韓国大統領候補の「対日政策」の話

韓国のカトリック系新聞がイ・ジェミョンさん、ユン・ソクヨルさん両陣営の政策担当者との対談を行いました。
今回で3回目だそうでテーマは「日韓関係」について。ちょっと長いですが、インタビュアーの質問がなかなか切れ味鋭いです。

テーマがテーマだけに具体的なはっきりした回答というのはありません。が、両陣営のスタンスの違いみたいなものは若干見て取れます。

 

 

京郷新聞の記事からです。

「新たな韓日パートナーシップ構想」 VS 「過去史に埋没しない」[大統領選挙陣営激突]


大統領選挙を控えた候補たちも簡単には答えられない分野がある。しなければならないという「当為」と、国民感情という「現実」がぶつかる場合だ。「民心こそ天心」である候補の立場では議論を自ら招く必要はない。これに対しは原則レベルの答弁をするか、「沈黙」するのが最善の戦略となる。その代表的な事例が「韓日関係」だ。

(中略)

ところが彼らの沈黙は大統領選挙公約に「ミッシングリンク(失われた輪)」を作るという問題がある。イ·ジェミョン、ユン·ソクヨル両有力大統領選候補は米中競争が深刻化する状況の対応策として「韓米同盟」の重要性を強調する。東アジアの域内均衡は米国が提供する安全保障にかかっているだけに、これは「模範答案」である。ただし、米国の東アジア戦略は依然として「韓米日三角安保体制」形態が基本軸である。これは「ハブ·アンド·スポーク」(Hub & Spoke)方式で、米国という中心軸に韓国と日本が独立した車輪のようにつながっている形だ。韓国と日本は一定の役割を分担し「安保分業構造」を完成する。すなわち、米国との関係を強調すればするほど、自分の意思であれ、他意であれ、韓日関係を改善しなければならないという「当為」の問題に直面することになるということだ。

有力候補らも同様の事実を知っている。明示的であれ黙示的であれ、いずれも「韓日関係」改善の意志を明らかにした。にもかかわらず、関係改善の前提条件である過去史問題をどのように解決するかは明らかにしない。

(中略)

これに対して京郷新聞は各陣営の政策担当者たちを一堂に呼んで話し合う対談の3番目のテーマとして「対日政策」を選定した。2月8日に京郷新聞で開かれた対談には各陣営を代表してソ·ヒョンウォン外交特補団共同団長(イ・ジェミョン共に民主党大統領選候補陣営)、パク·チョルヒ政策総括本部外交分科委員(ユン・ソクヨル国民の力大統領選候補陣営)が参加した。

(中略)

事案が敏感なだけにこの日の対談でも「具体的な戦略は明らかにできない」「慎重に検討する」といったあいまいな回答が出てきた。しかし、明確に確認された部分もある。両陣営とも韓日日本軍「慰安婦」合意を国家間の公式合意として認めることと、悪化の一途を辿る韓日関係を改善するという点だ。

- この5年、文在寅政府の対日政策をどう評価するか。

パク·チョルヒ(以下「パク」)「韓日関係はムン・ジェイン政府に入って急転直下に悪化した。国交正常化以後、最悪の関係だ。ムン・ジェイン政府は対日外交基調を「ツートラック外交」と言ったが歴史問題にだけ集中しすぎた。事実上、「ワントラック外交」をした。(...以下略)」

ソ·ヒョンウォン(以下「ソ」)「政経分離」を基本とするツートラック外交は1965年の韓日国交正常化以降、両国政府が黙示的に同意してきたものである。2012年の李明博政府の時、このような原則が崩れた。(...中略...)ムン・ジェイン政府は過去史問題と実質協力が可能な部分を分離して克服しようとしたが、国内世論などの構造的問題で限界があった。これをムン・ジェイン政府だけが特別に韓日関係改善を放置したとは考えにくい」

--各陣営は、韓日関係に対してどのような戦略を持っているか。

パク「4つに要約することができる。第一に、過去に埋没してはならない。歴史問題は重要だが、韓日間のすべての事案を圧倒させることはないだろう。未来志向的な見方で協力することは協力しなければならない。第二に、日本を敵視してはならない。価値観や体制を共有するパートナーとして協力関係を形成することが望ましい。第三に、韓半島に閉じ込められてはならない。東アジアや国際戦略で日本と並ぶ領域を排除する理由はない。第四に、未来世代を中心に新しい日韓関係を作っていくことが重要だ」

