ソル・ミンソクさんと人気講師がいます。
専門は韓国史ですが、人気が高じてケーブルTVで世界史の冠番組を持っています。
この人、過去にはある独立運動家について「3.1運動当時、韓国第一号のキャバクラで白昼宴会を開いた」というような発言をし、その子孫に名誉棄損で訴えられ損害賠償判決を受けたことがあります。
また、こうした「極端な行動」一つを取り上げて、それを全体に拡大して当てはめ「民族代表のほとんどが1920年代に親日に転向した」というように「盛って」説明する癖があるようです。
確かに、ある程度「盛って」説明することで理解の助けとなることは多くあります。日本だと「まんがで分かる～」的な本はエッセンスだけ抽出して分かりやすくしてあるだけで、必ずしもそれだけが全てではありませんよね。
同じように一般に広く敷居を下げて理解されるように、興味を持たれるようにしようとすれば、多少の誇張表現はアリなんでしょうが、明らかな虚偽や未確認情報を恰も「事実」であるかのように広めるのはどうかと思います。
ソル・ミンソクさんの冠番組「ソル・ミンソクの裸の世界史」で、エジプト史、YouTubeで音楽史と続け様に事実誤認の指摘が上がっており、つい先日は第二次大戦中の日本による中国侵略に関しての放映でも明らかな事実誤認がありました。
専門外の分野だからでしょうか？それともまた盛り癖が出てしまったのでしょうか？
まずは日本について、どういう番組内容だったかを紹介します。
芸能ニュース関連のスターニュースの記事からです。
「裸の世界史」日本自民党が過去を謝罪しない理由［★夜TView］
26日午後に放送されたケーブルチャンネルtvN「ソル・ミンソクの裸の世界史」では中国に対する話が描かれた。
この日、これらが最初に扱った都市は南京。古代中国の多くの王朝が愛した都市「南京」についての最初の物語は「南京大虐殺」であった。中国側の記録によると、日本軍は南京を掌握した6週間で30万人を虐殺した。当時、日本軍が刃物で斬首する試合をし、このような内容がまるでスポーツ記事のように載るほど日本が犯した蛮行は残酷だった。
こうした蛮行の中心には昭和天皇がいた。第一次世界大戦で勝利した日本は太平洋の南洋群島と中国の山東半島を占めるようになり、大韓帝国まで強制併合すると欲張って満州事変を起こす。これに対して国際連盟がこれを批判して満州から撤収するよう求めると、日本は「東アジアの平和を超え、全世界の平和を維持するための手段だった」としてむしろ国際連盟から脱退する。
その後、中国と戦争して南京まで占領した日本は軍人を探し出すという理由で民間人の中から帽子の跡とタコのある男性をすべて捕まえて射殺しただけでなく、すべての人々を対象に虐殺を行った。日本は広い中国をすべて占領することは出来ないため、残った国民を対象に虐殺して降伏を取り付けようとしたのだ。また、日本軍は昭和天皇のための「聖戦」と考えたため、なんの罪の意識もなく蛮行を犯した。
南京の次はハルビンの物語が描かれた。ハルビンは30分ほど行けば収容所があるが、生体実験を行った731部隊の現場だった。石井四郎はマルタ実験の中心にいた人物だった。生体実験の目的は細菌戦のためであり、731部隊は天皇直属の部隊として創設することになった。彼らは生きた人間にペスト、コレラ、毒ガスなど各種の実験を行った。
更に日本が敗戦すると、すべての資料を焼却し、被験者を射殺して残っている資料がほとんどない。また、アメリカとマッカーサー将軍は日本の実験資料を得るために石井四郎を助けた。このため主犯たちは医科大学の学長などになり、軍人たちは実験資料を元に論文を書いて博士号を受けた。また、米国は自国の利益のために天皇を起訴しなかった。
それだけでなく、多くのA級戦犯たちが何ら処罰も受けずに国家の要職に就くなどの姿が知られ、衝撃を与えた。また、戦犯が自民党を建て、彼らのDNAを持つ安倍などが今日まで日本の政権を握っている。
（後略）
スターニュース「'벌거벗은 세계사' 일본 자민당이 과거를 사과하지 않는 이유[★밤TView]（「裸の世界史」日本自民党が過去を謝罪しない理由［★夜TView］）」より一部抜粋
この人にとっての「真実」はそうなのかもしれないけれど、それを「事実」と断言するのは些か問題があるように思えます。なにせ731部隊も南京も、文書を含め事実と裏付ける証拠が見つかっていないことですし、時系列が変です。また、明らかな「事実誤認」があります。
まず時系列については、「第一次世界大戦で勝利した日本は～大韓帝国まで強制併合すると～」と事実関係が逆転しています（第一次世界大戦は1914年勃発、日韓併合は1910年条約締結）。これは記事の構成の問題かもしれません。
