「全羅道千年史」無期限発刊延期となった話

韓国の全羅道が2018年頃から「全羅道千年史」の編纂を進めていたそうです。なんでも「全羅道」という行政区が出来て1000年を記念しての事業だったとか。
2018年から2022年までの5年間で24億ウォンの予算を投じ、全34冊(2万ページ)作成されたそうです。
しかし、この中の「古代史」と「現代史」の一部記述を巡って「問題」とする声があがり、結局発刊は無期限延期となりました。「問題」とされた部分は日本(と一部中国)絡みです。

 



ソウル新聞の記事からです。

今年公開するとしていた全羅道千年史、発刊無期限延期された


(前略)

29日、ソウル新聞の取材を総合すると、これまで問題になっていた植民史観議論に続き、最近盗作問題まで浮き彫りになり、全羅道千年史の発刊自体が一時停止した様子だ。前羅北道議会のイ・ビョンド議員(全州1)は19日、臨時会本会議で全羅道千年史の盗作問題を集中的に追求した。

イ銀は「全羅道千年史編纂事業の委託を受けて推考した全北研究員は執筆陣別に提出した原稿に対して盗作検査を進めた結果、類似度比率20%を超過した事例は無かったというのが道の説明だった」とし「しかし盗作検査プログラムであるコピーキラーを活用して導出された結果、66%の類似度率が確認された事例が確認され、全北もやはり一歩遅れて盗作事実を認めた」と話した。

(中略)

これに先立って全羅道千年史は植民史観など歴史歪曲論議の中心にあった。「任那日本府」説の根拠として使われた「日本書紀」の記述内容を借用したというのが一部歴史学者の主張だ。12日、文体委国政監査で全羅道千年史編纂委員長と歴史歪曲を主張する市民団体代表が証人・参考人として出席し、全羅道千年史の一部内容に対して論争を繰り広げもした。

(後略)



ソウル新聞「올해 공개하겠다던 전라도 천년사, 발간 무기한 연장됐다 (今年公開するとしていた全羅道千年史、発刊無期限延期された)」より一部抜粋

盗作云々で発刊無期限延期になったかのように報じられていますが、そもそも盗作問題が持ち上がる前、今年の8月頃には日本絡みで騒ぎが大きくなっていました。どちらかというと盗作問題は体の良い口実ではないでしょうか?


では、日本絡みで何が問題にされたかというと、記事でも少し触れられていますけれど「古代史」部分で韓国で主張されている「古朝鮮」の記述部分が縮小されている点、馬韓百済の歪曲、そして何より「日本書紀」の記述を採用し「任那日本府」について触れられている点です。

古朝鮮」については建国時期を中国の史料を元に紀元前8~7世紀(韓国では紀元前12世紀を主張している)と、成立を「遅らせた」上に、地域を朝鮮半島に限定。満州を含めなかったことを中国の「東北工程と同じ」と批判しています。

しかし、「古朝鮮」に関しては「紀元前12世紀」がギリギリです。国家の成立には青銅器時代が必要とされており、現在朝鮮半島で見つかっている青銅器は最古のものが紀元前12世紀頃のものです。
ただ、韓国の学界も当然一枚岩ではなく、この「紀元前12世紀」が都合の悪い人たちも居ます。
なぜかというと、この時代は箕子朝鮮で中国の支配下にあったとされているからです。歴史アイデンティティ的に都合が悪いので「朝鮮の歴史に入れるべきではない」とする人たちも居るわけで、そうした思惑から「紀元前8~7世紀」に調整した可能性があります。

次の馬韓百済の歪曲は三国史記の関連記録を否定(具体的なことは不明)し、日本書紀に書かれた「肖古王(近肖古王)」が日本(大和)に忠誠を誓った云々の内容が引用されていることが気に入らないようです。

最後の任那日本府については「今西龍の学説を受け入れたもの」と指摘しています。「日本帝国主義学者」と枕詞を付けた上で。よくある「人格攻撃」ですね。学術的に反論すれば良いのにそれをせず、その人の「人格」を貶めることで主張そのものの説得力を奪おうとするやり方です。
しかし、任那日本府の存在は日本書紀以外でも示唆されています。例えば、広開土王の碑文には「倭が百済新羅などを破り、臣民とした」と読める部分があります。韓国では「日帝が改ざんした」とされてきましたが、2006年に1881年に採られた拓本と内容が一致していることが確認されています。(もちろん、韓国ではこの解釈はタブーです)
他にも、新羅百済任那が「あった」とされる周辺で日本産のヒスイ(東アジアでは日本とミャンマーくらいでしか採れない)が大量出土していること。日本独自の前方後円墳全羅南道で多数見つかっていること、しかも作成年代は日本のものより「新しい」こと...。
これらのことから、日本と何らかの繋がりがある集団が居たことは間違いないだろうと推測できるのですが、そこら辺には丸っと触れず、ただ単に「日本帝国主義学者の主張を受け入れたもの」というだけで「けしからん」というわけです。


他にも全羅道の千年史なのに、その根拠を中国や日本の歴史書に依存している、という点を問題視する意見もあったようです。確かにその通りですけど、でも韓国(朝鮮)は古い記録が全然残ってないので仕方ないんですよねぇ...。朝鮮最古の歴史書が完成したのは12世紀で、それすら中国の史書からの引用が多いとされていますし...。

後は「檀君神話」が「神話」として「歴史」から除外されたこと。これが「日本帝国主義の御用学者」が主張した内容で、「植民地史観」と批判されたようです。