不動産PF関連で5000億ウォンの赤字を出した貯蓄銀行、家計向けローン規模を拡大させる話

韓国には貯蓄銀行というものがあります。「銀行」 と銘打ってはいますが、いわゆる第1金融圏といわれる「銀行」とは別物です。
貯蓄銀行自体は第2金融圏、ノンバンクに分類されます。しかし、業務内容としては銀行と大差のないものとなっています。

この貯蓄銀行は、2022年には1兆5957億円の黒字を記録していました。しかし昨年2023年、5000億ウォン台の損失を記録して赤字転換しました。主な原因はPF(プロジェクトファイナンス)と言われています。
昨年上半期には貯蓄銀行の純損失規模は962億ウォンでしたが、下半期に上半期の4倍以上の損失が発生しています。テヨン建築の流動性低下を受けて不動産PF不良の懸念が高まると、金融当局は今まで一般企業ローンに分類していた土地担保ローンに対して不動産PFに準ずる充当金を積み上げ、PFローンの資産健全性を維持するようにしました。
この措置により貯蓄銀行の損失規模が拡大したということなのですが、これは裏を返せば貯蓄銀行の収益はそれだけPF事業に依存していたということでもあります。貯蓄銀行は2014年まで赤字で2015年から黒字に転換したのですが、それはちょうど急速に不動産PFが拡大した時期と一致します。

そんな貯蓄銀行が次に目をつけたのが中・低信用者向けの貸出ローンです。

 



毎日経済の記事からです。

「1千億以上増えた」...不動産に愛を引っ張られた貯蓄銀行、「これ」で金を稼ぐというが


(前略)

25日、貯蓄銀行中央会によると、今年第1四半期末基準で貯蓄銀行が取り扱った中金利貸出規模は1兆7770億ウォンで前年同期比6.5%(1085億ウォン)増えた。

(中略)

金利貸出は信用評点下位50%の借主に実行される貸出だ。貯蓄銀行の立場では金利上限要件を満たした貸出に対しては信用供与額限度に対するインセンティブを提供される長所がある。

(中略)

貯蓄銀行業権が昨年5559億ウォンの損失を記録した中で貯蓄銀行が執行する民間中金利貸出が増えたのは異例のことだ。これまで貯蓄銀行が取り扱う民間中金利貸出は引き続き減少傾向を示してきた。昨年第1四半期だけでも債券市場の梗塞にともなう高金利状況が持続し与信営業が難しくなり、民間中金利貸出規模は前年同期2兆7562億ウォンから1兆6685億ウォンに43%も急減した。

貯蓄銀行中央会関係者は「不動産景気低迷で不動産PFなどを含む企業貸出が難しくなり家計貸出が増えた影響がある」として「リスク管理次元では規模が大きい企業貸出規模より相対的に規模が小さい中金利貸出が有利だ」と話した。

(後略)



毎日経済「“1천억 더 늘었다”...부동산 발목잡힌 저축銀 ‘이것’으로 돈번다는데(「1千億以上増えた」...不動産に愛を引っ張られた貯蓄銀行、「これ」で金を稼ぐというが)」より一部抜粋

他にも政策公庫が保証する政策金融商品の販売など収益性は低いものの、公的機関が後ろ盾となる低リスクの中・低信用者向けのローン販売にも積極的なようです。
ちなみに、貯蓄銀行は2020年基準まで不動産PFの不良債権率が0%でした。それが突然、2023年基準で最大10%まで膨れ上がったという経緯があります。

不動産PFもそうだし、香港ELSもそうなんですけれども一極集中感がすごいですよね。大体の問題は、この一極集中のせいで起こっているような気がするんですが...周りがやっていることの波に乗り遅れるのが怖いのでしょうか?


