資金梗塞に苦しむ韓国企業、日本で資金調達をする話

レゴランド事態に端を発するとされる韓国の債券市場の資金梗塞。最優良等級AAAの社債ですら売れず流札になる状況で、多くの会社が銀行ローンによる資金調達にシフトしています。国際金融統計の集計では、今年の韓国企業の負債比率は昨年より6.2ポイント増加し、集計対象国の中では2番目に増加速度が速かったとのこと。

ただ、これはレゴランドだけの問題ではなく、そもそも今年に入ってから銀行が企業融資の割合を増やしていたことの方が影響していると思われます。
韓国政府は増えすぎた家計負債を抑制するために今年1月から2億ウォン(約2千万円)以上のローンの場合、利子を含めた年間の返済額が年間所得の40%まで(第2金融圏は50%まで)となるよう規制を強化しました。7月からはこれが1億ウォン(約1千万)以上のローンも規制対象となっています。
この政策と基準金利の引き上げで家計向けローンが減った穴を企業向けローンで埋めていたわけです。
そこにレゴランド発の資金梗塞が起こったため、企業向けローンの増加は今後も進んでいくと思われます。

しかし問題が二つほど。一つは家計向けローンが住宅等を担保と出来るのに対して企業向けローンは担保が無くリスクが高いということ。もう一つは銀行自身の資金調達難です。
特に銀行の資金調達は、金融当局が銀行債の発行を縮小するよう勧告したことで社債による調達の道が閉ざされました。比較的低リスクの銀行債が債券市場に出てくると、そこに資金が集中するため一般企業の社債がますます売れなくなる、こうした懸念からの措置のようです。
これを回避するために各銀行は「カンガルー債」や「サムライ債」を発行してカバーしようとしています。

 



ニューシースの記事から企業向け融資が急増しているとする内容です。

急増する企業向け融資、家計負債に続き経済懸案となるか


資金市場の冷え込みで企業貸出需要が増加する反面、金利は高くなり銀行延滞率が増加し、金融圏の不良が発生しかねないという憂慮が提起されている。

企業貸出は担保を中心に進められる家計貸出とは異なり、危険加重値がはるかに高く貸出規模も大きいため不良が起これば過去の通貨危機事態のように銀行圏全般にリスクが拡散する恐れがあるということだ。

(中略)

韓国銀行によると、今年1月~9月の企業貸出は前年より89兆8000億ウォン増えた。先月27日基準で五大都市銀行(KB国民・新韓・ハナ・ウリ・NH農協)の企業貸出残高は703兆7512億ウォンで、前月対比8兆8522億ウォン増加した。

企業負債の増加速度も速くなっている。国際金融協会(IIF)の「世界負債報告書」によると、韓国企業の負債比率は前年より6.2%ポイント増加し、ベトナム(7.3%ポイント)に続き負債増加速度が2番目に早かった。

(中略)

ハ・ジュンギョン漢陽大経済学部教授は「レゴランド事態以後、市場で資産担保付企業手形(ABCP)と社債が十分に消化されなかった」として「企業は結局、銀行貸出に依存せざるを得ない状況」と話した。

「企業貸出リスク、家計貸出よりはるかに危険」
問題は企業貸出の特性上、リスク管理に脆弱だということだ。家計負債の大部分を占める住宅担保貸出は担保があるため危険加重値え借主の比重が小さいが、企業貸出は景気に対する浮き沈みが激しく、担保基盤貸出ではないため債権保全に対する不確実性がはるかに大きい。

(後略)



ニューシース「급증하는 기업대출, 가계부채 이어 경제 뇌관되나(急増する企業向け融資、家計負債に続き経済懸案となるか)」より一部抜粋

公式の数字ではありませんが、ある金融当局関係者の話として企業の延滞率は今のところ約0.2%で心配するような水準ではない、とのこと。ただし、前月比で徐々に上がってきているようです。



次に、銀行債の発行が停止しているの話です。ビジネスウォッチの記事からです。

レゴランドの後の暴風...庶民・ヨンクル族も影響圏


(前略)

金融界によれば先月23日、政府の非常マクロ経済金融会議後、五大都市銀行(KB国民・新韓・ハナ・ウリ・NH農協)は一切銀行債発行を行っていない。今年末までに既存計画より縮小して発行する計画だ。

これは金融当局が銀行圏に債券発行を自制するよう要請したためだ。金融委員会は先月28日、債券市場の安定のために銀行が柔軟に銀行債発行物量*1を調整できるよう一括申請書関連の規律を一時的に柔軟化すると明らかにした。

銀行は資本市場法に基づいて提出された一括申告書上の発行予定額通りに銀行債を発行しなければ制裁措置を受ける。しかし今年末までに発行が予定されている銀行債に対しては発行しなくても制裁しないことにしたのだ。

社債市場が委縮した状況で信用度の高い銀行債が発行されれば債券需要がそちらにだけ傾くことになる。このため一般企業の社債が市場からそっぽを向かれるという声が出ると、制裁しないから銀行債を発行しないよう政府が要請したわけだ。

(中略)

