サムスンがARMをゲットするための懸案と買収以外の案の話

昨日、ソフトバンクの孫さんが韓国入りしました。空港で訪韓目的を聞かれ短く「ビジネスのため」とだけ答えたそうです。

サムスンによるARM買収は「おそらく難しいだろう」という見方を韓国メディアも出しています。理由はNVIDIAの時と同じです。
そこで各メディア、いくつか代案を出して検討していたりします。多いのが上場に向けて準備中のARMの株式(ソフトバンク保有分の一部)をサムスンに売却する案で、朝鮮日報などが触れています。しかし、記事内で財界人の話として「二人(※イ・ジェヨンさんと孫さん)が会ってみれば分かるがメディアが推測するように、何か意味のある大きな議論がなされる可能性は低く思える」とするなど、朝鮮日報自身は懐疑的なようです。

それに対して前のめり気味なのがイーデイリーです。単独買収が難しいようなら複数企業との共同買収や業務提携の可能性に言及しています。
私の読み方のせいかもしれませんが、何とかサムスンに有利になるよう考察しようとしているように思えてしまいます。最終的には「サムスンよりソフトバンクの方が困ってるんだからね!(意訳)」とまで。

 



イーデイリーの記事からです。

イ・ジェヨン ― ソン・ジョンウィの電撃的な出会い...ARM戦略的提携シナリオは?


(前略)

2日、財界によるとソン会長は1日午後3時頃、金浦国際空港を通じて訪韓し、1週間韓国に滞在するという。彼が訪韓目的について「ビジネス」と明らかにしたことを考慮すればソフトバンクの子会社であるARMの売却、または戦略的提携と関連しサムスン電子またはSKハイニックスとの協議に乗り出すものと予想される。

(中略)
孫会長のソフトバンクはARM持ち分の75%を保有している大株主だ。2016年にARMを320億ドルで買い入れ、4年ぶりに400億ドルを超える企業価値を認められた。昨年、グラフィック半導体チップメーカーのNVIDIAがARM買収に乗り出したが独占寡占議論に失敗に終わった。

(中略)

サムスン電子がARMを買収すればARMが保有している低電力アーキテクチャを活用し、システム半導体の開発に積極的に乗り出すことができる。ストラテジーアナリティクスやオムディアなどによると昨年基準でスマートフォンAPでサムスン電子の市場シェアは6.6%に過ぎない。1位のクアルコムのシェアは37.7%で、メディアテックは26.3%、アップルは26.0%だ。イメージセンサーの場合、1位はソニー(43.5%)、2位はサムスン電子(18.1%)、ディスプレイ駆動チップ(DDI)の場合、サムスン電子のシェアは25.7%、ノバテック24.6%、LXセミコン10.9%などだ。

(中略 ※ARMを手に入れればExynosなどスマホ向けチップセットの開発に拍車がかかるぞワッホイ的な)

問題は独寡占論議だ。これに先立ちNVIDIAは野心的にARMを買収しようとしたが反独占の壁を超えることはできなかった。

(中略)

ARMがすべての半導体会社の低電力アーキテクチャを提供しているため、クアルコムなどファブレス企業にライセンス(特許)を与えなかったり使用料を高く売る可能性があるため競争を激しく阻害する恐れがあるということだ。

(中略)

これに対しサムスン電子は相対的にNVIDIAに比べてシステム半導体市場の支配力が弱いため、競争が大きく阻害される可能性は低い方だ。サムスン電子のシステム半導体シェアが50%を超える製品は一つもない。

(中略)

むしろほかのライバル会社との競争がより活性化する可能性もある。競争法のある学者は「市場の支配力だけを見ればサムスン電子がARMを買収してもNVIDIAの買収方案などに比べれば独寡占論議は少ないのが事実だ」と話した。