ソ「李候補は韓日関係改善を重要な外交課題の一つと認識している。1998年金大中-小渕共同宣言の根本精神に基づき、日本が過去の歴史を反省し謝罪する基調を再確認し、韓国も実用的な立場で対話を続けていけば持続的な韓日関係の発展が可能だと考える。このためにはまず、韓日首脳が会わない非正常な状況を解消しなければならない。新政権が発足すれば、韓日間の速やかなコミュニケーションを通じ、信頼の再構築に乗り出すだろう。また両国政府間の協議チャンネルだけでなく、民間政策ネットワークも積極的に活用するだろう。2025年の韓日国交正常化60周年を機に、新たな韓日パートナーシップの樹立を構想している」

- イ候補が言う「ツートラック」アプローチは、従来のアプローチとは異なるか。

ソ「2018年に強制動員に対する大法院の判決が下され、過去史問題で対立戦線が拡大した。日本は韓国を『ホワイトリスト』から除外するなど輸出規制に乗り出し、韓国はGSOMIA終了通知で対抗した。次期政府は過去の歴史問題が経済·安保対立にまで拡大した状況を解決しなければならない。(...中略...)従来のツートラックは,過去の歴史問題を放置し、実質的な協力を通じて利得だけを取ろうとしているという批判があった。これと違ってイ候補のツートラックは、歴史問題解決のための対話も真剣に推進するということだ。つまり過去史トラックと実質協力トラックを『同時に』稼動させ、問題解決のための信頼関係を築いていく計画だ」

- イ候補は「日本が歴史に対する謝罪と反省をすべきだ」と述べた。日本は反発している状況だが、ツートラックは可能なのか。

ソ「状況がこうなった決定的な契機は2019年8月、日本の韓国輸出規制とホワイトリスト除外だ。約2年が経った時点から見ると、外交的葛藤や政策方向性とは別に韓日企業が協力する動きが可視化しつつある。民間部門でも韓流と一流のような相互文化に対する好感と消費が増加している。このような変化を踏まえ韓日新政府が信頼を構築して努力すれば、ツートラックへのアプローチも機能すると思う」

- 日本が歴史に対する謝罪と反省を先にし、関係を改善するなら、事実上ワントラックではないか。

ソ「韓日国交正常化以降、過去を直視し未来を目指すということは韓日両国政府が適用してきた基本概念である。過去を葬って未来に向かうことはできないのではないか。過去を直視せよというのは我々の無理な要求ではない。すでに金大中·小渕共同宣言にも出ている内容だ。この共同宣言の精神に基づいて歴史問題の解決を推進し、未来志向の協力を図ろうということだ。これを『ワントラック』というのは間違っている」

- ユン候補の「国益を最優先にした堂々とした外交」は対日関係でどのように適用されるか。

パク「これは文在寅政府の対日政策との差別化地点だ。ムン・ジェイン政府は韓日関係を無責任に放置した。口では関係改善をすると言ったが、実践に移さなかった。むしろ韓日間の信頼関係や正常に作動するシステムを崩壊させたことが多かった。新しく構築したものはなかった。今、韓日関係こそ何もしない「不作為」に近い。これをどう改善するかが問題だ。最も重要な前提は日本を敵視するか、パートナーと見るかだ。日本を敵視してばかりいては関係改善はできない。歴史問題をめぐって葛藤することはできるが、少なくとも両国が民主主義、法治制度を運営する国家としてパートナーになる可能性は残しておかなければならない。行政府が何もしない現在の不作為状態を作為状態に戻す」

(中略)

- 日本との信頼構築前に問題が浮上する可能性もあるか。強制動員問題で国内日本企業の資産売却の手続きが進んでいるが…。

パク「万が一、現金化が実現すれば韓日関係は取り返しのつかない状況に突き進むだろう。そのような段階に進む前に韓日間で対話·協議を通じて方法を模索すべきである。イ候補は日本企業が被害者に真摯に謝罪し反省すれば問題解決案は何とかできると思う。『代位弁済』などの具体的な解決策もいくつか出ている。(...以下略)」

パク「一つの正解を出すのは難しい事案だ。司法府の判決を尊重しなければならないということは明らかな現実だ。ただ、韓日関係がさらに悪化しないよう管理する責任は政府にある。何もしない不作為状態にとどまらず、熾烈な対話と交渉に臨まなければならない。現段階で交渉戦略を具体的に明らかにすることは得にならない。外交は交渉相手がいるため、原則を持って一貫性を持って推進するが、状況を予断してはならない」

-日本軍「慰安婦」合意に対する立場はどうか。現政権は完全な破棄でも持続でもない曖昧な立場だ。

ソ「昨年1月、文在寅大統領が慰安婦合意は韓日政府間の『公式合意』と明確にしただけに、これを尊重する。ただし慰安婦合意の核心は『日本側の率直な謝罪と反省』だ。被害当事者の被害者がどのように受け入れるかを中心に合意を補完して進展させる案を模索する。(...以下略)」

