に戻っていこうとしていた局面で起こったことで大きく注目されました。

そこに追い打ちをかけるように、66番確定者の動線に「ゲイクラブ」が入っていたことで、性的マイノリティに対する嫌悪にまで発展しています。


聯合ニュースの記事からです。

「梨泰院集団感染」に大きくなる性少数者嫌悪...「防疫に役立たない」


(前略)

容認66番患者のAさんは、今月6日にコロナ19確定判定を受けた。動線追跡の結果、彼は確定判定を受けた4日前の今月2日未明、梨泰院一帯のいくつかのクラブに行ったことが分かった。クラブの中ではマスクを使わないことが確認された。

Aさんの確定事実は6日、マスコミを通じて初めて知らされたが、翌日の7日、Aさんが梨泰院で「ゲイクラブ」を訪問したという報道が出ると議論が急速に拡がった。当日、国内のポータルサイトには「ゲイ」、「ゲイクラブ」などの単語が一日中リアルタイム検索後にあがった。

社会的距離を置く期間にクラブを訪問したこと自体が批判の対象とされたが、匿名性が保障されるオンライン空間を中心に性少数派集団全体への非難世論が登場した。

あるネチズンは関連記事に付けたコメントに「新天地*1に続いてゲイまで非正常な集団が正常な人々に被害を与えている」とし「釜山クラブは無事越えて行ったが、ゲイクラブでは何をして感染するか分からない」と書いた。このコメントは、1千回以上の推薦を受けた。

別の記事では「コロナ19より深刻なエイズ(AIDS・エイズ)が拡散する災害が始まるだろう」とし「冷静さを保ち、同性愛差別禁止法を食い止めよう」というコメントも走った。

(中略)

Aさんが自分の性的嗜好を自ら明かしたわけでもないのに、該当クラブを訪問したという理由だけで性少数派と断定され、続いて性少数派集団全体がひとまとめに非難される状況となった。

(中略)

「韓国ゲイ人権運動団体友人の輪」は、去る7日、論評で「診療を受けることが、当日その場所にいたことを証明し、すぐに性的嗜好を晒すことと同じ状況」としながら「アウティング*2に対する不安と恐怖を造成するマスコミ報道は確定患者と接触したこれらを萎縮させ、防疫網の外に紛れ込ませるだけ」と主張した。

(中略)

専門家は、今回の容認66番患者確定後、性少数者に加えられた非難は、災害などの危機状況で繰り返される社会的弱者に対する憎悪と差別だと指摘する。

特に、このような憎悪と差別はむしろ防疫に否定的な影響を与えるため、注意しなければならない。

(後略)

聯合ニュース「'이태원 집단감염'에 커지는 성소수자 혐오.."방역에 도움 안돼"(「梨泰院集団感染」に大きくなる性少数者嫌悪...「防疫に役立たない」)」より一部抜粋


「誰かの責任」、「何かの責任」にすることで、「あれの落ち度であるから叩かれて当然」、「あれを責めている私は正しい」と安心したいのでしょう。
実際は逆で、叩くために悪くもないものを「悪い」と定義しているに過ぎません。


66確定者の行動は確かに軽率だったかもしれません。でも、それだけです。
この人だって元は感染(うつ)された側で、いわば被害者です。この人だけの責任にするのはおかしいですし、趣味嗜好や性的志向はもっと関係ありません。


危機や災害時に弱者やマイノリティが犠牲になるのは事実でしょう。
人間が根源的に持っている排除欲求…これは生存欲求と同義だと思います。ミもフタも無い言い方をすると、「自分たちが生き延びる確率を上げるために、誰か(弱者・少数者)を犠牲にする」、これがこの欲求の正体だと思います。


欲求である以上、無くなりません。
それでも、「情」を示すために「恨」を振りかざす話でもしたように、私はこうした動物的な反応がどうも好きになれません。
理性である程度コントロールできてこそ「人間」ではないかと思いますし、そうありたいと思っています。


*1:キリスト教系のカルト教団とされる。2月に集団感染を発生させた。

*2:他者により性少数派であることを勝手に暴露されること。