2018年と2019年、2つの脱北者強制送還事例とレーダー照射事件の話

2019年に脱北した漁師2人を韓国政府が強制送還し、のちに彼らが処刑されていたことが分かり当時のムン政権の責任問題として一部捜査が行われているという件を7月にお伝えしていました。(こちら

これと絡めて2019年のレーダー照射事件にフォーカスしている記事があったので紹介します。この時も北朝鮮の木造船を「救助」中だったとされていますが、レーダー照射事件が大事になってからは彼らの存在はほとんど有耶無耶にされてしまいました。
数日後に統一部が北へ送り返したと発表しているものの、彼らがそこで何をしていたのか、韓国への帰順の意思など不明点が多く一部で「疑惑」も提起されている、と。

ただ、記事はあくまで「北朝鮮脱北者の処遇」に関するものであり「レーダー照射の是非」ではありません。記事の趣旨的にも真相究明というより、どちらかというと「ムン・ジェイン前政権への批判」といった気配の方が強いように感じます。

 



月刊朝鮮の記事からです。

脱北漁民北送事件で再び注目を集めた広開土大王艦事件


2019年11月7日に起きた脱北時漁民強制送還問題が国際問題に飛び火している。この問題は人類普遍の良心を破った事件だ。

(中略)

さらに深刻な問題は当時、大韓民国政府がこの事件に対して色々な内容を発表したが事実ではないということが続々と明らかになっているという点だ。

集団さつ人の噂はない

ムン・ジェイン政府はこの事件が起きた当時、彼らを北韓に送還した理由について次のように発表した。第一に、彼らが16人をさつ害した凶悪犯だということ。第二に、亡命の真正性がなかったという点。

ムン・ジェイン政府のこのような主張は頭を床につき全身で北送を拒否する動画が公開されたことで説得力を失った。憲法第三条によれば2人は大韓民国国民であり、したがってさつ人犯なのかどうかは大韓民国の司法手続きによって究明されなければならない。たとえ彼らがさつ人を犯したとしても、彼らには大韓民国で裁判を受ける権利があり、彼らを北送する法的根拠は国際法にもない。何よりも彼らが乗ってきた船舶からさつ人の決定的証拠である血痕が出てこなかった。

ムン・ジェイン政府は彼らをたった1日だけ調査した後、急いで北韓に送還した。船舶も特別な調査や検査なしに直ちに消毒して返した。2人が16人を船上で次々ところしたと言ったが、筆者はこれが事実ではない可能性が高いと考える根拠がある。「うわさ」だ。民間メディアのない北韓の特性上、社会面に載せられるニュースは噂を通じて広くそして急速に広がる。

(中略)

北韓住民と時々通話するキム・ギルソン記者(現ユーチューブ『キム・ギルソン's 平壌万事』運営)の取材によると北韓に強制送還された2人の青年は金策市出身だ。ところが金策市はもちろん、ハムギョン道のどこにもこの事件に関するいかなる噂も流れていないという。被害者がなんと16人なら、その家族の話でも出なければならないのに何の気配もないということだ。

(中略)

噂の話が出たので他の事件の話も一つしてみよう。2018年12月20日に起きた広開土大王艦事件である。韓国では「日本海上哨戒機低空脅威飛行事件」、日本では「レーダー照射事件」と呼ぶ。独島北東約100キロ付近の東海大化堆漁場で韓国漁船北韓所属と見られる漁船を発見し海洋警察に報告し、大韓民国政府は海洋警察庁所属の三峰号と海軍広開土大王艦を派遣して救助作業を行った。

この過程で当時日本防衛省から韓国海軍が自国の海上自衛隊哨戒機に向かって攻撃用レーダーを照射したという疑惑を提起された。大韓民国国防部は直ちに疑惑を否認した。「攻撃用レーダーを照射した」というのは敵対行為をしたという話で、国内外で「レーダー問題」は焦眉の関心ごとだった。

(中略)

そんな中、この船はどうなったのか、この船に誰が乗っていたのかは大衆の関心から遠ざかった。2018年12月22日、統一部は「遭難した北韓漁船からは生存者3人と遺体1体が派遣され簡単な調査の後、彼らを22日に北韓に引き渡した」と発表した。

