VOAによるムン政権の対北政策総括の話

今月9日の韓国大統領選投票日まで一週間を切りました。以降、世論調査は非公開になります。直近の調査でイ・ジェミョンさん43.1%、ユン・ソクヨルさん46.3%となっており接戦が予想されます。
それと、野党候補だったアン・チョルスさんがここに来て出馬を取り止め、ユンさんに一本化することに合意しました。
候補一本化は普通は票の分散を防ぐのですけれど、アン・チョルスさんはずっと「候補一本化はしない」と言っていたこともあり、ハンギョレによると国民の党の掲示板には200件近く関連投稿が行われ、候補一本化を伝えた公式Youtubeチャンネルの動画には8000件を越える批判コメントが殺到しているとか。
これがどのように影響してくるのかは分かりません。

それはさておき、VOAがムン政権の総括のような記事を出しました。
他所の国の大統領を勝手に総括とは、ちょっとどうなのかという気がしなくもありませんが...VOAは独立した報道機関ではあれど米議会から政策資金が出ている実質国営メディアです。米議会がムン政権の5年間をどのように見たか、次期政権に何を求めているか、その一側面が伺えるでしょう。
「韓国20代大統領選挙特集」と題された連載記事で、今の所6本出ています。

 



VOAの記事からです。

[韓国20代大統領選挙特集]1.文在寅政府の対北政策評価...「兵器技術の進展放置」


(前略)

北韓日本海*1上に弾道ミサイルを発射し、新年初の挑発信号弾を発射した先月5日、文在寅韓国大統領は北韓に対して糾弾の代わりに対話の綱を離さないというメッセージを出しました。
任期の初めから明確に提示した対北包容、関与政策を任期最後の瞬間まで維持するとの意志を重ねて明確にしたのです。

(中略)

しかし文在寅政府の任期を通じて続いた融和的対北アプローチは同盟国はもとより北韓の呼応も得られないまま任期末の北韓の相次ぐ兵器試験で時効になったと評価されています。

(中略)

何よりも文在寅政府が北韓政権を過度に信頼し、そのような前提に基づいてあまりにも多くのエネルギーを北韓問題に注ぎ込んだことが敗因だとの指摘がワシントンから出ています。
エバンス・リビア国務省副次官補代理(東アジア太平洋担当)は24日、VOAとの電話インタビューで、韓国と北韓が「互いに違う旋律に合わせて踊り、また全く違うゲームをしていた」とし、目標地点が異なる状態で行われたムン大統領の関与の試みを失敗の原因として挙げた。

(中略)

実際、米朝対話、南北対話の核心議題である「非核化」に北韓がどれだけ準備されていたのか、そもそもそのような意図があったのかどうかを慎重に調べる必要があるという指摘は、ムン大統領が北韓との関与を本格化するときから提起されてきました。

金正恩政権のいわゆる「非核化の意志」は、2018年にムン大統領の特使団が平壌を訪問して帰国した直後、大きく浮上しました。
当時、大統領府国家安保室長だったチョン·ウィヨン現韓国外交長官は、訪朝結果を説明し「北韓が非核化する意志があり、ドナルド·トランプ米大統領(当時)に会うことを希望する」と明らかにしました。

(中略)

しかしワシントンでは金正恩委員長が述べた「朝鮮半島非核化」が「北韓の核放棄」を意味するものではないという事実は、すでに以前から既成事実として受け止められていました。

(中略)

リビア前副次官補代理は「韓国の進歩政権と文在寅大統領、そしていわゆる左派と呼ばれる人々は、北韓を包容すれば彼らが変わると信じている、しかし悲しいことにそれは事実ではなく、北韓は何度もこれを証明し続けてきた」と述べました。