パク「慰安婦合意当時、韓国政府は被害者を説得しようとする努力が不十分で日本は心からの謝罪を渋った。ムン・ジェイン政府は執権後、慰安婦合意を批判する報告書をまとめ韓国内でも相当な異見があったにもかかわらず和解·治癒財団を解散した。問題は、このような決定後に後続措置を取ったわけでもなく、再交渉もしなかったという点だ。そのままそっとしておいた。日本軍『慰安婦』問題は被害者たちが一人でも生存している時にその方々の名誉と尊厳を尊重する形で解決しなければならない。このため韓国政府が単独でできることがあり、日本と追加交渉をする余地がある部分もある」

- 日本は慰安婦合意をめぐって、これ以上交渉しないと言っているが。

ソ「日本がこの問題ではこれ以上対話しないと言ったのは事実だ。どの政府が発足してもジレンマになるだろう。ただ首脳が会って信頼を構築するなら、解決策があるだろう。(...以下略)」

パク「ムン・ジェイン政府は初期、慰安婦合意を政府間合意と認めるかどうかについて明確な立場を示さなかった。最初は合意そのものを崩そうとしたが、後になって政府間合意と認めた。もし最初から政府間の合意と認めていたなら合意の足りない部分を修正することができただろう。すなわち、合意ということを認めて、その枠組み内で補完するのが正常な方式だが、これをしなかったのだ。過去の問題を批判的な姿勢で解決しようとしたが、すべての問題が過去の歴史に埋もれた状況を招いた。歴史問題から解決しなければ何もしないという無責任な姿勢では問題を解決できない。包括的交渉を通じて解決の機会を作らなければならない」

- 日本軍「慰安婦」被害者イ·ヨンスさんは該当問題の国連拷問防止委員会(CAT)への付託を要請している。どうのように考えるか。

ソ「国際司法裁判所や国際機関に訴えるのは不可能なことではない。ただ、現在の状況で国際機関がどちらか一方の手を上げた時、これを両国国民がどう受け止めるかという問題がある。結果を受け入れることに国民的共感が形成されているのかという側面だ。(...以下略)」

パク「この問題は第3国の介入や国際機関の判決を期待するよりも当事者である韓日両国が解決することが最も望ましい。国際司法裁判所に付託することが慰安婦問題の究極的な解決につながるのか、日本の態度変化を導くのか、該当判決が被害者被害者の名誉と尊厳性の回復に役立つのかなどをもう少し慎重に考えなければならない」

(中略)

- 過去の歴史問題をめぐって日本と葛藤が続いているため、対日関係改善はこれ以上重要ではないという指摘もある。

ソ「実際、経済統計上、韓日交易や経済協力が縮小する傾向を見せている。地域戦略の面で両国間の利害関係が変わった面もある。しかし韓国と日本は国益を追求する上で依然として重要な隣国だ。両国の経済も相互依存的関係に統合されている。特に米中戦略競争という大転換時代には、韓日両国間の戦略的協力の必要性がさらに大きくなるだろう。特に安保面で韓日米協力と韓日協力は相互シナジー効果を期待できる。このような観点で日本が韓国に対するホワイトリストの復元など速やかな信頼回復措置に乗り出し、GSOMIA問題も安定的に解決しなければならない。(...以下略)」

パク「GSOMIAは韓国のために必要だ。北韓の脅威が大きくなる状況で韓米日協力は必要だと考える。同盟を結ぶかどうかの問題なら、これはレベルの違う話だ。外交安保事案に主権的認識を持って、韓国の必要に応じて決定していく。CPTPP問題は、5年前に早く加入申請をすべきだった。(...以下略)」

(後略)



京郷新聞「“새로운 한일파트너십 구상” VS “과거사에 매몰되지 않을 것”[대선캠프 격돌](「新たな韓日パートナーシップ構想」 VS 「過去史に埋没しない」[大統領選挙陣営激突])」より一部抜粋

具体的になにをどうする、という部分は見えてきません。
私が感じた両者の違いは、イさん陣営は前提として常に「日本の謝罪」が先にあるべき、ということです。とにかく何をやるにもまず「日本の謝罪」から始めましょう、ということですね。韓国における謝罪は「相手に屈する」を意味します。

他方ユンさん陣営は「日本が悪い」が前提にあるにしても、積極的にメリットに目をむけるべき、という感じです。少し乱暴に言うと、問題は一部棚上げすることも選択肢、とも取れるように思えました。
1965年以降、日韓は基本このスタンスでしたから、その状態に戻すということですね。それなら日本の納得を得やすいと考えているのでしょう。

 

慰安婦合意については、その核心は「不可逆的解決」です。
不可逆的に解決したからこそ日本政府は再交渉の意思はないとしているわけです。それを「補完」とか「追加交渉」とか意味が分かりません。