日本政府を相手にした損害賠償訴訟、主権免除を認めるかは裁判所の判断に任せる、という話

年明け早々、1月8日にある裁判の判決が韓国内で出ます。
2016年12月に(自称)元・慰安婦とその遺族たちが日本政府を相手に1人当たり2億ウォン(約1,800万円)の損害賠償を求めて起こした訴訟です。
日本政府は「主権免除」を理由に裁判に応じていません。

原告や原告の代理人である弁護士が何度か「日本の主権免除は認められない」という趣旨の声明を発表しています。
過去の経緯についてはこの辺とかこの辺とかこの辺の記事でも触れています。ご参考までに。

判決に先立ち韓国政府の動きはどうでしょうか?法務部、外交部、人権委員会などが資料をまとめたそうですが、判断は裁判所に任せる、と極めて消極的なようです。


ヘラルド経済の記事からです。


日政府相手の慰安婦損害賠償提訴、1月判決...韓日関係の新たな変数、「主権免除」かどうかがカギ


(前略)

28日、国家人権委員会と法務部、外交部が共に民主党チョン・ヨンギ議員室に提出した資料によると、各省庁は日本軍慰安婦被害者たちに対する損害賠償訴訟が主権免除の事案に該当するかどうかについて「裁判所で判断する問題」とし保留的な姿勢を取った。また裁判所で主権免除を認めない場合、国際法違反に該当するかどうかについても「裁判所の職権で判断する事案」として消極的な姿勢を取った。

(中略)

外交家は判決結果を韓日関係の新たな変数と見ている。もし慰安婦被害者たちが一審で勝訴したにもかかわらず、日本政府が判決を履行しない場合は裁判所は在韓日本大使館の敷地や在韓日本文化院・資産に対する差し押さえ措置をとることができる。 この場合、日本政府は徴用被害者が日本企業を相手取って起こした損害賠償訴訟の最高裁判決と同様、韓国政府が「韓国内の日本資産を現金化しない」と確約するまで関係改善はできない、という立場を固守する可能性がある。主権免除を認めた場合、慰安婦被害者らと人権団体の反発が激しくなる見通しだ。

(中略)

政府がこのように中途半端な態度を取ったことで、今回の事案が強制徴用賠償判決のように韓日関係の新たな葛藤の火種になり得るという憂慮も出ている。韓日関係と強制徴用被害者の権利実現のいずれもが膠着状態に陥るのではないか、ということだ。強制徴用被害者たちの権利実現に対しても、政府は原則的な立場だけを繰り返しており、裁判所と弁護団が韓日関係の硬直に対する負担を強いられる構造になった。

外交部の当局者は「裁判所の判決を中止しながら韓日関係の改善だけでなく、被害者の権利実現を追求していく」とし「結論が出ていないだけに、予断を許さない状況だ」と述べた。

ヘラルド経済「日정부 상대 위안부 손배소 1월 선고..한일관계 새 변수, '수권몀제' 여부관건(日政府相手の慰安婦損害賠償提訴、1月判決...韓日関係の新たな変数、「主権免除」かどうかがカギ)」


どちらにせよ韓国政府の立場は苦しくなるでしょう。
慰安婦・徴用工という二大被害者カードを安易に使いすぎたんでしょう。

この記事を紹介したのは韓国政府の何もする気がない消極的な態度が分かることと、日本の主権免除は認める気がないだろうな、という空気が分かること、あともう一つ、記事についていたコメントが「情治国家」として象徴的だと感じたからです。
記事には次のようなコメントがありました。

司法部が再び審判台に登るということだ。
裁判所が神聖な理由は主権を持つ国民から司法権を委任されており、我が国は法治主義を根幹にしているためだ。
国民が納得できない判決が続く場合、これ以上裁判所は神聖さを持っていないことになるだろう。
裁判官たちよ...国民はあなたたちの判決文を見守っているということを忘れるな。


法治主義」と「国民が納得できる判決」が同列にある、これが既に矛盾しています。
国民すべてが納得できる判決など無いわけですが(それがあるなら裁判はいらない)、それはちょっと置いておいて。
法とは国民が納得できるものではなく、法だから納得しなければいけないものです。納得する(させる)ための「理屈」です。だから「悪法も法となる」という問題が起こるわけです。
国民が納得できないのであれば、それが悪法である可能性もありますが、同様に前提がそもそも間違っている可能性もあるわけで、今回のはまさに後者だと思います。

発端は国際条約違反状態を放置した韓国で、そのことを正当化するためには日本の主権免除は認められない、となります。そのための理屈をアレコレこねくり回さなければなりません。
その過程で慰安婦の「嘘」、徴用工の「嘘」が肥大化していったのが今の日韓関係の捻じれの根本原因です。

関係改善のために日本ができることがあるとすれば、韓国の嘘に妥協することではなく「そのやり方では上手くいかない」というメッセージを発信し続けることだけでしょう。
ベタベタ仲良くするだけが関係改善ではありません。
今年は「社会的距離(ソーシャルディスタンス)」という便利な言葉が生まれました。日本と韓国もお互い適切な(近づきすぎない)社会的距離を守りましょう。