江原道レゴランド事態の話

韓国でレゴランド事態というのが大きな問題になっています。家計より先に企業がピンチを迎えるかもしれません。

というが、江原道の自治体が進めていて今年5月になんとかオープンに漕ぎつけたレゴランド発の流動性不安が発生しているのです。金融機関や投資家の間にはかなり動揺が広がっています。なんせ自治体が旗振りしていた事業ですから。
自治体の事業すら信用できないのであれば、況や一般企業をや、ということで最高ランクの投資格付け「AAA」の債権すら売れ残る事態が発生しています。
韓国では現在、1年以内の短期借入金だけで532兆ウォン程度となっています。

 



最初に、江原道レゴランド誘致建設について流れを紹介しておきます。
江原道でレゴランド誘致が推進中との報道が出たのは2010年11月でした。132万2千平米に5千億円を投じて宿泊施設を併設する案でした。
それから英国のマーリンエンターテインメントとの協議を進めたり国内の規制緩和や法整備アレコレを行ったりで話がまとまったのは1年後の2011年9月。2015年開業を目指して投資合意覚書が締結されました。1億ドル規模の投資合弁会社を設立、1000人規模の雇用造成など景気の良い話が出ていました。

雲行きがあやしくなったのは2013年上半期。着工予定だった工事が2度延期されたあたりからです。
この時点で把握されていた問題点は「連絡橋建設」「堤防積み上げ」「下水処理」「埋蔵文化財発掘」「マーリングループとの本契約未締結」など複数です。2013年4月~5月あたりの記事を漁ると連絡橋建設のために「国費確保オールイン」な記事が沢山出てきます。(9月に予算支援が下り、マーリングループとの本契約は10月)

その後、2014年上半期着工だった工事は下半期に再び延期され、竣工も「2018年まで」となりました。この辺りから「漂流」や「霧散の危機」な記事が出始めますが、「2017年3月グランドオープン」との公式発表が出たりもしました。

しかし2014年7月、建設予定地で先史時代(2000年前)の大規模な集落跡が発見されてしまい、発掘作業や保存の是非で揉めるなどバタバタしていたみたいですが同年11月に起工式を実施。その後も助成金不正疑惑や収賄容疑、やっぱり遺跡保存しろ運動があったりコロナ禍があったりで伸びに伸び、この5月にやっとこオープンしました。

今回、問題となったのはプロジェクトファイナンス(PF)といって、特定の事業目的の資金集めのために発行される手形です。江原道が保証する形で「江原道レゴランド建設」のために発行されたこのPF手形に不渡りが出たのです。
なぜか?江原道が「保証履行」を拒否したためです。
なぜか?上で紹介したように江原道レゴランドは度重なる工事の遅れで工事費が膨れ上がった状態です。(施工業者も何度か変更になっています)新しい江原道の知事がそれを忌避して裁判所に企業回生(破産)申請し、事実上の「自治体の債務不履行」と市場が認識したためです。

聯合ニュースの記事からです。

前任の道政の誤りを正そうとしたが「誤判」...レゴランド事態一波万波


(前略)

今回の事態の出発点は約一カ月前の9月28日に遡る。
キム知事は同日、レゴランドパーク基盤造成事業を行ったGJCに対し、裁判所に再生申請をすることにしたと発表した。
彼は「江原中道開発公社がBNK投資証券から借りた2050億ウォンを代わりに返済する事態を防止するために中途開発公社に対して回生申請をすることにした」と背景を説明した。

しかしこの判断は地方自治体に国家信用等級に準ずる高い信用度を与えてきた市場の信頼を一気に揺さぶった。
地方自治体の信用保証も信頼できないという不安感が市場に拡散し、投資心理が極度に萎縮し、企業が相次いで社債発行に失敗、資金調達に困難をきたす「金脈硬化」に繋がった。
信用に基づく債券市場で「信じられるところがない」という不信弾が落ちたわけだ。

レゴランド事態などで資金市場の梗塞が広がると政府は50兆ウォン以上の流動性供給プログラムの稼働に乗り出すなど、後手に回る形になった。

キム知事はレゴランド事態で債券市場が急激に冷え込み中央政府まで対策に乗り出すと、債務保証支給金2050億ウォンを予算に編成し、来年1月29日までに返済するとして緊急鎮火に乗り出したが、当分事態は簡単に収まらないものと見られる。

(後略)



聯合ニュース「전임 도정 잘못 바로잡으려다 '오판'…레고랜드 사태 일파만파(前任の道政の誤りを正そうとしたが「誤判」...レゴランド事態一波万波)」より一部抜粋

また、企業回生申請つまりは破産申告をしたために一部の業者で工事代金を受け取れない状況が確認されています。報道では135億8000万ウォンが未払いだとか。



レゴランド事態を受けて金融当局は不動産関連のPFのリスクチェックを実施するとのことです。
不動産関連のPFは2014年から急速に増加し始め、2013年末には35兆2000億ウォンだったものが今年上半期には112兆2000億ウォンと、3倍以上に急増しています。
また延滞率も増えています。2019年末基準で1.3%だった延滞率は昨年は3.7%に増え、今年の第1四半期には4.7%と、こちらも結構増えています。

さらに...というか、これはまだ何とも言えないんですが、一部で「IMFのときと似ている」と言っている人がいます。
ユ・スンミンという元議員の人で経済学者でもあります。1997年のIMFの発端は韓宝グループの「不渡り」からの「資金梗塞」が始まりだった、として今回の事態との類似性を重く見ているようです。
確かに資金流動性の低下が長期化すれば黒字であっても破産に追い込まれる会社が出てきてもおかしくありません。