しかしARMがほとんどのファブレスアーキテクチャを提供しているという点は依然として障害だ。IntelクアルコムNVIDIAを超えて、テスラ、Googleまでも次世代低電力プロセッサ制作に進む状況でサムスン電子がARMを買収する場合、ライバルの懸念は大きくならざるを得ない。ややもすればサムスン電子がライバルにARMアーキテクチャライセンス費用を値上げしたり供給を拒絶、またはサムスン電子だけ有利にライセンスを活用する可能性を問題提起する公算が大きい。半導体業界関係者は「ARMの低電力アーキテクチャはすべてのファブレスが活用しているため、特定企業がARM技術を独占的に活用する場合、競争者がじっとしているはずがない」とし「ARMの売却は事実上不可能なことだ」と話した。

このような理由からARM買収はコンソーシアムを通じた共同買収方式が取り上げられている。

例えば、スマートフォンAPで1位、2位、3位のメディアテック、アップル、クアルコムなどと共同買収し、独寡占論議を避ける道がある。しかし複数の企業の持ち分をすべて共有する場合、サムスン電子が自社に有利にARMライセンスを利用することが出来ずM&A効果が落ちる。今のようにARMアーキテクチャのライセンスロイヤリティを支払うのとあまり差がないわけだ。

(中略)

このような理由から、競争法の専門家らはサムスン電子がコンソーシアムを構成すればファブレス分野での支配力の少ないファブレスメーカーを組み込んで低電力半導体制作への参入障壁を大幅に下げる案も検討できると取り上げている。クアルコムNVIDIAなど巨大ファブレスの反発はあるだろうが低電力半導体制作の参入障壁を低くして、むしろ競争を活性化し、究極的には消費者が安く半導体チップを買える環境が保証されるという理由だ。ETCなど競争当局は「競争をお通じた消費者厚生」を最高目標に掲げている。

しかしARMの価値が数百兆とまで取り上げられている状況でサムスン電子以外の後発走者がそれだけ買収資金が十分なのかも鍵だ。コンソーシアムでサムスン電子の持ち分率が過度に高ければコンソーシアムではなく単一の買収者と見なされる可能性があるためだ。

このため、イ副会長とソン会長が会う場合、買収を議論するよりは戦略的技術提携などを検討する可能性という観測も提起されている。

(中略)

半導体業界関係者は「低電力半導体技術は現在、ARMが圧倒的にリードしているが既にアップルなどはARMの依存度を下げるためにコアチップ設計基盤をARMからRISC-Vに転換させている」とし「ソフトバンクの立場ではARMアーキテクチャの支配力を維持することがより急がれるだけにサムスン電子と技術提携強化により集中しながらARMの価値を育てIPOに向かう方向を模索している可能性がある」と話した。ARMの戦略的提携と関連して急がれるのはサムスン電子ではなくソフトバンクである状況だ。



イーデイリー「이재용-손정의 전격 만남…ARM 전략적 제휴 시나리오는?(イ・ジェヨン―ソン・ジョンウィの電撃的な出会い...ARM戦略的提携シナリオは?)」より一部抜粋

サムスンにとって何とか有利になるような考察をしようとしたのか、若干混乱気味の記事になっている気がします。

サムスンが単独ではなくコンソーシアム(共同事業体)でARMを買収すれば「自社に有利にARMライセンスを利用することが出来ずM&A効果が落ちる」と言っておきながら、競争力のない弱小ファブレスをまとめてコンソーシアムを構成すれば「競争を活性化できる」としています。コンソーシアムだとM&A効果が落ちると言っていた話はどこに行ったんでしょう?

最初の「M&A効果が落ちる」は、グローバルシェアを大きく取っているクアルコムやアップルなどの巨大ファブレスと組んだ時ということでしょうか。
つまり、競争力のないファブレスをまとめてその盟主にサムスンがなって「共同事業体でARMを買収」し、「参入障壁を下げて競争を活性化」とすれば規制当局は納得するだろう、と。で、買収後は盟主のサムスンが自社に有利なようライセンスを活用すれば良いと、こういうことでしょうか?


ところで、記事内で全く触れられていませんが、半導体は「経済安保」の目線から語られることも多いです。今現状、下手に競争力を刺激して新規参入してくることは望まれているのでしょうか?
共同事業体に中華メーカーが大量に紛れ込んできて中国の半導体技術力向上に寄与してしまう可能性は?
公正取引委員会がこの辺りをどのように判断するかは不透明に思えます。