ところが、この発表は疑問点だらけだ。まず公平性の問題だ。第一艦隊旗艦である広開土大王艦、5000トン級警備救難艦である三峰号が木造船1隻を「人道的に救助」するために同時に出動したのは異例の事件だ。

(中略 ※2018~2019年の1年間で日本沿岸に漂着する北朝鮮漁船やその残骸の事例が100件を超えるデータを紹介し)

もし広開土大王艦と三峰号が「小さな木造船1隻を人道的に救助」するために出動したのなら、ほかの船が漂流するときはなぜ出動しなかったのか説明が必要だ。韓国側の艦艇がどのようにして該当水域にあんなに早く到達できたのかも疑問だ。

北韓内部の噂によると「必死の脱出」を敢行したこの船の搭乗者は現役軍人だ。キム第一書記が元山・葛麻艦構築を現地指導する際に暗さつを計った兵士たちがいたという。暗さつは未遂に終わり加担者全員が逮捕されたという。このうち4人が船で逃げ、日本に脱出しようとしたという。出航を確認した北韓当局がムン・ジェイン政府にある種の要請をしたとみるのは無理な推測だろうか?

確実な事実は海軍と海洋警察の同時出動を命令できる誰かが指示を下したということ、両艦艇の出動は異例のことだということ、両艦艇が木造船を「救助」したということだ。適切な調査が行われたのか、生存者を帰したのかは依然としてわからない。

(中略)

実はこの問題はすでに報道されている。2020年9月22日付けの日本のインターネットメディア「現代ビジネス」に掲載された河野克俊元自衛隊統合幕僚長(合同参謀議長)と近藤大介「現代ビジネス」編集次長の対談がそれである。この記事で近藤大介次長は「韓国政府関係者から得た情報」とし、このように述べた。

金正恩が元山・葛麻観光地区の現地指導の時、現場にいた兵士の中で暗殺を謀った人がいた。暗殺は未遂に終わり加担した人々は一網打尽にされたが、そのうち4人が逃げて船で日本に亡命しようとした。この事実を知った北朝鮮当局が南北合同事務所を通じて逮捕するよう要請し、ムン・ジェイン政府はそれに応じた。

実際、海軍と海洋警察の双方に命令できる権限を持っている機関は大統領府しかない。そしてその時、ムン・ジェイン政府はこの事件の関心を集めるためにレーダー照射事件で韓国世論を反日方向に誘導しようとした」

(中略)

再び脱北漁民強制送還事件に戻ってみよう。

(中略)

2019年11月7日、当時キム・ユグン国家安保室1次室長(2019年2月~2020年7月在職)が国会でスマートフォンを見たとき、JSA共同警備区域の中佐が「本日午後3時に北送しようと思います」と送ったメールがある記者のカメラに撮られた。国際社会が大騒ぎになった。多くの国内外関係者が送還に反対したがムン・ジェイン政府は強制送還を強行した。その報道がなかったら脱北漁民2人の送還は静かに、密かに行われたはずだ。誰も彼らの行方と真実を知らなかったはずだ。

それでは尋ねる。広開土大王艦事件があった2018年12月22日に北韓に送還された「生存者3人」は誰だったのか。なぜ脱北しどこへ行こうとしたのか。彼らを「救助」するために大規模作戦に準ずる人材と装備が動員された理由は何か。彼らは誰の決定で、どのように北韓に送還されたのか。「強制送還禁止」原則を破ったのではないか。真実を、誰が、なぜ、どんな目的で隠しているのか。



月刊朝鮮「탈북 어민 北送 사건으로 다시 주목받은 광개토대왕함 사건(脱北漁民北送事件で再び注目を集めた広開土大王艦事件)」より一部抜粋

記事内で引用されている現代ビジネスの記事はこちらのことだと思いますが該当箇所は有料部分となります。

もしレーダー照射の裏に、記事が現代ビジネスを引用する形で主張しているような事情があったとしたらユン政府にとってムン前政府に対する絶好の攻撃材料になるはずですが...現状そこまで手が届いているようには思えないんですよねぇ。