FRBに直接「韓国と通貨スワップ可能か?」と聞いてみた韓国メディアの話

韓国政府はたびたび米国とのスワップについて「継続議論」を強調してきました。
副総理兼企画財政部長官のチュ・ギュンホさんが何かあると5月の米韓首脳会談で取り上げられた「安定のための協力」に含まれていると話していましたし、つい先月も米財務長官のイエレンさんと電話会談した後で同じ趣旨の発言をしています。

しかし、このチュ・ギュンホさんが突然「スワップについて言及しない」と言い出しました。12日にワシントンで行われた韓国経済説明会というイベントでのことです。外国メディアの記者からスワップ関連の質問を受けての返答でした。
国内向け、国外向けで露骨にスワップに対して態度(発言内容)を変えているわけです。「スワップ継続議論」はあくまで国内向けのパフォーマンスに過ぎないのでしょう。

で、政府の発言に一貫性が無いと感じたのか、韓国メディアが米連邦準備制度FRB)に直接「スワップどうなってます?」と聞いてしまいました。

 



SBSの記事からです。

通貨スワップ可能か..米連邦準備制度理事会に聞いてみました[ワールドレポート]


(前略)

私たちの国のように通商依存度の高い国は為替レートにより大きな影響を受けます。かねてから為替安定のために米国と通貨スワップを締結する必要があるという主張が提起されてきました。

(中略)

米国と通貨スワップを締結する場合、外国為替市場を含む経済全般に安定感を高めることができます。実際、韓国は米国と2回通貨スワップを結んだことがあります。グローバル金融危機の時の2008年とCOVID-19危機初期の2020年です。では今回も米国と通貨スワップを締結できるのでしょうか?米国で通貨スワップを担当する機関は米国の中央銀行である連邦準備制度です。連邦準備制度に韓国国内で提起されている韓米通貨スワップ締結の可能性について尋ねました。

質問は以下の4つでした。

Q1) 米国が準基軸通貨国以外と常時通貨スワップを締結したことはあるか?
Q2)韓国と同じ規模の国が為替不安を理由に米国と常時通貨スワップを締結しようとするなら考慮されるか?
Q3)一時的通貨スワップの場合、特定の国と締結が可能か?
Q4)米ドルの価値上昇で世界の外国為替市場が不安定だ。米国がこれらの国に提供できる流動性供給オプションは何か?

数回の質疑の末、若干の説明とともに連邦準備制度の方針に関する包括的な資料を受け取ることが出来ました。回答資料の内容をまとめてみると、

米連邦準備制度理事会はカナダ、英国、日本、EU、スイスの中央銀行と(常時)流動性スワップ協定を結んでいる。これは流動性供給のための措置だ。
米連邦準備制度理事会は追加で(韓国を含む)外国中央銀行9行と一時的なドル流動性スワップを構築したことがある。
③このような措置はグローバル金融市場の基調緩和に重要な流動性安全装置の役割をするため、国内外の家計と企業に対する信用供給負担を緩和するのに役立つ。

この他にも多くの内容がありますが、上に書いたものだけをよく見ても、先ほど私が述べた質問の答えを大体以下のように類推できます。

Q1) 米国が準基軸通貨国以外と常時通貨スワップを締結したことはあるか?
-ない。
Q2)韓国と同じ規模の国が為替不安を理由に米国と常時通貨スワップを締結しようとするなら考慮されるか?
-いいえ。
Q3)一時的通貨スワップの場合、特定の国と締結が可能か?
ーそんなことはない。
Q4)米ドルの価値上昇で世界の外国為替市場が不安定だ。米国がこれらの国に提供できる流動性供給オプションは何か?
ーノーコメント。

まず押さえておかないといけないのは、米国が常時通貨スワップを結ぶ理由です。回答で述べたように、流動性の供給が目的です。基軸通貨国の米国も状況によってはユーロや円貨のような通貨が必要になる可能性があるということで、言い換えれば韓国などそうでない国とはあえて常時通貨スワップは必要ないという話でもあります。特に目的が為替不安の解消ならなおさらです。
一次的な通貨スワップもやはり過去に9ヵ国と結んでいますが、これは経済規模のある国々が流動性供給に障害が生じた場合、米国経済にも負担になりかねないためです。したがって、特定の国の外国為替市場の状況を理由に単独でスワップを結ぶことは米国の目的に合致しません。最後の質問は、今年5月の韓米首脳会談の際に出された「流動性供給装置」としてどのようなものがあり得るのか、という次元で盛り込んだものでしたが具体的な回答はもらえませんでした。

