2016年の記事で、少し古いのですが、「不謹慎狩り」という言葉を紹介している記事があります。(私は初耳の言葉です)
大きな災害の後などに、SNSで楽しそうな投稿をしている人をターゲットに、「被災した人が居るのに不謹慎だ」という非難を展開するものだそうです。
そうした言葉の紹介と、その背後にある心理や構造を説明している記事なのですが、「ネットの言説に流される若者たち」というサブタイトルが付いています。
ざっくりと言うと、
- 不謹慎狩りに参加しているのは、若者も含めたネット住民
- 不謹慎狩りは炎上にも繋がる
- ネットで社会正義のために闘う人たちの正義感は薄っぺらく独善的で攻撃的
- 自身の鬱憤を晴らすための代替え行為
- 不謹慎狩りに熱意を感じている若者は少なくない
- ネットの限られた情報にだけ接している若者は流されやすい
こうした内容がほぼ何のデータも示されずに書かれています。
唯一出てきたデータは15歳〜19歳を対象とした「スマホ利用状況に関するアンケート調査」で、「もっとも好きな情報源」の調査結果のみです。
情報源の調査結果は「不謹慎狩り」や「炎上」と直接的な因果関係のあるデータとは思えません。
根拠なく、「若者は流されやすく不謹慎狩り、炎上を行う」と言っているようなもので、正直驚きました。日本の(自称)ITジャーナリストのレベルに。
ちなみに、統計的な手法で炎上ケースを分析している研究者のデータによると積極的に炎上に発展する書き込みを行うのはネット利用者のわずか0.05% です。
その属性として上げられているのは
- 男性
- 高年収
- 主任・係長クラス以上(社会的地位がある)
です。
「ネット情報に流されやすい若者」の属性とは対極にあるように思います。
「若者は流されやすい」「炎上を仕掛けるのは若者」という思い込みによるものではないかと感じます。
昨日の日本年金機構さんのツイートで触れたネガティブハロー効果による先入観(思い込み)ですね。
以下のデータは、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一さんの「統計分析が明らかにする炎上の実態/対策とネットメディア活用方法」を参考にさせていただいています。
炎上加担者の属性
- 主任、係長クラス以上 31%
- 一般社員 30%
- 個人事業主 9%
- 無職、フリーター、学生 30%
炎上非加担者の属性
- 主任、係長クラス以上 18%
- 一般社員 27%
- 個人事業主 7%
- 無職、フリーター、学生 48%
「主任、係長クラス以上」のネット加担者率が大きく伸びています。
逆に若者世代と思われる「無職、フリーター、学生」は大きく下がり、炎上非加担者の割合の方が大きくなっています。
数値の上では記事の主張と逆の傾向が見えてきます。
一般的にはマイノリティであるはずの層の声が炎上時には大きくなるということです。
こうした声を「ノイジーマイノリティ」と言います。
知識があり、社会的地位のある人というのは常日頃から「自分の声(考え、意向)」を大きく出すことに慣れています。
そしてそれが受け入れられることにも。
同じような振る舞いをSNS上でも行うことが炎上に発展している、と見ることが出来るわけです。
その多くは炎上させてやろうという悪意ではなく、鬱憤晴らしでもなく、あくまで自分の意見を主張しているだけの可能性が高いです。
(ただし、彼らは「世間」でも「世論」でもなく少数派)
悪意や鬱憤晴らしと受け取ると、「炎上させた側が悪い」ということになるので対策を立てる際の前提部分がズレてしまいます。
個人的には、昨日の年金機構さんや日本ハムの3.11のときのような安易な削除は望ましくないと思っています。
多くの場合、ツイートで不快感を持ったり攻撃的になったりするのは不安を持つからです。
削除や反論での対応ではなく、冷静に事実関係を整理して不安の払拭に動いた方が良いのじゃないかという気がします。
削除や反論では「臭いものにはフタをしろ」ということですから、またすぐに同じようなことが起こります。
ネットメディアを利用する限り、炎上問題は絶対に起こり続けますからね。