自国通貨が為替安方向に動くと輸出企業には+効果になります。国内通貨での製品価格は変わらないのに為替レートの影響で販売先では安くなるからです。(しかしそれは製品が国内で製造されている場合。現地生産していたらコストも現地通貨となるため、影響があるのは決算上の為替差益。あくまで会計上の換算利益)
そのため政策において通貨安を敢えて容認することは珍しくありません。そうすることで競争国相手に対して有利をとれますから。通貨安を容認するだけですから、コスパも良いです。
こうしたやり方を「近隣窮乏化」の一つと見なします。(ちなみに、「近隣窮乏化」は貿易において他国に損害を与える行為全般をさすので、今、米国がやっている関税率を高めることも「近隣窮乏化」の一つです)
当然のことですが、通貨安を容認すれば輸出は有利になりますが、輸入は不利になります。
通貨安は「一部の業界(輸出)に恩恵をもたらしつつ、他の広範な層にじわじわと負担を強いる」という分配上のひずみを伴う政策です。
韓国ウォンは現在1ドル1400~1500ウォンあたりを維持しており、 相対的に見ればウォン安です。しかし、企画財政部長官の過去の発言から、韓国の経済政策はウォン安を容認しているのではないか、との指摘があります。
韓国経済の記事からです。
1ドル当たり1500ウォンがニューノーマル?ウォン安は意図的なのか
(前略)
チェ・サンモク経済副首相兼企画財政部長官の偶発的な一言から、韓国政府の為替政策がどこに向かっているのか見当がつく。いわゆる「為替レートニューノーマル」発言だ。チェ・サンモク副総理は昨年10月22日、米国ニューヨークで「1400ウォン台の為替レートがニューノーマルなのか」という記者の質問にこのように答えた。「現在1400ウォンと過去の1400ウォンは違う見方をしなければならない。通貨危機当時の為替レート上昇とは質的に違う」。
為替レートの上昇をそのままにしておくという一種の「切り下げ容認」発言と見ることができる。自国の通貨価値を人為的に切り下げることを「近隣窮乏化」政策という。競争国の競争力を損ない、輸出競争で勝とうとしているからだ。
ところがこの「近隣窮乏化」というのが実は自国内の非輸出産業と庶民まで窮乏化する政策だ。非常に単純に、昨年の為替レートより今年の為替レートが100ウォンさらに上がればどうなるだろうか。輸出大手企業の為替差益が増える代わりに、内需に基盤を置いた零細事業者、賃金労働者の暮らしはさらに苦しくなる。
そのうえ、米国は自国通貨の価値を下げる国々を不審な目で見ている。チェ・サンモク副首相の「ニューノーマル」発言から1カ月も経たないうちに、米財務省は韓国をドイツ・中国・日本・台湾・ベトナム・シンガポールとともに観察対象国に再指定した。
(中略)
人為的な切り下げは中国の例を見れば簡単に理解できる。ドルの価値を示すドル指数は昨年から下落している。何も変わっていなければドル価値が下がったので人民元価値は相対的に高くなる。それで人民元・ドル為替レートはドル価値の下落を反映して低くならなければならない。
ところが人民元・ドル為替レートは逆に高くなった。人民元・ドル為替レートは昨年9月30日の1ドル当たり7.00元から11月には7.10元を突破し、今年4月に入ってからは7.30元台で形成されている。
国際金融界は中国政府が意図的に人民元の切り下げに乗り出したと判断している。
(中略)
韓国と日本は為替操作疑惑によく名を連ねる。米国外交協会(CFR)は2023年報告書で「米国財務省は各国中央銀行以外の主要参加者の動きを注意深く見る」として次のように韓国の例を挙げた。
「韓国銀行は(米財務省に)自分たちは外国為替市場の安定のために努力したが、2022年夏、国民年金が外貨を大規模に買い入れ、ウォンが意図せずに弱含みを見せたと主張した」
これは日本公的年金(GPIF)が円安が必要な度に市中でドルを大量に買い入れながら並べる言い訳とそっくりだ。CFR報告書は「中国が国営銀行などを通じて非公式に外国為替市場に介入する別名『見えない外貨保有高』を今や国際金融界は為替操作手段と見なしている」と韓中日の切り下げ疑惑に言及した。
米国が貿易相手国の為替レートを監視するのは、結果的にその効果が大きいためだ。韓国と日本、中国が意図的であろうとなかろうと、外国為替市場に介入してウォンを切り下げれば、結果的に韓国の輸出企業がその恩恵を受ける。
例えばSKハイニックスは昨年営業外収益1兆5000億ウォンを記録したが、為替差益に該当する純利益規模が6200億ウォンに達した。ハナ証券は昨年末の報告書で「ウォン・ドル為替レートが10ウォン上がれば現代自動車の営業利益は約1.9%、起亜自動車の営業利益は約1.7%ずつ増加する」と分析した。
為替相場の人為的な切り下げは、いつも手強い副作用ももたらす。貿易黒字がさらに増加するが、輸入物価上昇でインフレが加重され、外債負担が増え、消費者心理を悪化させる。内需企業、自営業者、賃金労働者などウォンの切り下げの恩恵を受けられないのは概して庶民たちだ。
国は資源の効率的な配分を決定する。そして為替レートは資源配分に大きな影響を与える要素だ。今、政府は誰を優遇し、誰に犠牲を強要しているのか、為替政策にすべて盛り込まれている。
韓国経済「달러당 1500원이 뉴노멀? 원화가치 하락 의도적일까 [마켓톡톡](1ドル当たり1500ウォンがニューノーマル?ウォン安は意図的なのか)」より一部抜粋
「近隣窮乏化」は中小企業や民生には悪影響だ、という指摘自体は的を得ていて良かったのですが、記事の大部分が「意図的な為替安誘導を米国がどのように見ているか」の話が長々続いているのが不思議です。一応、最後に国内への影響が書かれていますが、逆に言うとそこだけで良いように思います。
正直、米国にどう思われようと、そこは問題ではありません。先に述べたように関税率を高める行為も「近隣窮乏化」の一種ですから、実はお互い様です。
それより、それが国内にもたらす影響の方が重要で、この記事のテーマもそこだったはずですから、もっと国内外の事例(為替レート引き下げではなく、インフレ率の変化など民生に与える影響の)を示して欲しかったところです。
ところで日本や韓国、中国が為替操作国として名指しされるのは確かによくあることなんですが、口先介入で暗号資産をバインバインさせるのはどうなんでしょうね?それはそれで大概だと思いますけど。