駐日大使に内定したユン・ドクミン(尹徳敏)さん。4月下旬には政策協議団の一員として来日しており、過去、パク・クネ政権当時に外交部の下部組織である国立外交院の院長を務めていた人です。
私は専門家でもなんでもありませんけれども、パク・クネ政権の外交政策はなんというか...迷走していたと思えます。
任期中盤まで日米と距離を取り親中に傾いていたのが終盤になってサード配置や慰安婦合意という急激な舵取りをして転覆、という印象がどうしてもあります。
そんな時期に国立外交院の院長という責任ある立場にいた人です。一体どんな考えを持っているのでしょうか?過去、日韓関係を含めどのような発信をしていたか、韓国という国の自画像をどのように描いているのか、いくつかピックアップしてみようと思います。
まずは昨年の7月に書かれたコラムから見えてくる「韓国」の自画像です。これがオチのような気もしますが...「韓国スゴイ、韓国大統領スゴイ」です。
朝鮮日報の記事からです。
大韓民国が成し遂げた奇跡、歴代大統領の功があった。
(前略)
イ・スンマン大統領は生涯独立運動に献身し、国際情勢を貫く洞察力で大韓民国を建国した。イ大統領は建国した功績だけでも崇められて当然だ。彼の最大の業績は土地改革だ。
(中略)
解放直後、韓国はアジアで土地所有の不平等が最も深刻な国だった。イ・スンマンは日帝に没収されたすべての土地を小作農に分配し、大地主制を廃止しようとした。
(中略)
フィリピン、ブラジルなど韓国よりはるかにリードしていた国が遅れを取ったのは、いくつかの大地主が国富を掌握した状況で均質な市民社会が形成されにくいためだ。新生独立国家の中で韓国だけが産業化と民主化を成し遂げ、いち早く先進国人進入できたのはイ・スンマンの土地改革でその土台が用意されたためだ。
パク・チョンヒ大統領の最大の功績は韓国国民を一大改造したことだ。数千年の貧困で自暴自棄だった国民に「できる」という精神を悟らせ、漢江の軌跡を成し遂げた。近代化と産業化はパク大統領無しには語れない。チョン・ドファン大統領は優秀な人材を適材適所に活用した。
(中略)
ノ・テウ大統領は民主化の過程で「ムル・テウ*1」と言われながら噴出する葛藤を上手く管理した。彼の真価は外交だ。冷戦崩壊の大転換期に積極的な北方外交を通じてソ連、中国と国交を結び、南北国連の同時加入を引出した。
キム・ヨンサム大統領は電撃的的に金融実名制を導入した。数千億単位だった政治腐敗が数億・数千万に縮小され、不法対北送金も不可能に成り、イ・ゴンヒ会長*2家族は11兆の相続税を納める。彼の決断で政経癒着、不正腐敗の輪を断ち切り透明で公正な国に向かう道を開いた。
(中略)
キム・デジュン大統領は未曾有のIMF事態に直面し、進歩的価値観にも関わらず公的企業の民営化、構造調整、公務員の削減を断行し、経済危機を克服した。
(中略)
2008年の金融危機は世界大恐慌に匹敵する一大事件で、世界が大きな苦痛を経験した。私たちだけがそのまま乗り切った。それはイ・ミョンバク大統領の業績だ。IMF事態のような一触即発の状況で国際人脈を総動員して電撃的に900億ドルの通貨スワップを締結した。
(中略)
政権ごとに陣営倫理から見れば、その歴史は5年ごとに否定されるだろう。大韓民国の現代史は国民の血と汗とともに歴代指導者の輝かしい業績なしには語れない。大韓民国の歴史は決して否定できない。
朝鮮日報「대한민국이 이룬 기적, 역대 대통령의 功이 있었다(大韓民国が成し遂げた奇跡、歴代大統領の功があった。)」より一部抜粋
「僕の考えた理想の大韓民国の歴史自画像」でした。
いや、なんというか...韓国の国内状況だけで発展の理由付けをしようとしているように思えませんか?そのために非常に視野が狭く、ごく一部の事例にスポットを当てた「点の視点」になっています。
恐らく「日本」(や米国)に触れずに韓国の自画像を描くためにはそうするしかなかったのでしょう。
漢江の奇跡の前提として日韓基本条約と国交正常化の話が出てこないところとか、IMF事態の立て直しはIMFから支援の条件として出されたものであることに言及していない辺りかなりあからさまな感じです。
とにかく「外」からの影響ではなく韓国の「内」から自発的に出てきた発展の流れである、とそういう視点でなければならないのでしょう。
良く言えばメチャクチャ楽観的な見方ですけれど、しかし外交の専門家がそんなんでいいのでしょうか?
