「東方礼儀之邦」は過去のものではなかった話

韓国の公務員が韓国を中国の「属国」と発言し、問題になっています。
中央日報などの日本語訳記事をネット配信しているメディアでも報じている件なので、ご存知かもしれません。
公式の立場ではなく、あくまで個人の考えとされています。それでも官公庁のスポークスマンともあろう人が、メディアとの電話インタビューの中で発する言葉と考えると驚きです。

また、最近の別の記事と併せて見ると、単純に個人の考えや発言と片付けてしまっていいものなのか?無意識レベルで刷り込まれている「礼儀」なのでは?と思える部分もあります。


ペン・アンド・マイクの記事からです。

「韓国は中国の属国」発言、波紋を生んだ一言、食薬処「謝罪申し上げる」


食品医薬品安全処(食薬処)のある職員が最近、中国産キムチの管理政策を説明する過程で中国を「大国」、韓国を「属国」と表現して問題になったことを受け、食薬処が公式に謝罪した。
食薬処は2日、立場文を通じて「ある職員が報道機関に中国産キムチ関連の政策を説明し、韓国を属国と表現したことがある国民にお詫びする」と明らかにした。

食薬処は「職員の誤った発言は食薬処の公式の立場ではない」とし「報道官室所属主務官が記者の電話質問に関して説明する過程で間違いがあり、直ちに電話を掛けて取り消して訂正した」と説明した。

(中略)

議論になった報道官室職員の発言は、中国の「裸キムチ」映像*1と関連して輸入食品の安全管理問題に言及する過程で出た。
この職員はメディアの取材陣に中国が大国であるため、韓国がハサップ(HACCP・食品安全管理認証)を要請すれば気分を害する、という趣旨の発言をしたという。

(後略)

ペン・アンド・マイク「'한국은 중국의 속국' 발언, 논란 일자 식약처 "사과드린다"(「韓国は中国の属国」発言、波紋を生んだ一言、食薬処「謝罪申し上げる」)」より一部抜粋


「属国」云々が問題ある発言なのはもちろんその通りなのでしょうが、もう一つ「相手が大国であるから文句が言えない(言うべきじゃない)」、こっちも相当問題では?と思います。
こういう「身の程を弁えた態度」的な発想についてがここからの話のポイントになります。

日本語の「礼儀」に相当する中国語は三種類あります。「礼貌」「礼节」「礼仪」。
このうち「礼貌」は日本人が「礼儀正しい」と言うときに近いです。相手の態度に好感が持てた時の感覚です。「あの店員さん、感じ良かった」みたいな。

「礼节」は「エチケット」の感覚です。クシャミをするときは手で口を覆って横を向く、食べる時クチャクチャ音を立てない、道を譲ってもらったら目礼する、とか。

「礼仪」、実はこれが「礼儀」と同じ漢字なのですが、「儀式」の「儀」が入っていることからも分かるように「場(地位)に相応しい態度」みたいな意味が含まれます。TPOを弁えた「暗黙の社会的ルール(慣例)」に従った態度のことです。
捉えようによっては「空気を読む」ことですが、逆に考えると目上に「忖度」する...偉い人は偉そうに、そうじゃない人は卑屈な態度を取ることが「マナー」になります。もっと乱暴に言うと「身の程を知った態度」を取ることです。

以上を踏まえて中央日報の4月1日の記事です。こちらは日本語なので一部だけ抜粋します。

中国の「文化的特性および考慮事項」項目に「古代から中国は天子の国、すなわち天朝と呼ばれた」「現世的な特性が強い中国人は世界最高水準の雄壮で華やかな皇帝文化を作った」などと紹介した。あわせて「56の多民族で構成された中国文化は世界で由来を見つけられないほどの文化的多様性と外来文化に対する包容性を持つに至った」とも書かれている。このように中国文化を称賛して尊重する表現が至るところに登場している。

反面、日本の「文化的特性」項目には「自分たちの身分に相応する地位を持ち、そこから外れない行動をすることを重視する」「日本人は自身が持っている本心を明確に出さずに自身が属した組織や団体の意見に従う傾向があるが、これは組織や集団の目標を安定的に達成しようと思うところから始まる。これを通常、日本人たちの本音(個人の本心)と建前(社会的規範に基づいた意見)といって、このような背景を理解できない外国人は日本人が陰険で信じられない民族だと誤解する場合があるが、日本人は相手の本音と建前を自然に読みあい、これに合わせていく」と紹介した。誤解するなとは断っているが、「陰険」「信じられない民族」という表現は聞き方によっては蔑視発言としても受け取ることができるような部分だ。


先に紹介した「属国」発言と併せて見ると、韓国は「礼仪」を尊守した態度で上位である中国のことを書き、下位である日本のことを書いています。
「身の程を弁えた態度」に徹し、日本についても「自分たち(日本)の身分に相応する地位」として評価しているわけですね、流石は「東方礼仪之邦」の外交部です(褒めてません)。

外交部の態度がこのザマです。「属国」「中国にはモノ言えない」は果たして食品医薬品安全処の職員1人の個人的見解なんでしょうか?
「自分たちの身分に相応する地位を持ち、そこから外れない行動をすることを重視する」、すくなくとも中国に関してはここは日本ではなく韓国の自己紹介だと思うのですけれど。

*1:昨年6月に中国のSNSに公開された動画では、男性が大量の白菜が入れられた容器に裸で入り、白菜を洗っている様子が確認できる。