1人当たりブランド消費額世界1位の韓国で3大ブランドが利益のほとんどを本社や海外法人に配当...国内に還元されずという話

「エルシャ」といっても「そんな装備で大丈夫か?」ではありません。エルメスルイ・ヴィトン、シャネルを略して「エルシャ(에루샤)」と呼ぶらしいです。

モルガン・スタンレーのレポートでは、昨年1人当たりのブランド消費額が一番多かったのは韓国人でした。その額は168億ドル(約20兆9000億ウォン;約1兆5000億円)。実は世界的にコロナ禍で旅行に行けなかった分の消費が高級品購入に回されたということでブランド消費は増えているんですけど、それでも韓国人の1人当たりの消費額は2位の米国(280ドル)、3位の中国(50ドル)を大きく引き離しています。とはいえ、「1人当たり」ですから国全体のトータル消費としてみれば人口の多い中国は700億ドル、人口も消費額も多い米国は920億ドルで韓国の168億ドルはちょっとかすみます。

モルガン・スタンレーのアナリストは韓国で1人当たり消費額が多い現象を「社会的地位を誇示しようとする欲求によるもの」と分析しています。

で、特に人気なのが冒頭の「エルシャ(エルメスルイ・ヴィトン、シャネル)」なのだそうです。この3ブランドの昨年の韓国での売り上げは3兆9324億ウォン。前年比で22%増となっています。特にヴィトンは営業利益が前年比で38%も伸びたとか。ですが監査報告書によると、ルイ・ヴィトンコリアが出した「寄付金」は「0」とのこと。
「寄付金」は定義が広いのですが、災害発生時の「見舞金」や「義援金」もNPO法人等を通じた「寄付金」として取り扱われます。韓国で「災害」というと、昨年のハロウィンに起こった梨泰院事故が記憶に新しいですが、その際も何もしなかったことを意味します。
昨年だけではありません。監査報告書を提出し始めた2020年以降、ずっと「0」だそうです。

 



ニューシースの記事からです。

「エルシャ」、昨年韓国で4兆ウォンを売り上げた...ルイ・ヴィトンの寄付金は「0」


(前略)

15日、エルメスコリア、ルイ・ヴィトンコリア、シャネルコリアの監査報告書によると、3大ブランドの昨年の売上総額は3兆9324億ウォンだった。これは前年(3兆2192億ウォン)と比べ22%増の数値だ。

この中で最も売上が高かったブランドはルイ・ヴィトンコリアだ。昨年の売上は前年同期比15%増の1兆6923億ウォン、営業利益は38%増の4177億ウォンと集計された。同期間の当期純利益も69%増えた3380億ウォンだった。

シャネルコリアの売上は前年同期比30%増の1兆5900億ウォン、営業利益は66%増の4129億ウォンに達した。同期間の当期純利益は3115億ウォンで74%増加した。

続いてエルメスコリアは昨年、前値同期比23%成長した6501億ウォンの売上を上げ、営業利益は23%増加した2105億ウォンと集計された。陶器の純利益は23%増の1538億ウォンだった。

(中略)

ブランド品の需要が爆発的に急増すると、これらのブランド品は値上げも随時断行した。ルイ・ヴィトンの場合、昨年2回値上げし、シャネルは4回値上げしたのに続き、今年2月にも1回値上げに踏み切った。

韓国で売上成長率が2桁に達し、規模を拡大したエルシャ各品は海外法人配当も大幅に増やした。
エルメスコリアは昨年、当期純利益1538億ウォンのうち1170億ウォンをシンガポール法人に配当金として支給したが、これは前年度960億よりも22%増加した数値だ。

ルイ・ヴィトンコリアも前値同期比44%増の2252億ウォンの配当金をフランス本社に送り、シャネルコリアも327.5%増の2950億ウォンをルクセンブルク法人に支給した。

本社配当金を最も多く増やしたルイ・ヴィトンコリアは監査報告書を提出し始めた2020年から3年間の寄付金は「0」ウォンだ。

シャネルコリアは同期間、10億ウォンを寄付金として出し、これは前年同期の7億ウォンから3億ウォン増やした数値だ。エルメスコリアも昨年、寄付金を5億6100万ウォン出したが、前値殿4億5800万ウォンに比べ1億ウォン増加した。



ニューシース「'에루샤', 작년 한국서 4조 매출 올려…루이비통 기부금은 '0'(「エルシャ」、昨年韓国で4兆ウォンを売り上げた...ルイ・ヴィトンの寄付金は「0」)」より一部抜粋

「寄付金」は強要するようなものではありませんが、ちょっとモヤモヤします。多分偏見なんですけど、高級ブランドの法人運営ってプランテーション(植民地経営)を彷彿とさせる仕組みが残っている気がするんですよね。製造業によくある技術移管が起こらないからかもしれませんが。

ルイ・ヴィトンの母体であるフランスのLVMH*1は今年1月のダボス会議で「経済不平等のシンボル」と批判されました。その際、CEOのアルノーさんが反論したのですが、その内容が以下です。

  • LVMHはフランス国内で1万5000人、全世界で4万人以上を採用
  • フランス国内で50億ユーロの設備投資
  • フランス国内で25億ユーロ、全世界では50億ユーロの法人税を支払い
  • 付加価値税社会保険料も含めると年間45億ユーロ以上収めている


などなどです。これでLVMHを批判するのは「経済が分かっていない人だ」と。

私には随分見当違いな話に聞こえます。というのが、法人税は善意では無く義務ですから払うのが当然ですし、雇用についてもボランティアで雇って「あげている」わけではありません。事業を進める上で必要だか雇うんです。どちらも威張るようなことじゃないように思うんですけどねぇ。そんなに言うなら寄付くらい気前よく出したら良いのに、と思わなくもありません。

また、少なくともフランスのデモ隊にはアルノーさんの言う「経済」は分からなかったようです。
今月13日にLVMHは今年第1四半期の業績を発表しました。昨年同期比17%増の210億3500万ユーロ(約3兆834億円)で、株価も史上最高値を付けています。その直後、フランスの年金改革反対デモの一団が本社に侵入するという事態が起こりました。デモのリーダーは「年金の財源が必要ならここで探せ」と。


最後に、韓国側の言い様についてもちょっと突っ込みを。
「寄付が0だ」には、裏に「韓国が最大の顧客なのにリターンが無いなんておかしい」との心理があるのではないかと感じます。韓国のお陰で稼げたのに、と一種のカスハラ心理とでも言いましょうか。
ところで、LVMHの昨年の全世界売上は792億ユーロ、約113兆ウォンです。営業利益は211億ユーロ、約30兆ウォンです。ルイ・ヴィトンコリアの昨年の韓国内の売上は1兆6923億ウォン、営業利益は4177億ウォンです。…残念ながら比較すると...は言い過ぎかもしれませんが、最初に一人当たりではなく国全体の消費額でも確認したように、ウェイトとしてはさして大きくないんですよね。やっぱり本命は中国でしょうし。

 

*1:モエ・ヘネシールイ・ヴィトンルイ・ヴィトンディオールジバンシー、フェンディ、KENZOティファニーなどを傘下に持つ。