次に、「戦犯が自民党を建て、彼らのDNAを持つ安倍などが今日まで日本の政権を握っている」この部分は安倍前首相がDNAを持つというからには、祖父である岸伸介元首相を指してのことでしょう。韓国では岸伸介元首相について報道する際に「戦犯」あるいは「A級戦犯」として報じていました。（最近ようやく聞かなくなりました）
ですがこれは明らかな間違いです。岸伸介元首相は取り調べは受けていますが不起訴処分です。不起訴である以上、戦犯と呼ぶのは虚偽事実です。
ここからは私見です。
鬼の首を捕ったように「A級戦犯」と糾弾する人たちのうち、「A級戦犯」がどういう罪なのか把握している人は一体どのくらいいるのでしょう？単純に罪の重さだと誤解している人の方が多いのではないでしょうか？（ABCはただのカテゴリ分けで罪の重さではない）
私は未だに分かりません。「平和に対する罪」って一体どんな罪なのでしょう？
思想犯並みに都合良く使える罪状に思えます。
この回の放送についても、一部では批判や指摘が起きているようです。ただ、その批判は大分的外れ感が否めません...。
ソウル新聞の記事からです。
ソル・ミンソク、しきりに間違えるが...「脚色は必要」 vs 「事実が重要」
（前略）
今回の放送では南京大虐殺・731部隊・戦犯裁判などを中心に日本の中国侵略の歴史が説明された。同放送では「神」として君臨した昭和天皇が敗戦直後に格下げされる過程を放送した。昭和天皇の「人間宣言」を題材に、彼が神から人間に墜落する過程を説明した。
ソル・ミンソクのこの日の講義内容に対し、一部のソーシャルメディアでは「マッカーサーが生体情報を得るために731部隊の石井を助け、昭和天皇も戦犯裁判に処さなかった」とし「反米感情を煽って土着倭寇商売をする」とし「マッカーサーが米国の国益のために私たちを助けてくれたということを誰が知らないのか、浅はかな知識で国民を小学生水準にするのではないか」という批判が出た。
「731部隊」の存在や戦後の天皇問題など歴史的事実を歪曲したわけではないが、公然と反米感情を刺激する感じがするということだ。
ソル・ミンソクは戦勝国の米国の圧迫を受けた昭和天皇が「私は神ではない。『神の末裔に過ぎない』と発言した」と人間宣言の核心をまとめたが、実際の人間宣言では天皇がこのような発言をしていない、という指摘も出た。
（中略）
ソル・ミンソクの歴史歪曲問題は19日にエジプトの歴史について取り上げた放送後に激しくなった。韓国エジプト学研究所のクァク・ミンス所長がソーシャルネットワークサービス（SNS）を通じて「やはり心配していた通り事実関係が誤った内容がどんどん積み上げられていく。ただ見てはいけない」と放送で言及された歴史内容の誤りを指摘したためだ。
（中略）
音楽を扱ったユーチューブ映像も議論となった。ソル・ミンソクは15日、ユーチューブに「ジャズが初心を失ったR&Bが誕生した」とし「フランク・シナトラ以後、白人が黒人音楽を歌った」や「（黒人たちは）初心を失ったということだ。それで黒人だけのルネッサンスが始まった」という映像を掲載し、議論を呼ぶと削除した。
ジャズ・ピープルのある記者はコメントで「ジャズが初心を失ってR&Bが誕生したという話は初めて聞く」とし「（ソル・ミンソクの主張とは違い）R&Bはブルースが米国南部の黒人バーを越えて米国全域の多くの人に伝わる過程で誕生したジャンル」と説明した。
（後略）
ソウル新聞「설민석 자꾸 틀리지만… “각색은 필요” vs “사실이 중요”（ソル・ミンソク、しきりに間違えるが...「脚色は必要」 vs 「事実が重要」）」より一部抜粋
原文の記事はどちらも記事中で昭和天皇を「日王〇〇」または「〇〇日王」と表記しています（〇〇は名前）。どうも感覚的に合わないので訳では全て「昭和天皇」に置き換えています。
エジプト史の内容の誤りを指摘したクァク・ミンス所長は韓国で唯一のエジプト史の専門家です。
彼は「『歴史的事実』と伝聞を一緒に話すのは、歴史の話に関心を集めるための良い戦略ではあるが、やろうとしていることが『謎解き』ではなく『歴史物語』であるならば、これら2つを明確に区別しなければならない」とも述べており、全くその通りだと思います。この辺りが「講師（話者）」と「学者（研究者）」の違いかもしれません。
このように多くの「事実誤認」をしているにも関わらず、日本に関する部分は「反米感情を刺激している」とか、ちょっと批判が斜め上過ぎてピンときません。
「731部隊の存在や戦後の天皇問題など歴史的事実を歪曲したわけではないが」という所にもっと疑問を持ってほしかったですね。
この辺は韓国社会の「口」に合ったんでしょうか。残念。