電気料金政策で韓国を真似したら失敗したという話

電力会社の赤字垂れ流しの件については、韓国の事例を度々取り上げていますが、実は台湾も負けていません。
1995年の電力自由化以降、台湾の民間発電所が生産する電力は台湾経済部傘下の国営企業に全て購入されています。
しかし、ここ数年の急激な原材料価格高騰により損失が拡大。日本円でおよそ2兆6000億円の赤字を抱えています。

これは蔡英文政権で推進されている脱原発にも影響しています。台湾当局は2016年から脱原発を推進。2025年までに国内で稼働している原発6基すべてを停止し、太陽光など再生可能エネルギーに置き換える計画でした。そのために必要な新たなグリッド網の施工などの設備投資にも大きな影響が出ているとのことです。

で、これのどこが韓国を真似したての失敗なのかというと。原材料価格が高騰した時に、台湾政府はインフレを抑制するために電気料金の引き上げを凍結したことです。これは韓国の政策を模倣してのことです。
結局、韓国ではレゴランド事態など債券市場の流動性低下も相まって、韓国電力公社社債の発行制限を受けるなど赤字縮小の方向に舵を切ることになりました。その結果、電力料金が値上がりしています。
韓国から遅れること約1年半で台湾は同じ選択をすることになりました。

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米経済紙「韓国の不動産PF不良111兆規模」、金融当局「誇張されている」という話

ブルームバーグが韓国のPF(プロジェクト・ファイナンス)に関してリスク懸念の記事を報じました。
ノンバンク(第2金融圏)の「不動産融資の規模は926兆ウォンで10年で4倍」、「PF負債規模は111兆ウォン」としています。記事は、韓国で起こることは他の国でも起こりかねないこと、とした上で、韓国は上手く対応しており、総選挙が一段落したことでPF不良債権処理を加速させるだろうとしています。

この報道を受けて韓国金融当局は「誇張された側面がある」と反論しています。

 



マネートゥデイの記事からです。

「不動産PF不良111兆」外信報道に金融当局「誇張された側面がある」


(前略)

金融当局の高位関係者は24日「国内不動産PFに『ストレス』要因があるのは事実だが、グローバル市場に照らして韓国が2番目に危険だと指摘した外信報道は誇張された側面がある」として「最悪のストレス状況を仮定した不良に評価基準が各々違うことはありうるが、111兆ウォンという規模は過度に大きいと見られる」と明らかにした。

前日、ブルームバーグ通信はシティ銀行、野村証券などの報告書を引用して「危険素地がある韓国のPF負債規模が111兆ウォンに達する」、「韓国が世界の影の金融の弱い輪になりかねない」と指摘した。特に「シャドーバンクの金融不良を招きかねない取引活動水準は韓国が先進国の中で米国の次に2番目」としてノンバンク部門の不動産規模が926兆ウォンで史上最大規模だと指摘した。

これは3月、金融当局が公開した不動産PF発表数値とは相当な距離がある。金融当局は昨年末基準で不動産PF規模は135兆6000億ウォンだと発表した。シャドーバンクとして名指しされる非銀行圏の規模は貯蓄銀行9兆6000億ウォン、与信専門25兆8000億ウォン、証券7兆8000億ウォン、相互金融4兆4000億ウォン、保険42兆ウォン水準だ。

延滞率は平均2.70%だった。貯蓄銀行の延滞率は6.94%で前年末の2.05%比3倍以上跳ね上がり、証券は13.73%に上る。与信専門社も4.65%を記録した。ただし金融当局は2011年貯蓄銀行事態以後、歴史的高点延滞率が平均13.62%であったという点に照らしてみれば「全般的に安定的な状況を維持している」と診断した経緯がある。

(後略)



マネートゥデイ「"부동산 PF 부실 111조" 외신보도에 금융당국 "과장된 측면 있다"(「不動産PF不良111兆」外信報道に金融当局「誇張された側面がある」)」より一部抜粋

ブルームバーグの該当記事の日本語版を読みましたが「グローバル市場に照らして韓国が2番目に危険だ」などということは書かれていません。単にノンバンクという業態の規模が米国に次いで2位ということが書かれているのみです。

また記事の書き方だと926兆ウォンという数字がシティバンク野村証券の報告書から導き出されているように読めますが、この数字は韓国資本市場研究院(KCMI)のデータです。(この組織が何者なのかよく分かりませんが、中央日報などもここの研究委員のインタビュー記事を載せてます)

まとめると、ブルームバーグの元記事に書かれていあることは以下です。
1. 韓国のシャドーバンクによる不動産セクターへの融資額は昨年過去最高の926兆ウォンと、10年前の4倍強となった(KCMIのデータより)
2. 韓国で金融不安をもたらしかねないシャドーバンクの割合は、ほかの先進国と比べて大きく、相対的な規模では米国に次ぐ2位となる。(金融安定理事会:FSBのデータより)
3. 昨年、韓国のある主要金融グループでは延滞率が6.55%と、前年の2倍近くに上昇した。