金正恩は非核化問題で進展できるという認識を米国と韓国に吹き込んだと考え、これを土台に北韓の核計画の3%にすぎない寧辺ウラン濃縮施設を受け入れ、70%の制裁を解除するよう要求した」と説明しました。
しかし、これが政治的災いになることを知ったトランプ元大統領は北韓の要求を受け入れず、北韓はこの時から仲裁者の役割を自任したムン大統領を責め始めたと、ベネット上級研究員は指摘しました。

(中略)

さらに2020年6月、北韓が南北交流の象徴である開城南北連絡事務所を爆破し、事実上、ムン大統領の北韓関与の努力は最大の危機に直面します。

(中略)

北韓制裁の緩和など、柔軟なアプローチを一貫して促してきたケン·ゴス米海軍分析センター敵性局分析局長は文在寅大統領は一度も(韓半島)議題を主導的に導いたことがない」と指摘しました。「トランプ元大統領がシンガポール金正恩委員長と会談すると決定した瞬間から、この主導権を奪われた」ということです。
特に2019年トランプ前大統領と金正恩国務委員長の板門店会談の際、文在寅大統領が同席すらできなかった状況を代表的な例として挙げています。

(中略)

ムン大統領はその後、米朝対話が長期膠着状態に陥った状況で「終戦宣言」というカードを取り出して再び米朝対話の架け橋の役割を試みたが、終戦宣言当事国の積極的な支持を引き出すことができず、動力がほとんど消えたという見方が支配的です。

(中略)

ワシントンでは特に、ムン大統領の関与と包容一辺倒の政策が北韓の人権実態に背を向ける結果につながったという批判が絶えず提起されてきました。
ムン大統領は2018年の南北首脳会談で、ビラ散布を「敵対行為」と規定することに同意し、これを中止することにし、韓国政府は昨年から国会を通過した対北ビラ禁止法を施行しています。
また韓国は2019年から3年連続で国連の北韓人権決議案共同提案国に参加せず、北韓の人権改善に向けた国際社会の努力に対し消極的な態度で一貫してきました。

(中略)

マニング研究員は「ムン大統領が南北間和解に成功したならともかく、結局、韓国やムン大統領は結局何も得られなかった」とし「これは北韓に一方的に譲歩する時によく起こることだ」と指摘しました。

リビア前副次官補代理は「韓国の進歩政権はいつも強力な人権意識を持った人々が率いてきた」とし「北韓問題について彼らが記憶喪失症にかかったような態度を見せることと、人権問題に対する自分たちの根本的な約束を忘れたという点は非常に残念だ」と述べました。

(中略)

クリングナー研究員も「人権弁護士だったムン大統領を含む多くの韓国政府関係者が北韓の人権を擁護する問題については異常に沈黙している」とし「これは特に失望させられることだ」と批判しました。

これに先立ち米国務省は昨年発刊した全世界人権報告書「韓国編」で、韓国政府が脱北者などの対北人権活動を制限していた事実を指摘しました。

(後略)



VOA「[한국 20대 대선 특집] 1. 문재인 정부 대북정책 평가..."무기기술 진전 방치"([韓国20代大統領選挙特集]1.文在寅政府の対北政策評価...「兵器技術の進展放置」)」より一部抜粋

北朝鮮への宥和政策支持派の人にまでダメ出しされるムンさん。宥和策が良い/悪い以前に主導的に何もしなかったことが論外ってわけです。
最終的には人権問題に対する「ネロナムブル(ダブルスタンダート)」な態度を批判する形になっていますが、全体通して韓国の対北政策は全く評価されていない赤点と言えるでしょう。

 

関連記事の2本目は次期政権への期待として「包括的同盟の役割担当」について、3本目はイ・ジェミョンさんの「主要外交政策について」、4本目は「日本との関係改善について」、5本目はユン・ソクヨルさんの「主要外交政策について」、6本目は次期政権へ向けた「対北人権改善案について」となっています。
日本に関係しそうな内容の箇所のみピックアップして紹介していこうと思います。

*1:原文は「東海(동해:トンヘ)」