VOAが解説する北朝鮮の「主体(チュチェ)思想」についての話

主体(チュチェ)思想」は元々は古代中国で生まれたものです。
近年では中国の抗日運動のスローガンとなり、現在では北朝鮮を象徴する言葉となり、その意味も随分変わったようです。

VOAの、英語を第二言語として学ぶ人向けのページLearning English内に、北朝鮮主体思想について解説したコラムが掲載されていましたので、英語圏においてどのように解釈されているのか、読んでみました。


先に、日本における主体思想の一般的な解釈を確認しておきます。

主体思想とは

この世界の主人公は人間である。
よって、人間一人ひとりが主体的に行動すべきである。
しかし、人間は不完全な生き物であるから、正しい行動を行えない。
そこで、指導者たる者(金一族)が指導することで、人間は正しい行動を行える。


金一族による独裁を正当化するための思想教化と捉えるのが一般的です。


VOAの記事による主体思想の説明

主体思想という言葉は北朝鮮のほぼ、どこででも使われている。しかし、多くの部外者には理解することが難しい概念だ。
多くの点で、政治的イデオロギーの言葉だ。通常、英語に訳される場合「自立(self-reliance)」とされる。
しかし、北朝鮮の観察者にとって、主体思想は宗教のように見えるかもしれない。北朝鮮人を鼓舞しているように見え、国家権力の象徴である。
北朝鮮はしばしば国際社会へ向けた声明にこの言葉を用いる。
以前のスピーチで当局者は核兵器主体(チュチェ)の「宝剣」と呼んだ。

(中略)

金正恩は、核兵器の開発と経済発展を彼の支配の二つの重要な課題とした。主体思想は両方の目標への取組みを説明するために使用される。この用語がキムの支配下で、正確には何を意味するのか、外部の識者の間で議論がある。

(中略)

キム・チャンギョンは北朝鮮社会科学者協会の部長であり、主体思想の専門家。「主体思想の本質は、人間が自分の運命の主人である、ということ」。
主体思想を理解しないと北朝鮮を理解することは不可能だ、と彼は言った。「国の全ての成果は、党と国の枠組みを形成する考えに結び付けられている」と彼は言う。

北朝鮮の社会科学者であるキムは、主体思想を説明するために別の韓国語であるキムチー韓国の漬物、辛味の野菜ーと比較している。「キムチは私たちの国で造られました。しかし、私たちにとってはキムチはキムチです。キムチを説明するのに別の言葉を使う人はいません」


VOA Learning English「In North Korea, One Word Describes a Lot(北朝鮮では、一つの単語で多くを説明する)」より一部抜粋


北朝鮮が言う「主体思想」が何を意味するのか、本当のところは分からない、なぜなら、彼らの内で確立されている概念について、わざわざ別の言葉で説明したりしないからだ、と言うオチです。残念。


想定している読者は英語学習者のため、平易な英語で書かれていますし、ましてや専門家でもありません。突っ込んだ話をすることが目的ではないので致し方ないのかもしれません。

と同時に、平易な表現で説明できないということは、米国において「主体思想」を骨子とする北朝鮮という国に対する認識がまだまだ一般的ではない、ということを暗示しています。


物理的距離も遠く、思想的にも不思議の国。直接的な脅威の無い国。
そんな認識であれば、米国が外交や国防などの貴重なリソースを割く必要性を疑問視する世論が醸造されるのも納得がいきます。
在日米軍、在韓米軍駐留費がやり玉に上げられる背景には、多くの米国人にとっては所詮「他人事」との意識が強いからだろうと思われます。(トランプさんのパフォーマンスという側面も大きいでしょうが…)


日本の安全保障は、日本独力で出来ることに限りがあります。これは日本だけじゃなく、どこの国にも言えることです。
本当の安全保障は周辺国、同盟国との協調の中で維持されるものです。

ですが、日本が独力で出来ることは「主体的」に「自立」してやる必要があります。(self-reliance)
果たして今の日本の状態は十分だと言えるのでしょうか?