このうち、1と2をゴッチャにして反論しているのが記事の内容となります。

しかも弱いです。「PF負債規模が111兆ウォン」に対して「不動産PF規模は135兆6000億ウォン」としか書かれていません。全体規模が135兆6000億ウォンなのに、そのうち111兆ウォンが「不良」となれば、確かに誇張に聞こえます。
しかし、反論するのであればKCMIが出した「926兆ウォン」はどういうことなのか?記事中では何ら触れられていません。
ノンバンクだけで926兆ウォン規模の不動産事業を抱えている...全部が全部PFでは無いとしても、近年の韓国でのPF規模拡大速度を考えると半分がPFと言われても驚きません。

そもそも金融当局が発表した不動産PF規模からは、初めからセマウル金庫の貸出額や貯蓄銀行の土地担保貸し出しが除外されています。(セマウル金庫は確か管轄省庁が違うため統計データも別々になっていたはず)
証券会社の分も丸々抜けています。そしてその抜けている証券の延滞率が「13.73%」です。
そもそもの発表データが不完全なものの時点で説得力がありませんよね?金融当局も本当の規模を把握できているのか疑問です。


建築業界の不況が関連業種の就業者数に影響し始めた話

2023年下半期の雇用調査結果が発表されましたが建築業界の不況が関連産業の就業者数へも影響を与え始めているようです。
就業者数の減少幅が大きい従業者のうち五業種が建設景気の萎縮の影響を受けた見られています。

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平均年収が5000万ウォン(500万円)突破と未払い賃金前年同期比40%急増が両立する話

おそらく基準が異なるため、単純な比較はできませんが一説では日本の十数倍と言われる韓国の賃金未払い問題。昨年、史上最大規模を記録しましたが、今年に入って第1四半期だけですでに40%も急増していることがわかりました。
主な原因は建築業界の不況とされています。

 



聯合ニュースの記事からです。

景気がこんなに悪いのか...昨年、史上最大の賃金未払い、今年も40%急増


(前略)

18日、雇用労働部によると今年第1四半期に未払い賃金は5718億ウォンと集計された。

これは昨年第1四半期(4075億ウォン)より40.3%急増した金額だ。

現在の傾向が続けば賃金未払い額は上半期に1兆ウォンを突破する可能性がある。

(中略)

年度別賃金未払い額は2019年1兆7217億ウォンからCOVID-19大流行期間である2020年に1兆5830億ウォン、2021年に1兆3504億ウォン、2022年に1兆3472億ウォンに減少した。

しかし、昨年は1兆7千845億ウォンで前年より32.5%急増し、史上最大を記録した。

しかも今年第1四半期の賃金未払い増加率は昨年の増加率よりさらに高い40.3%に達し憂慮をより一層大きくする。

賃金未払いが増えた原因としては、全般的な景気低迷と共に建設業界の不況が挙げられる。

建設産業知識情報システムの統計を見ると、先月、総合建設業の新規登録業者は104社で、昨年同月(333社)比68.7%急減し、廃業業者は同期間83社から104社へと25.3%増えた。

昨年も建設業界の不況は賃金未払い急増の主要原因に挙げられた。

昨年、建設業の賃金未払い額は4363億ウォンで全体未払い額の24.4%を占め、前年(2925億ウォン)より49.2%急増、全体未払い額の増加傾向を主導した。

(後略)



聯合ニュース「경기 이렇게 안 좋나…작년 사상최대 임금체불, 올해도 40% 급증(景気がこんなに悪いのか...昨年、史上最大の賃金未払い、今年も40%急増)」より一部抜粋

未払い賃金が40%も増加しているのに、平均年収は初めて5000万ウォンを超えたという報道があります。

事業者の規模別で見ると、300人未満が4296万ウォン、300人以上は6968万ウォンとなりました。
業種別では金融・保険業が8722万ウォンで最も高く、宿泊・飲食業が3029万ウォンで最も低かったとのこと。

賃上げ率は2011年と比較して50.1%にもなります。2023年の調査ですので、12年で給与がおよそ1.5倍になったと言い換えてもいいです。結構なペースですが、その裏で賃金未払いは急増していると...なんとも歪な状況です。

