不動産価格は下落するも家賃負担は増加...社会的・経済的剥奪感を感じる20・30代の話

近頃の韓国の住宅価格は下落基調で、10月の首都圏では前月比1.20%の下落幅を記録。これは2008年の金融危機以来最大の下げ幅でした。
実際に売れた物件の例だと去年の8月に、マンションの階は異なるものの16億6000万ウォンで売れた物件が11億8500万ウォンと、4億7500万ウォン下がったり、同じく去年の10月に27億ウォンの最高値を付けた物件は7億2000万ウォン安い19億8000万ウォンで売れたりしています。

ところが、賃貸の家賃は逆に上昇傾向にあるようです。
もともと韓国では韓国独自の「伝貰(ジョンセ)」という制度が一般的でした。借主が家主にまとまった額を保証金として前渡しし、退去時に全額返却してもらうというものです。家主は契約期間中に保証金を自分で運用して、そこで得た運用利益を家賃替わりに受け取ります。1970年代から普及したものらしいんですが、「株を買っておけばどれでも上がる」「銀行に預けておけば金利で安泰」という高度経済成長(ある意味イレギュラー)期でなければ通用しない仕組みです。

賃貸契約で家賃が占める割合は2020年には全体賃借取引の40.4%でした2021年はこれが43.0%に微増し、今年は9月までで51.8%に急増しています。ただ、月極家賃であってもある程度の保証金は必要なため結局のところジョンセ制の亜種です。家主が自分で投資して利益を得ていた部分を「家賃」として接収するようになったと考えた方が分かりやすいです。

この変化も金利上昇の影響によるもののようです。
今年1月から2億ウォン(約2千万円)以上のローンの場合、利子を含めた年間の返済額が年間所得の40%まで(第2金融圏は50%まで)となるよう規制が強化されました(7月から1億ウォン以上に拡大)けれども、ジョンセ金は対象外のはずです。そのためDSR規制による変動とは考えにくいです。

韓国の家賃制度は日本と比べると複雑怪奇ですが、ザックリ言うと最初に渡す保証金が多ければ多いほど月々の家賃をお安くできる、というシステムとなっています。
このとき、どの程度家賃をお安くできるかを「ジョンセ - 家賃転換率」で計算します。
(例、転換率12%の場合:初期設定=保証金200万円、月々家賃4万円 カスタム1=保証金:300万円、月々家賃3万円 カスタム2=保証金100万円、月々家賃5万円...など)
この転換率がローン金利より有利となっていたため家賃の割合が増えたということのようです。
しかし転換率は金利に影響されるので金利上昇に伴いジワジワ上がってきています。上昇分は当然家賃に上乗せされます。

つまり、ヨンクル(魂を売ってまで借金)して家を買った人は金利で、無理をしなかった(できなかった)人も家賃で、それぞれ大変な状態ということです。家賃派でも人によっては保証金をローンで借りているでしょうから、この場合は両方の負担増ですね。下がるのは不動産価格だけ。

 



アジア経済の記事からです。

「ヨンクル族だけが大変なわけではないです」2030代の家賃族も気を揉む


(前略)

17日、韓国不動産院によると全国基準で10月の家賃統合価格(家賃・準家賃・準ジョンセ含む)指数は前月比0.05%上昇した103を記録し、歴代最高値を更新した。2019年12月以降、58ヵ月連続で上昇傾向を見せている。金融危機以後、最大の下げ幅を記録している売買市場、逆ジョンセ難*1の憂慮が拡散するジョンセ市場とは明確に対比される流れだ。

利上げ基調は家賃をさらに刺激している。ジョンセ資金貸出の利子負担が大きくなり賃借人も家賃を好んでいる状況だ。KB不動産によると、ソウルのマンションの賃借料転換率は10月、3.28%で、1年前(3.14%)に比べて0.14%上昇した。マンションの家賃指数は同時期98.2から104.8に上昇した。

(中略)

実際、20・30世代の家賃負担は毎年史上最高値を更新している。不動産院の「年齢別家賃額平均現況」資料によれば、20代以下の家賃支出額は2020年12月に40万ウォン、2021年12月に43万ウォン、今年9月に44万ウォンに上昇した。30代の家賃額も同期間46万ウォン、51万ウォン、52万ウォンと着実に上がった。

(中略)

賃貸借市場の不安が持続し、政府も青年・低所得層のための家賃支援策を出しはしたが不足しているという指摘が出ている。国土交通部は今年から「青年家賃一時特別支援」事業を施行している。今年8月から来年8月まで申請者を募集し2024年12月まで無住宅などの事業対象青年に月20万ウォンを最大12ヵ月間支援する計画だ。ただし青年家賃支援事業の明確な法的根拠はなく、一時的に運営されており2024年以降は廃止される予定だ。

(中略)

一方、住居費の負担は深刻な社会経済的剥奪感につながっている。国土研究院が最近発刊した「住居費負担が社会経済的剥奪に及ぼす影響」報告書によれば全体回答者の41.4%は現在の所得対比住居費負担水準が高いと認識した。このような認識は家賃世帯ではるかに高く(68.2%)現れている。住居費負担は保健・娯楽・教育など各種非住居分野支出の減少につながった。回答者の58%は自分が持っているものを他人と比較すると剥奪感を感じると答えた。



アジア経済「"영끌족만 힘든 건 아니잖아요" 2030 월세족도 끙끙(「ヨンクル族だけが大変なわけではないです」2030代の家賃族も気を揉む)」より一部抜粋

「他人と比較すると剥奪感を感じる」...直訳です。「剝奪感」とは、なんとも違和感のある表現です。
自分より上位階層もしくは上位集団の言葉と行動、あるいは上位集団の平均値と自分の境遇を見て感じる剥奪感、疎外感と定義される相対的剥奪感。他人と比較して「そう」感じるのであれば、他人が持っているものはもともと自分が持つべきものだった、そんな認識があるんでしょうね。


記事中の「家賃」「準家賃」「準ジョンセ」の違いを説明しておきます。
保証金が家賃1年分より少ない場合は「家賃」になります。保証金が家賃1年分以上10年分以下の場合は「準家賃」とされます。保証金が家賃10年分以上の場合は「準ジョンセ」に分類されます。
法的な区分けなのかは分かりませんが、賃貸情報には前述のルールでの記載となっているようです。

他にも家賃を低く抑えて管理費を高く設定する「管理費小細工」という問題もあるそうです。保証金が6000万ウォン(約600万円)以上かつ家賃が30万ウォン(約3万円)以上の場合、家主は契約内容を当局に申告する義務があるのですが、これを誤魔化すために敢えて家賃を下げて管理費に転嫁するわけです。(例:家賃7千円、管理費3万8千円など)
こうした「管理費小細工」物件を含めると家賃負担の実体はより深刻である可能性があります。



*1:需要(借主)より供給(家主)が多い状態。