平成31年度版外交青書(外交青書2019)の話

外務省HPで今年の外交青書が公開されました。

日本の国内メディアより、なぜか韓国のメディアの方が大騒ぎしています。
韓国に対する記述の変化を「格下げ」と受け取ったようです。

特に中国に対する記述が軟化したのと比較して、韓国に対して否定的な面が記載されたことを駐韓日本公使に「強く抗議」したそうです。

個人的にはロシアに対する記述で北方四島の「日本に帰属する」とした文言が削除(帰属について触れず)が気になります。


外交青書とは


日本の外交の記録をまとめたもので、毎年発行されています。

国際情勢を日本政府がどのように認識しているか、どのように対応しようとしているか、日本が外交上、重きを置いている国はどこかということを俯瞰するのに役立つ一次資料と言えます。
これを見ることで、日本の外交政策や方針を確認することができるんですね。

特に近隣諸国(露・中・韓・北)との関係は重点的に記載されています。


変更点


概要は既にアップされているので見ておこうかと思ったのですが、わざわざ読まなくても韓国メディアがまとめてくれていたので参考にさせてもらいました。

f:id:Ebiss:20190424163801p:plain:w400

画像の赤字矢印の部分は、韓国メディアの意見です。


以下が訳になります。項目(画像の一番左端)別になっています。

担当大臣
  • 2017年:岸田外相
  • 2018年:河野外相
  • 2019年:河野外相
日韓関係
  • 2017年
     韓国は戦略的利益を共有する最も重要な隣国
  • 2018年
     良好な日韓関係はアジア太平洋地域の平和と安定に不可欠
  • 2019年
     旧韓半島出身の労働者問題に関する韓国最高裁判決など、韓国側による否定的な動きが相次いで非常に困難な状況に直面している
     → 韓国に葛藤の責任転嫁
北朝鮮問題
  • 2017年
     拉致・核・ミサイルなどすべての懸案を包括的に解決する努力
  • 2018年
     北朝鮮の核、ミサイル破棄実現のために日米韓3カ国間の政策協議を継続
     北朝鮮への圧力を最大限高めていくこと
  • 2019年
     朝鮮半島の非核化のために米朝プロセスの後押しが重要、対北朝鮮問題解決のため、米朝、韓国と協力して、中国とロシアをはじめとした国際社会と連携する
慰安婦問題
  • 2017年
     2015年12月、両国外相が最終的不可逆解決を確認
     軍官憲による強制連行、数十万人の慰安婦、性奴隷などの主張に対して事実として認識していない日本の立場の推進を継続努力
  • 2018年
     最終的不可逆解決を確認
     韓国政府の新たな要求は絶対に受け入れ不可
     軍などによる強制連行関連部分は前年と同じ
  • 2019年
     当事国間の法的解決済みの立場
     韓国の他、米国、カナダなどで慰安婦像設置の動きは遺憾
     軍などによる強制連行関連部分は前年と同じ
竹島問題
  • 2017年
     竹島(韓国名:ドクト)の領有権問題は、歴史的事実に照らしてみても、国際法上明らかに日本固有の領土
  • 2018年
     韓国による竹島の占拠は不法占拠で国際法上、根拠なしに行われていることを何度も表明
  • 2019年
     昨年、韓国国会議員による3度の竹島訪問と周辺軍事訓練、海洋調査時に強力に抗議
徴用工問題
  • 2017年
     日韓請求権・経済協力協議により、完全最終解決済み
     「朝鮮半島出身旧民間人徴用工」
  • 2018年
     前年と同じ
     「朝鮮半島出身旧民間人徴用工」
  • 2019年
     韓国最高裁の判決に対する日本の対応技術を追加
     同説明補足
     「旧韓半島出身の労働者」(※呼称の変化)


韓国メディアの記事なので、韓国絡みの変更箇所に絞られていますが、この他にもロシアについては「北方四島の帰属」について触れていなかったり、北朝鮮に対して「圧力を最大限に高めていく」という記述が無くなっていたりするようです。


韓国メディアの視点で、一番言いたいことは日韓関係の矢印部分 韓国に葛藤の責任転嫁 というところで間違いないでしょう。

論理的な反論ではなく、反射的感情論による反発から「なぜ韓国のせいと言うのか!」と怒っているようです。


気になる文言


概要を見た限り、日本側は一貫して「北朝鮮問題」という文言を使っています。

ところが韓国側の翻訳はなぜか「問題」が「イシュー」と訳されています。「대북 이슈(対北イシュー)」という部分です。
竹島慰安婦、徴用工は「問題(문제)」のまま訳しているのに北朝鮮問題だけです。


英語にすると「問題」は「issue(イシュー)」とも「problem(プロブレム)」とも訳せますが、この2つは明確に使い分けられます。

  • issue:賛否両論の話題や論争についての議論
  • problem:ネガティブな影響や弊害があるため解決する必要がある問題

です。

issueに近い単語としてtopicとかsubjectがあります。

細かな言葉の差ですが、この違いを意識して使い分けているのであれば、韓国側の北朝鮮に対する立場が透けて見えてきそうです。

日本にとっての北朝鮮問題は、核兵器廃棄を目指して解決すべきproblemです。米国もそれを求めています。

が、韓国にとってはissueなのですね。
賛否両論許されるので北の核が廃棄される必要はないわけです。


北朝鮮問題に関する日本と韓国の風邪を引きそうな温度差を、英語を挟むことで端的に表しています。