韓国検察、イ・ジェミョンさんへの拘束令状を請求した話

とうとう韓国検察が17日、イ・ジェミョンさんへの令状を請求しました。これを受けてソウル中央地裁が地検に逮捕同意要求書を送付し、24日の本会議で提出、27日に採択の流れとなる見込みです。
しかし共に民主党は野党とは言え議席数は169議席過半数を占めています。否決される可能性の方が高いです。

 



日本語記事を配信している朝鮮日報中央日報聯合ニュースなどは、当たり前のように「逮捕同意案」としか報じないので「なんのこと?」となるかもしれませんが、国会議員には「不逮捕特権」というものがあります。「特殊な職位を持っている人は捜査機関によって逮捕・拘束されない」ことで、日本にも同様のものがあります。
韓国の不逮捕特権で有名なのは現職大統領ですけど、それ以外にも国会議員、教員、公職選挙候補者などにも適用されます。(教員の場合「学校内」のみに限定)

このうち国会議員について憲法と法律で次のように規定されています。
憲法第44条①国会議員は現行犯である場合を除き、会期中国会の同意なしに逮捕又は拘禁されない。②国会議員が会期前に逮捕又は拘禁されたときには現行犯でない限り、国会の要求があれば会期中保釈される。
戒厳法第13条 戒厳施行中、国会議員は現行犯である場合を除き逮捕又は拘束されない。

そのため現職議員であるイ・ジェミョンさんの場合、検察が拘束令状を発効させるためには国会による同意案採択が必要になる、というわけです。

イさんには複数の疑惑があるのですけれど、そのうち大庄洞・慰礼新都市開発事業と城南FC後援金関連事件について背任、収賄など5つの容疑が適用されたとのことです。

大庄洞と慰礼新都市開発事業とは、別に開発事業者が自分たちの身内業者に仕事を回したり、完成した建物を「分譲」したりして収益を拡大させたという「特恵」を受けていた疑惑もあるのでヤヤコシイんですが...この「特恵疑惑」とはまた別のようです。
地名がピンと来ないかもしれませんが、全て「京畿道城南市」の話です。イさんは2010~2018年まで城南市市長、2018~2022年の大統領選出馬まで京畿道知事でした。「特恵疑惑」の時期と重なります。
また、イさんの拘束令状に関連して、「特恵疑惑」に関係した法人が出て来るので先に「特恵疑惑」の内容を紹介しておきます。

トゥデイ新聞の記事からです。

大庄洞・慰礼新都市、そしてペクヒョン洞まで...開発特恵疑惑、何が問題なのか


(前略)

資本金5000万ウォンが577億ウォンの配当収益として

大庄洞開発不正疑惑は先の大統領選挙で争点に浮上し、過度な不動産開発収益に対する問題提起が続いた。該当開発事業は城南市大庄地区約92万平米敷地に1万6000人余りが居住するアパートと連立住宅などを建設する内容だ。

2015年3月26日に締め切られた大庄洞開発入札公募には3つのコンソーシアムが応じ、翌日の27日にハナ銀行コンソーシアムが民間参加事業者に最終選定された。

(中略)

城南市大庄洞開発事業を推進するために2015年7月に城南道公を通じて「城南の庭」という特殊目的法人を設立した。城南の庭は納入資本金50億ウォン(優先株46億5000万ウォン、普通株3億5000万ウォン)で構成されており、優先株は城南道路公社が53.75%保有している。普通株約7%のうち1%はファジョン大油が、そして6%はファジョン大油の持ち分100%を保有している民間人と彼が募集した個人投資家で構成された信託商品であるSK証券信託が持っている。

(中略)

ファジョン大油は城南の庭持ち分1%を通じて3年間で計577億ウォンの配当を受けており、直接・間接的に連結された関係者まで合わせれば計4040億ウォンの配当収益を上げた。また、他にも大庄地区5ブロックを随意契約で発注し直接アパート分譲をして約4500億ウォン程度の追加収益を出したと伝えられている。

(中略)

城南公道は大庄洞開発以前の2013年、慰礼新都市開発を民間合同事業として進めた経緯がある。この事業は城南市スジョン区チャンゴク洞の6万4713㎡に1137世帯を供給する内容だ。該当事業はいろいろな面で大庄洞と似ており開発利益がどこにいったのかが争点になっている

慰礼新都市開発事業は未来アセットコンソーシアムが民間事業者に選ばれ、その後、城南道公主導で「青い慰礼プロジェクト」という特殊目的法人が設立された。青い慰礼プロジェクト資産管理会社は未来アセットコンソーシアムに参加した慰礼資産管理が引き受けた。

(中略)