もしかしたらこの調査(韓国経営者総協会「2023事業体賃上げ特徴分析」)、額面で約束されているものの、実際には未払い状態のものも含まれているのかもしれません。
そう考えた方がしっくりくるくらいには違和感があります。


医大生増員、韓国政府事実上の「譲歩」提案の話

医大生増員に関して、韓国政府が譲歩するような動きを見せました。
今まで「2000人増員に変更はない」としていましたが、2025年度に限ってのみ、増員枠の50%以上100%以内で大学側が増員数を自主的に決定できるようにする案を提案しました。
2025年度募集枠に関してのみの限定措置で、2026年度枠からは2000人に戻すという対応のようです。

政府のこうした対応について医師側は「合理的ではない」と主張し、受け入れていません。また、これは実質的な「譲歩ではないか」との指摘もあります。
どちらに対しても非常に中途半端な対応となっている気がします。

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今年のG7には招待されなかった韓国…「G7プラス外交目標が色あせた」という話

今年の6月にイタリアで開催される主要七カ国首脳会議(G7)に韓国が招待されませんでした。韓国メディアが一斉に報じています。

招待国の選定は議長国であるイタリアの権限です。今回、主な議題として取り上げられるのが地中海難民問題や中東問題と見られることから、それと関連のある国がオブザーバーとして招待される見通しです。ロイター通信によるとアルゼンチン、エジプト、チュニジアケニアアルジェリア、インド、ブラジル、南アフリカなどの名前が挙がっていました。

 



ハンギョレの記事からです。

ユン、G7首脳会議に招待されなかった...6月のイタリア訪問「不発」


(前略)

外交筋は19日、「イタリアのプーリアで6月13~~15日に開かれる主要7カ国首脳会議の招待国リストに韓国は含まれていない」と伝えた。

(中略)

イタリアは今年の主要7ヵ国首脳会議で、自国の主要議題である難民問題の解決策をはじめ、アフリカ開発支援、ウクライナ戦争と中東事態などを集中的に議論するという立場であり、このような議題に寄与できる国家を中心に招待国を決めたという。

(中略)

韓国は2020年以降、主要7ヵ国の首脳会議に3度も招待された。米国が議長国だった2020年、英国が議長国だった2021年、日本が議長国だった2023年に参加した。ユン・ソンニョル大統領が米国をはじめとする西側諸国と積極的に連帯する外交をしてきたにもかかわらず、今年の首脳会議に招請されず政府が強調してきた「グローバル中枢国家」、「G7プラス」外交目標が色あせたという評価が出ている。

(後略)



ハンギョレ「윤, G7 정상회의 초청 못 받았다…6월 이탈리아 방문 ‘불발’(ユン、G7首脳会議に招待されなかった...6月のイタリア訪問「不発」)」より一部抜粋

総選挙で野党である共に民主党議席数で与党国民の力を上回りました。この流れだと、次の大統領選は野党の勝利となります。
共に民主党の代表であるイ・ジェミョンさんは、先月22日外遊先で「台湾海峡がどうなろうと、中国と台湾の国内*1問題がどうなろうと、私に何の関係があるのか」という趣旨の発言をしました。
イ・ジェミョンさんが次期大統領かどうかはともかく(世論調査ではチョ・グクさんが人気の様子)、この発言は民主党の支持率に影響しませんでした。

呼ばれなかったのは、そういうところだと思います。
「自国内以外はどうでも良い」という考えの人と、国際問題の何が話し合えるというのでしょうか?
しかも、自国から最も近い台湾海峡への懸念にさえこの態度なのです。遥か遠くの中東やアフリカに対しては言わずもがなでしょう。

記事の文面からも透けて見えます。「グローバル中枢国家」とか「事実上のG8」だとか、そんな体裁や肩書きばかりに目がいって内容が伴っていません。
台湾海峡がどうなろうが韓国に何の関係も無い」と言い捨てる姿と、自国の見てくれだけを気にしている記事の文面は、表現の仕方が違うだけで「自分本位」な本質が同じように表れていると感じます。


*1:朝鮮日報の記事内の記述によると、はっきり「국내 문제(国内問題)」と書かれています。つまりイ・ジェミョンさんは明確に台湾を中国の一部とみなしています。