しかし銀行は債券発行ができなくなり資金調達の一軸を失うことになった。預貯金など受信商品を通じた資金調達に頼らなければならない状況だ。特に銀行は基準金利引き上げと預貸金利差公示規制施行などで最近忙しなく受信商品の金利を引き上げてきた。

(中略)

ある市中銀行関係者は「銀行債発行自制要請で受信を通じた資金調達だけが可能な状況だが、受信金利も高まった状況で資金費用負担がさらに大きくなった」として「預貸金利差公示などの影響で以前よりは加算金利を引き下げる方式で引き上げ幅を制限しているが、現在の状況が続けば貸出金利引き上げ幅を拡大せざるを得ない」と話した。



「레고랜드 후폭풍…서민·영끌족도 영향권(レゴランドの後の暴風...庶民・ヨンクル族も影響圏)」より一部抜粋

銀行の資金調達難に的を絞って引用したのでタイトルの「庶民・ヨンクル」への影響が分かりにくくなっているかもしれません。最後の「貸出金利引き上げ幅を拡大せざるを得ない」の部分が影響してくるよ、という話です。



で、ここまでがある意味前置きで最後にサムライ債発行の話に繋がります。サムライ債は外国の発行体が日本の債券市場で円貨建て債券を発行し日本の市場で資金調達をする、という意味です。日本国内の投資家にとってのメリットとして為替リスクがないこと(円建てなので)、利率が高めなことが挙げられます。デメリットとしては発行元の情報(財務状況など)が手に入りにくい点でしょうか?

韓国は1991年から2019年まで29年連続でサムライ債を発行していました。最後の発行は2019年7月です。これ以後、発行されなかったのは日韓関係悪化が原因とされています。
しかし、韓国で債券市場の資金梗塞が起こってからは一転。既に韓国ロッテは発行に踏み切っていますし、大韓航空は来年1月にサムライ債を発行する動きを見せています。

ヘラルド経済の記事からです。

銀行、加重金利1%上乗せしても...サムライ・カンガルーボンドを負う理由は


国内金融機関がしばらく姿を消していたサムライ・ボンド(円建て債券)に続き、カンガルー・ボンド(豪ドル建て債券)の発行に乗り出すなど、資金確保のための隙間市場探しに没頭している。預貯金金利引き上げ競争で資金調達費用は増えたのに対して、レゴランド事態に触発された資金市場梗塞緩和のために金融当局が銀行債発行縮小などを勧告するなど、国内市場で資金を集めるのが難しくなったためだ。

(中略)

14日、金融界によると今年五大都市銀行(KB国民・新韓・ハナ・ウリ・NH農協)が発行した公募外貨債は約5兆3000億ウォン規模だ。市場も次第に多様化している。第2四半期以降に発行された5種類の外貨債のうち、ドル債は2ヶ所に過ぎなかった。KB国民銀行は6月、5億ユーロ(6800億ウォン)のユーロ建て債券を発行した。新韓銀行は今月、4億ドル(約3500億ウォン)規模のカンガルー・ボンドの発行に成功し、先月は320億円規模のサムライ・ボンドを発行した。

特に韓日関係が悪化したあと途絶えていたサムライ・ボンドは先月、新韓銀行と現代キャピタルがそろって空白を破った。日本は基準金利が依然としてマイナスであり、為替状況も悪くなく資金調達に有利だ。両国間の政治的気流が変わった点も日本市場の扉を叩くのに友好的だ。

(中略)

問題は調達費用だ。新韓銀行のカンガルー・ボンド発行は3ヶ月物オーストラリアドルスワップ金利(BBSW)に加算金利195ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)を加えた水準で確定した。今年初めに発行した債券の加算金利が90~100bpと策定されたことを考慮すれば、リスク費用が2倍ほど増えたわけだ。金利をさらに払わなければ投資家が募集できないという話と見ることができる。

新韓銀行関係者は「今回の債券発行を通じて韓国物に対する投資心理が委縮したことを全身で感じた」と話した。

(中略)

カンガルーボンドの場合、アジア機関の投資比重が高いが、ハナ銀行は先月カンガルーボンド発行を推進し加算金利を100bp初中盤に提示し投資家募集に苦杯をなめた。これに対し市中銀行関係者は「興国生命コールオプション未実行発表以後に少なくとも50~70bpのリスク費用が加重されている」として「悪材料が続く状況で韓国物外貨債に対する投資心理は容易に回復しないだろう」と話した。

(中略)



ヘラルド経済「은행, 가산금리 1% 더 주더라도...사무라이·캥거루본드 쫓는 까닭은(銀行、加重金利1%上乗せしても...サムライ・カンガルーボンドを負う理由は)」より一部抜粋

ベーシスポイント金利の表示単位のことで0.01%刻みです。なので195bpは金利1.95%のことです。
記事中に出てくる新韓銀行の320億円規模のサムライ債金利は2年物が0.87%、3年物が0.98%、5年物が1.33%です。韓国が資金調達をするのに日本は格好の市場なんです。

 

韓国のネット民に「なぜ日本と仲良くするのか?」と叩かれながらもユン政権が「日韓首脳会談」に拘ったワケ、韓国メディアが「韓日関係改善」の機運を盛り上げたがるワケがこれで分かりますね。



*1:原文「물랑(ムーラン)」は「물량(物量)」の誤字と判断。