米連邦準備制度理事会「為替政策は財務省所管」

上記の回答は原則的な話ですが、私たちが推進中の通貨スワップが必ずしもできないと見られるのか...疑ってみることができます。これについては連邦準備制度の回答内容の中で参考になる部分があります。
"Please know that exchange rate policy in the United States is the province of the U.S. Department of the Treasury, and questions about exchange rate policy should be directed there"
「米国為替政策は米国財務省の領域であり、為替政策に対する質問はそちらにしていただく必要があるという点をご了承ください」

かみ砕いて言うと、私たちが現在通貨スワップを推進中の最大の理由は為替レート不安定のためですが、いざ通貨スワップ担当機関である米連邦準備制度理事会は為替問題は自己所管ではないと明確にしています。米財務省が乗り出して説得すればともかく、自己所管ではなく政策上の理由で通貨スワップを結ぶはずがないのです。

(中略)

では、為替政策を担当する米財務省の立場はどうでしょうか?これはイエレン米財務長官の発言を見れば分かります。イエレン長官は現地時間11日、ある放送とのインタビューでドルの追加上昇を防ぐための当局の介入の可能性を尋ねる言葉に「市場で決定されるドル価値は米国の利益に符合する」と話しました。また「ドルの動きは(各国の)異なる政策基調による論理的結果だ」と述べました。強ドルで新興国の債務返済負担が大きくなるという指摘には「ドル高は(米国の)適切な政策を反映するもの」と答えました。続けて「ドルが安全資産であるだけに不確実な時期には安全な米国市場に資本が流入する」とし、このために外国通貨対比でドル価値が上がると説明しました。

現在のドル高は米国の利益に合致し、これは論理的結果だということで政府が乗り出して介入する意思がないという意味です。イエレン長官は昨年1月、米上院で開かれた承認聴聞会でも「為替レートは市場が決めなければならず、そのために戦う」という原則論を明らかにしています。

(中略)

まとめると、為替政策を担当する米財務省も通貨スワップを担当する米連邦準備制度理事会も、韓国の為替安定を助けるために通貨スワップに乗り出す可能性は無さそうです。また、実際に通貨スワップを結ぶとしても、その余力ですぐに為替市場に介入できるわけでもありません。常時通貨スワップ締結国である日本が先日、外国為替市場に介入し、米国の顔色を窺ったことだけでもよく分かります。英国も通貨スワップ締結国ですが、やはりドルを引き出して為替防御に使っていません。スワップの目的自体がそうではなく、米国がこれに反対しているからです。

では韓国政府当局はこのような事実を知らなかったのでしょうか?そうではないと思います。チュ・ギュンホ経済副総理はIMF総会出席のため米国を訪問した席で少なくとも現時点では米国と通貨スワップ締結の可能性が無いという点を明確にしました。チュ副総理は通貨スワップ締結と関連した質問に「サプライズ発表はないだろう」とし「通貨スワップ関連ではこれ以上話すことは無い」と言い切りました。

(中略)

現時点で考えなければならないのは可能性の低い通貨スワップよりも大統領府で韓米首脳会談の結果だと明らかにした「流動性供給装置」が何になるのかが先だと思います。韓国の外国為替市場の状況が容易ではないので政府の返事があまり遅くならないことを願うばかりです。



SBS「통화스와프 가능할까..미 연준에 물어봤습니다 [월드리포트](通貨スワップ可能か..米連邦準備制度理事会に聞いてみました[ワールドレポート])」より一部抜粋

タイトル見たときは「聞いちゃったんかYO!!」と思ったのですが...意外と良い記事でした。

ただ一点、勘違いしているのかわざとなのか、「通貨スワップを結べばスワップで調達したドルで為替介入できる」と思わせぶりな記述が気になります。記事後半の日本とか英国の部分です。
記事中でもハッキリ書かれている通り、常時通貨スワップであろうと一時的な通貨スワップであろうと、「流動性通貨スワップ」で調達したドルは市中銀行にドルを供給するためのものです。
FRBが直接、他国の市中銀行にドルを貸し付けることは出来ない(通貨発行権とか色々)ので各国の中央銀行FRBとの仲介に立ってドルを借りてくるのが流動性スワップの仕組みです。借りたドルはそれ以外に利用することはできません。いわば使用目的が限定されたドルで、中央銀行はその管理をしますが手を付けてはいけません。
つまりスワップを通じてFRBから引き出したドルを外貨準備高の補填に使ったり、為替介入の資金には出来ないということです。スワップの目的が違うとか、米国が反対しているとかどうでもいいです。単に「使えない」んです。