韓国の発展が韓国の国内事情だけで左右されるもの、という視点は「朝鮮は独力で近代化できたはずなのに(日本に邪魔された)」という思想にどことなく親しいものを感じます。
次に徴用訴訟についてです。日経が主催したオンライン講演会にて「韓国だけの努力では解決できない」との認識を示しています。
SBSの記事からです。
駐日大使指名ユン・ドクミン、強制動員解決に「日本企業の自発的協力歓迎」
ユン・ソンニョル政府初代駐日大使に指名されたユン・ドクミン元国立外交院長が日帝強占期強制動員労働者問題解決と関連して「自発的な日本企業の協力があれば歓迎する」と明らかにしたと日本経済新聞が報道しました。
ユン前院長は26日*3、日本経済新聞が東京で主催した国際会議「アジアの未来」のオンライン講演で、強制動員労働者問題に対して「韓国だけの努力では解決できない」としてこのように話しました。
日本企業の自発的な協力が何を意味するのかは明らかにしていませんが、強制動員被害者に対する謝罪や被害者支援基金の出捐などを意味するものと分析されます。
(後略)
SBS「주일대사 낙점 윤덕민, 강제동원 해결에 "일본 기업 자발적 협력 환영"(駐日大使指名ユン・ドクミン、強制動員解決に「日本企業の自発的協力歓迎」)」より一部抜粋
言い方が違うだけで言っていることは今までと同じです。
ですが「国際法違反状態の是正」は韓国だけの問題です。韓国だけの努力でなんとか出来ることです。
まずはそこからでしょうに、なんでいっつも「グランドバーゲン」方式で解決したがるのでしょうか?それで上手くいったケースってありましたっけ?
最後北朝鮮政策について。今までの「包容政策」の「前提が崩れた」としています。その「前提」とは「韓国の方が優位にある」というものです。朝鮮日報の今年4月のコラム記事からです。
[朝鮮コラム The Column] 私たちが北より優位だという包容政策の前提が崩れた
(前略)
何よりも包容政策を支えていた前提が崩れた。包容政策は脱・冷戦の産物であった。共産主義政権が連日ドミノのように倒れる冷戦崩壊の状況で我々は体制競争に勝ち、包容を通じて望む方向に北韓を変化させることが出来ると考えた。特に中国とロシアの協力を得て北韓の非核化と改革、解放を導くことが出来ると考えた。中国の戦勝記念日に西側諸国として唯一大統領が天安門に立つことまでしたが、望んだ中国の協力は無かった。
(中略※国連決議で北朝鮮への制裁が中露の拒否権発動によって出来なかった事に触れ)
中国とロシアが北韓の心強い後ろ盾になる世界となっている。今後、効率的な対北韓国際協力が可能かどうかは計りがたい。さらに「私たちが北韓より優位」という包容政策の最大の前提も揺れている。最も原始的な軍事バランスにおいて、戦術核で武装した北韓軍の登場はもはや私たちが有利だと言えなくなった。
(後略)
朝鮮日報「[朝鮮칼럼 The Column] 우리가 北보다 우위라는 포용정책의 전제가 무너졌다([朝鮮コラム The Column] 私たちが北より優位だという包容政策の前提が崩れた)」より一部抜粋
天安門に立ったのはパク・クネさんです。ユン・ドクミンさんは当時国立外交院長でしたから外交ブレーンとして何らかの助言はしたかもしれません。その反省を踏まえた考察でしょうか?