「親族相盗例」により窃盗罪に問われない親族間の経済犯罪の話

日本には「親族相盗例」があります。刑法第244条1項に定められた「親族間の犯罪に関する特例」のことです。ここでいう「親族」に含まれると刑が免除されます(=窃盗罪が成立しない)。 「親族」とは具体的には配偶者、直系血族(父母、祖父後、子、孫...)、同居の親族です。同居の親族の場合は6親等以内の血族、あるいは3親等以内の婚姻者の血族を指します。6親等とは、はとこ(祖父母兄弟の孫)やいとこの孫、甥っ子姪っ子の玄孫までを指します。結構広いですが、「同居」という前提があります。
また、刑事事件としては成立しなくとも民事事件として損害賠償請求は可能となります。

韓国にも同様に親族間での窃盗罪適用免除が定められています(刑法第328条)。
ただし、日本よりも適用範囲が広く、配偶者、8親等以内の血縁、4親等以内の婚姻親族となっています。「同居」の限定もありません。一応、近い親族(直系、配偶者、同居家族、同居親族)の場合は無条件適用、遠い親族の場合は親告罪とはなっているようです。

誤解されがちですが、これに「儒教文化」は関係ありません。起源はローマ法に遡ります。ですからローマ文化を継承しているヨーロッパの主要国にも同じ趣旨の条項があります。
韓国には日本経由で入りました。ですから名称も同じく「親族相盗例(친족상도례)」と言います。


今日紹介する記事には、銀行に行くのも苦労するような身体の不自由な高齢者が娘に任せていたところ、いつの間にか口座残高が丸ごと娘の口座に移されていたという高齢者の話が出てきます。「親族相盗例」により窃盗罪に問えない事例ですね。
韓国と同じく高齢化社会の日本でも「経済的虐待」が深刻だ、そんな話に続くのですが...なぜか日本の数字は出てくるのに韓国の具体的な数字は一つも出てこない変な記事です。

 



毎日経済の記事からです。

キムおばあちゃんの老後資金を盗んだ「ヤツ」...実は娘だった


「ボイスフィッシングや詐欺だけではありません。むしろ信じていた子供や親族の方が危険です」

金融サービスに急速にデジタル技術が融合し、非対面業務が増え高齢者が近しい知人に金銭を搾取される問題が深刻になっている。特に韓国は世界で最も早い速度で高齢化が進行中であり、金融サービスデジタル化水準も高く、シニアの金融消費者保護のための法制定が至急だという指摘が出ている。

チョン・ウンヨン金融と幸福ネットワーク議長は4日、ユン・ヨンドク、ミン・ビョンドク国会議員室主催で開かれた「シニア金融消費者保護フォーラム」討論会発題でこのように主張した。チョン議長によると、身体が不自由で銀行に行けない老人が娘に通帳管理・現金引き出しを任せたが財産がすべて娘の通帳に振り込まれたり、住宅年金に加入して生活費を用意しようとした老人が住宅を相続しようとする息子の強圧に勝てず生活費不足に苦しむ問題などが頻繁に発生している。

韓国より人口高齢化が進んでいる日本でもこのような問題が深刻だ。日本の厚生労働省によれば、家族・親族・同居人などによる虐待申告は毎年増加傾向であり、2020年基準で1万7281件が実際の虐待と判断された。このうち14.6%が経済的虐待であり、人数基準では2588人に達する。
虐待者分類は「息子」が39.9%で最も多く、次いで夫(22.4%)と娘(17.8%)の順だった。

(後略)



毎日経済「김할머니 노후자금 털어간 ‘그놈’...알고보니 딸이었네(キムおばあちゃんの老後資金を盗んだ「ヤツ」...実は娘だった)」より一部抜粋

デジタル決済が進んでるんなら現金なんか要らんクネ?と思うんですが、違うんでしょうか?
デジタル弱者を置き去りにした結果にドヤっていただけだったのでしょうか?

それはともかく。
記事は後半で「日本も~」を叫び、14.6%が経済的虐待としていますがその他については触れていません。ズルいですね。
元にした資料は恐らくこれです。P.9の図13「虐待種別の割合」を見れば一目瞭然、経済的虐待は5種別中4番目に「多い」と集計されています。逆に言えば2番目に「少ない」です。
虐待者分類については「経済的虐待」に限定されたものではありません。虐待全体件数に対する割合です。

どうでしょう↑の画像を見て。問題がないとは言いませんけれど、「大変だ、今すぐ経済的虐待をなんとかしないと」となりますか?優先順位を付けるなら身体的虐待と心理的虐待に対する喫緊の措置を講じるべき、となりませんか?
これを「日本も~」と一緒くたにされるのには違和感があります。
日本には扶養義務がありますから例え経済的虐待が起こったとしても(介護放棄を除けば)生活費にすら困る可能性は低いです(個人的には最低限は自分で管理すべきと思いますが)。韓国では普通に生活費に困る、と書かれていますし恐らくこの辺りも事情が異なるのではないでしょうか?

それに、なぜ日本の数字しか出ていないのでしょう?韓国の具体的な数字が出てこないのがものすごく不思議です。韓国では実態の調査さえ出来ていないことを窺わせます。
自国の実態調査さえまともに行わず、日本の数字を「さも自国の数字」であるかのように錯覚して場当たり的な対応をするから見当外れな方向に舵をとってしまう事にいい加減気づいた方が良いと思います。


また、介護とは別の事例になりますけれど、ひと月ほど前には、ある放送関係者が父親が兄の出演料を横領したとしてトラブルになり父親に暴行され病院送りになる事件が起こっています。父親は「財産を盗ったのではない、父親である自分のものだ」と主張したとか。
どちらの場合も親族相盗例により窃盗罪には問われません。

公式な統計ではないものの、毎年数百件から千件近く家族間の経済トラブルとして上がってくるようです。中には初めから親族相盗例を狙った悪質なものもあるようです。


最後に、記事のコメントは大したものが無かったので訳を省略しますが、「ヤツ(놈)と言わずにアマ(년)と言え」と、記事のタイトルが男性を連想させる「ヤツ(놈)」になっているのが気に食わないから女性を連想させる「アマ」にしろ、的なものが複数ありました。気にするの、そこなんですね...。