韓国生命保険会社の5億ドル規模のコールオプション不発、市場には「売り」注文だけという話

韓国の生命保険会社が海外市場で発行した債券の早期償還を見送ったそうです。
本来は30年満期のものですが、5年に一度早期償還をしないと追加金利を支払う必要が出てくるので余程の事情がない限りは5年満期と同義のものです。
で、今回その「余程の事情」が出来てしまったと。9月に借り換えのために3億ドルを調達しようとしたものの流札となったようです。レゴランドと結びつけたくなりますが、あれは9月下旬です。水面下で起こっていたことが前後して表面化しだした、そんな印象です。...もう金融危機始まってるのでは?

 



ハンギョレの記事からです。

興国生命、5億ドルの早期償還不発に...債券市場の不安「一波万波」


国内保険会社の外貨資金調達に「黄色信号」が灯った。興国生命保険がグローバル市場で発行した債券を早期返済することに失敗し、不安が広がっている様子だ。市場では韓国企業全般に対するグローバル投資心理が冷え込む可能性も排除していない。

(中略)

シンガポール取引所の公示現況を見ると興国生命保険は9日に予定されていた新種資本証券5億ドル分の早期償還(コールオプション行使)を延期すると1日(現地時間)明らかにした。興国生命は「全世界と韓国の金融市場環境が深刻に不安になり、突然の金利変化もあった」として「早期償還は実現不可能になった」と説明した。国内金融機関が外貨債権の早期償還に失敗した事例は2009年のウリ銀行のジュニア債以来初めてだ。
新種資本証券は会計上資本と認められる債券で、主に金融機関が資本拡充のために発行してきた。満期(30年)が過ぎれば自動的に延長されるという点で永久債と似ているが、5年ごとに新たに債権を発行して既存債権を早期償還するという違いがある。投資家の立場では実質的に満期を5年と認識することになるのだ。早期償還が義務ではないが、投資家との信頼関係を勘案すれば企業の立場でも早期償還をするのが有利だ。早期償還しない場合、発行企業が定期的に債権投資家に支給しなければならない「クーポン金利」がさらに高くなるという問題もある。今回、興国生命金利が年4.475%~6.7%台に跳ね上がることになった。
興国生命の早期償還失敗を市場で危機信号として受け入れた理由だ。これは投資家との信頼関係悪化とクーポン金利上昇を甘受するほど早期償還が難しかったという意味であるためだ。これに先立って興国生命は早期償還のために借り換え発行を試みたが凍り付いた債券市場の壁にぶつかった。9月に会社は3億ドル規模の新種資本証券発行などを計画したが投資家を見つけることができなかった。

(中略)

金融当局は急いで不安を鎮めるために乗り出した。金融委員会と企画財政部、金融監督院はこの日報道資料を出し「(当局は)興国生命の新種資本証券権利行使と関連した日程・計画などをすでに認知しており、持続的に疎通してきた」とし「興国生命自体の債務不履行にはならない状況であり、機関投資家と持続的な疎通中だ」と明らかにした。
ただ、市場では韓国債権全般に飛び火する可能性も排除できないと見ている。すでに米国発の通貨緊縮の余波で最高安全資産である米国債まで揺れているうえに韓国では江原道レゴランド事態まで重なり投資心理が急激に萎縮してきた。今回の興国生命事態で韓国企業に向けた外国人投資家の視線がさらに冷え込む可能性も低くない。

(後略)



ハンギョレ「흥국생명 5억달러 조기상환 불발에…채권시장 불안 ‘일파만파’(興国生命、5億ドルの早期償還不発に...債券市場の不安「一波万波」)」より一部抜粋

来年上半期にはハンファ生命が10億ドル、KDB生命が3億ドルの早期償還を控えているとのことです。
5年償還が絶対ではないとはいえ、償還する気があったのに「出来なかった」という所が問題でして。信用で成り立っている金融でこれが起こると怖いんですよね。



関連記事をもう一本、マネートゥデイの記事からです。

「韓国物、買いは無く売り注文だけ」...興国生命コールオプション放棄」に飛び火


(前略)

3日、銀行業界と債券市場によると興国生命コールオプション未達に続き、韓国投資証券が外貨債発行日程を延期し、ハナ銀行新韓銀行が推進中のカンガルーボンド(豪ドル建て債券)発行のための投資家募集もままならない状況だという。

大型市中銀行の資金担当関係者は「現在、発行済み債権の流通収益率が上昇し続ける傾向であり、韓国物の買い越しは無い代わりに売りだけがあふれる状況」とし「興国生命コールオプション未達で韓国物に対する信頼度下落が憂慮され米国の金利引き上げも続くものと見られ調達条件が非常に良くない」と伝えた。

(中略)

金融関係者は「先月、国内資金市場の流動性梗塞を招いたレゴランド事態が時差を置いて海外投資家に知られ、最近ある国内企業の需要予測過程で海外投資家がレゴランドと国内短期資金市場の状況など関連質問を吐き出したという」として「興国生命コールオプション問題まで重なって投資心理にさらに大きな悪影響を及ぼすのではないかと憂慮される」と話した。

資本拡充と調達市場の多角化に向け、海外で新種資本証券(永久債)や外貨建て債券の発行を推進している銀行も悩みが深い。 銀行圏では現在、新韓銀行ハナ銀行オーストラリアドル建て債券であるカンガルーボンド発行のために需要予測(ブックビルディング)を進めているが、投資家募集に苦労しているという。

大型市中銀行関係者は「悪材料が重なってはいるが、国内大型銀行と金融持株の海外信用等級は興国生命よりはるかに高い」として「状況を見なければならないが外貨借入が全く不可能な状況ではない」と話した。

金融当局は、興国生命コールオプション未実行事態が国内企業と金融会社の流動性に及ぼす影響は大きくないとしながらも、市場状況を注視している。 金融監督当局関係者は「国内銀行と関連しては直ちに特異事項はない」としながらも「市場状況をモニタリングしながら注視している」と話した。



マネートゥデイ「"한국물 매수 없고, 매도 주문만"…흥국생명 '콜옵션 포기' 불똥(「韓国物、買いは無く売り注文だけ」...興国生命「コールオプション放棄」に飛び火)」より一部抜粋

新種資本証券を永久債などと説明していますが、これはCoCo債(転換社債)というヤヴァイものです。なにがヤヴァイかというと、発行主体である金融機関(基本的に金融機関が発行するものです)の自己資本比率が一定水準を下回った時に元本の一部または全部を削減したり、強制的に株式(時価)に転換して一気に自己資本比率を回復できる「復活の巻物」的なアイテムだからです。削減も転換も社債を持っている人が決めるんじゃありません。社債を発行している側が決めるんです。
リスク(債権放棄)の可能性があるから金利が高いわけで、実質借金なのに「資本」に組み入れられるのはそういうわけです。
今回はまだ債権放棄までいかなかったみたいだからまだマシ?なのかも?でも一気に信用は落ちたでしょうね。持っていたくないから「売り」に出たんでしょう。