慰礼資産管理はホバン建設が100%持ち分を保有している。TS住宅が全体持ち分を保有している孫会社だ。ホバン建設はマンションの施工も担当した。該当事業は306億ウォンの収益を出し、城南道公は150億7500万ウォンの配当を受けた。

(後略)



トゥデイ新聞「대장동‧위례신도시 그리고 백현동까지…개발 특혜 의혹 무엇이 문제인가(大庄洞・慰礼新都市、そしてペクヒョン洞まで...開発特恵疑惑、何が問題なのか)」より一部抜粋

「不正疑惑」としているんですが、一体どこらへんが「不正」なのかよく分からなくないですか?
これはですね、記事の視点が公共事業なのに「特定の事業者」に莫大な収益が集まったことが「公平じゃない」ことを問題視しているからなんです。現時点で違法かどうか、(入札などで談合など)不法行為があったかどうか、賄賂があったかなどはハッキリしていないし、裁判の結果を待たないとなんとも言えないものの、とにかく「公平じゃない」ことは確かだ、と。また、開発事業で超過利益が出た場合、どのように配分すべきか社会的合意が必要とも書かれています。どうも「不法行為の有無」ではなく、「国民の理解・納得の有無」に全フリされているような雰囲気です。

で、大庄洞開発に関しては慰礼新都市開発と構造的共通点が多いことから、既に検察が関係者を起訴している慰礼新都市開発と同様の「疑惑」が提起されている感じです。
しかし慰礼新都市開発を主導した「青い慰礼プロジェクト」は以下のイ・ジェミョンさんの収賄容疑に関連しているため「開発利益がどこにいったのか」という点で、今後イさんが関わってくる可能性があります。



NewDailyの記事からです。

「イ・ジェミョン、ネイバーの城南FC後援金50億ウォン要求...賄賂の金額まで決め」


(前略)

検察はイ代表が2014年10月から2016年9月まで城南FC球団オーナーを務め、トザン建設・ネイバー・チャ病院・青い慰礼プロジェクトなど4社から後援金133億5000万ウォンを誘致し、その代価として建設許可や土地用途と変更などの便宜を提供した賄賂疑惑を適用した。

(中略)

拘束令状請求書によれば、ネイバーは2013年3月「NHNネクスト」というソフトウェア教育機関を設立したが教育部から認可を受けられず運営上の問題に直面した。関連法令により学校敷地と建物が必要だったネイバーは2014年7月頃、城南市ブンタン区クミ洞の旧下水最終処理場敷地を学校の敷地として買い入れることを推進したという。

ところが、この事実を聞いたイ代表が城南市関係者たちに「学校敷地売却代価としてネイバーの具体的な寄与方案を望む」という立場をネイバーに伝達するよう指示したと検察は判断した。イ代表は「ネイバーがこれまで城南市に寄与したことがない」との話もしたという。

また検察はイ代表が、ネイバーに学校敷地を売却する代価として「城南FCに対する50億ウォンが必要だ」という意思をネイバー側に伝えたと指摘した。

(中略)

しかしイ代表のこのような意思を伝えられたネイバー側は50億ウォンを拠出した場合、今後の監査などに問題が生じることを懸念したという。結局、ネイバーは内部議論を経て大学院大学をチョンジャ洞ネイバー本社隣の新築建物に入居させることにし、クミ洞敷地の買い入れを諦めようとした。

しかしネイバー側は結局、イ代表の城南FC後援金要求を受け入れなければ城南市チョンジャ洞の新築建物(ネイバー新社屋)関連の各種許認可と関連して不利益を被ることを憂慮したと検察は判断した。

これに対しチョン・ジンサン城南市政策室長(当時)が「(イ・ジェミョン市長)任期内だけ城南FCに後援すれば良い」とし「残り任期の3年間、毎年40億ウォン、計120億ウォン後援するか、少なくとも毎年20億ウォン、計60億ウォン支援してほしい」という趣旨でネイバー側に要求したという。

(後略)



NewDaily「"이재명, 네이버에 성남FC 후원금 50억 요구…뇌물액수까지 정해줘"(「イ・ジェミョン、ネイバーの城南FC後援金50億ウォン要求...賄賂の金額まで決め」)」より一部抜粋

記事ではネイバーのことばかりですが、要するに任期中、行政の認可が必要な計画について相応の「見返り」を求めていたわけですから、大庄洞や慰礼新都市開発も含まれるんでしょう。

上でもイさんが2010~2022年の大統領選出馬まで市長や知事として城南市、あるいは京畿道に関する要職を歴任してきたことには触れました。
今回の疑惑提起からの令状請求は、韓国における政争の一環ではあるんでしょうけれど、イさんが京畿道という「場」を去ったことによる緩みも一端だったのかもしれません。