家計負債史上最高額、過度に低い延滞率は錯視の可能性が高いという話

パク・クネ政権終盤からムン・ジェイン政権に掛けて、ソウルで加熱する住宅価格上昇を抑え込むためにあらゆる規制を設けていました。住宅担保ローン比率(LTV・住宅価格のうちローン支払いが組める割合)を40~50%までに抑えたり、特にムン政権が行った複数住宅所有者への罰則とも取れる税負担アップや売却期間制限(最長10年)、居住義務はインパクトがありました。
この制限が江南3区(江南、瑞草、松坡)と龍山を除くソウル21区で解除されました。LTVは70%に、売却期間制限も3年に短縮され、複数住宅所有の制限も解除される見込みです。なぜかというと、住宅が全然売れなくなってしまったからです。
国土交通部が発表した11月の住宅統計によると、未分譲の住宅物件数が前の月より23%増加した5万8027軒を記録、売買量は6.1%減の3万220軒に止まりました。1年前の同じ期間と比べると半分以下だそうです。
今までは「住宅」が高すぎて買えない層が多かったために規制を強化していましたが、今は「金利」が高すぎて買えない層が増えました。金利は今のところどうしようもないので、規制さえなければ買える層に住宅市場を支えてもらいたいのでしょう。規制解除とは言いつつ、DSR(所得に占めるローン返済額の割合)規制はそのまま維持されるので無茶なローンは組めないようになっています。そういう意味では蛇口はちゃんと閉まっています。

しかし、歴代最大規模(1870兆6000億ウォン)にまで膨れ上がった家計負債の危機はまだ本格化していないとの見通しがあります。今現在、なんとか保っているのは低い延滞率のお陰、というのがその理由です。コロナ対策として政府が行った脆弱層への低金利貸し出しによって、この低い延滞率が維持されているという説です。
というのも、去年の第3四半期の延滞率が0.60%という驚異的な低さなのです。コロナ前後で比較すると、コロナ以前の2019年第4四半期は1.1%、コロナ以後の2020年第4四半期は0.9%となります。庶民生活が大変だったのはコロナ以後のはずであるのに、延滞率は逆転現象が起きているのです。
この低い延滞率は実は錯視であり、家計負債の延滞率は1~2年のタイムラグが発生するため本格的な危機は今年から、そんな話があります。

 



中央日報の記事からです。

不動産規制をすべて緩和してもDSRは駄目な理由...延滞率が上がることだけが残った


(前略)

5日、韓国銀行(韓銀)によると、昨年第3四半期末の家計負債(家計信用統計基準)は1870兆6000億ウォンで歴代最高額を記録した。このうちカード使用額などの販売信用(113兆8000億ウォン)を除いた純家計貸出だけで1756兆8000億ウォン(家計負債のうち93.9%)で、やはり史上最高規模だ。
家計負債は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)を経て天文学的水準に増えた。しかしまだ問題が起きていないのは低い延滞率のためだ。韓銀によると昨年第3四半期基準で全家計貸出の延滞率は0.60%だ。通常、家計貸出の平均延滞率が1~2%台という点を考慮すれば過度に低い

このような低い延滞率が一時的な錯視である可能性が高い。実際、韓国銀行が2020年の取り扱い家計貸出だけを別に分析してみると、2013年~2019年の家計貸出延滞率の長期平均により大幅に低かった。特に2020年にはCOVID-19による景気低迷にもかかわらず信用度の低い非銀行圏の延滞率が過去平均(2013~2019年)よりも顕著に低く表れる奇妙な現象も発生した。

延滞率が低くなったのは、まず政府のCOVID-19金融支援策が影響を及ぼした。政府は新型コロナウィルス感染症の発生後、小商工人と中小企業の貸出償還猶予および満期延長など積極的な金融支援策を展開した。また、低い金利を活用して被害階層の生活資金貸し出しも支援した。この影響で2020年の第4四半期の延滞率(0.9%)は新型コロナウィルス感染症が無かった2019年第4四半期(1.1%)よりもむしろ下がった。

(中略)

不動産・株式など資産市場好況も延滞率を下げるのに一役買ったという分析だ。ここ1~2年の間に資産市場投資への関心が高まり、高信用者が貸し出しを増やして投資に乗り出した事例が多くなった。通常、中・低信用者は貸出取り扱い後3年経過時に延滞率が3.5%まで急騰するが、高信用者は同期間0.1~0.3%に上がるにとどまる。このため高信用者向けの融資の増加は全体の延滞率を下げる。韓銀によると、不動産と株式価格ア急騰した2021年第2四半期、高信用者貸出は1年前より10.9%急騰した。

(中略)

COVID-19の時に集中的に増えた家計貸出は1~2年の時差を経て今年から本格的な上昇曲線を描くという見通しが多い。さらに、不動産や株式市場の低迷による資産価値の下落も家計向け融資の延滞率を高めかねない不安要素だ。
このような家計向け融資の不良化への懸念に対し、政府はDSR規制緩和には慎重な立ち場を示している。DSR規制を誤って緩和すれば償還能力を考慮せずに借金を増やす事例が増える可能性があるためだ。

(後略)



中央日報「부동산 규제 다 풀어도 DSR 못푼 이유…연체율 오를 일만 남았다(不動産規制をすべて緩和してもDSRは駄目な理由...延滞率が上がることだけが残った)」より一部抜粋

以前のような投機的な上がり方は恐らくしない(出来ない)と思いますけど、だからこそ不十分と言えるかもしれません。複数不動産を所有しているような人は問題ないです。が、ヨンクルにせよ、自分で住むための住宅にせよ、やむなく手放さざるを得なくなっても借金だけ残るという人たちにはあまり意味のない措置でしょう。
元記事では経済学科の教授が「DSR規制は維持したまま(蛇口は閉めたまま)償還能力のない脆弱層を個別に支援する政策が必要」としています。ただこれも規模が大きすぎて背負いきれない気がします。