「チバニアン」の話

77万年〜12万6千年前の地質年代の名称をラテン語で「千葉時代」を意味するチバニアンとして国際標準名とする動きが数年前から起こっています。
これが今ピンチだそうです。


磁場逆転の記録

地球は北極の南極に磁場があります。
現在は北極がN極、南極がS極になっていますが、この磁場は過去に何度も逆転を繰り返してきたことが分かっています。
その痕跡が地層の中に 地磁気記録(こちじききろく) として残されています。

千葉県養老川近辺はこの記録が極めて精度良く保存されていることから、地球の過去の環境変動を知る上で重要な研究対象とされています。


チバニアン命名申請と異議申し立て

こういったこともあり、茨城大学の教授を中心としたチームにより2017年に「国際層序委員会(ICS)*1」へ「チバニアン」という命名案が申請されました。

2018年にはワーキンググループによる一次審査で支持されましたが、既にその時点でひと悶着起こっていたようです。

「古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会」という国内の別の団体が委員会に異議を申し立てたのです。
曰く、「研究チームが提出したデータは、この地層と異なる場所のデータであり『捏造』である」とのことです。

これに対して研究チームは、「当時は現地データが不十分であり、協議会の求めに応じて2キロ離れた場所のデータを提出。その後、現地のデータを論文で公表しており、さらに詳細なデータを加えて学会に提出した」と反論しています。


ここで言う「協議会」とは、「古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会」のことです。
データとは、2015年時点のデータのことで、研究チームはこのとき現地で十分なデータが得られなかったので2キロ先のデータを用いて補完を行っています。
そのことは関係者には説明済みとのこと。
更に、2017年に申請をした際には「千葉セクション」と呼ばれる該当地域のみで収集したデータを用いているので問題ないとの認識です。


その後、研究チームは委員会へ反論文を提出、異議申し立てを受けて一時中断していた審査は無事再開されました。
11月には二次審査の投票で22人中19人の支持を得て競合するイタリアの2候補を退けました。


賃借契約による土地の借り上げ

ですが、「古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会」は諦めなかったようです。
この地層が含まれる場所は個人の所有地だったのですが、賃借契約を結んで10年間土地を借り上げるという荒業に出ました。
国際機関への申請には「自由な立ち入り証明」が出来ないといけません。
それを阻止しようという考えです。


借り上げたのは 楡井久(にれいひさし)茨城大学名誉教授です。
千葉県市原市では、地層のある土地の公有化に向けて、所有者から土地の譲渡についての承諾書に署名をもらっていました。ところがその後、所有者と直接連絡が取れなくなり、賃借の話が出てきたそうです。

土地の所有者はメディアの取材に対して「楡井先生にお願いしているので」という主旨の返答をしているようです。

というのも「チバニアン」という命名に向けた動きは2015年ごろから楡井教授が積極的に推進してきた動きだったのです。
2015年に久米宏さんがパーソナリティを務めるラジオにゲスト出演された際にも「チバニアン」への意気込みを熱く語られています。

なぜここへ来て全く逆のことを初めたのでしょう。


手柄の横取り

少し穿った見方ですが…。


楡井名誉教授は、正確には既に教授職を退職されています。
名誉教授というのがどの程度の影響力を持つのかは知りませんが、第一線の研究者というよりは名誉職という色彩が濃いでしょう。
更に言うと、専門が違います。楡井教授は地質汚染が専門です。

その楡井名誉教授がコツコツと進めていた「チバニアン命名運動を、楡井名誉教授の立場からすると「後からやってきた」岡田誠茨城大学教授(磁気学や放射年代専門の研究)の研究チームに横取りされた恰好に見えなくもありません。
研究チームは「チバニアン命名を申請した直後、「謝辞」として楡井名誉教授のお名前を挙げています。

楡井名誉教授が「捏造」として異議を申し立てたのはその翌年です。
メディアの取材も活発になり、岡田教授の研究チームのみが日の目を見ている状態です。
正直、面白くないでしょうね。
土地の所有者の方も、今まで熱心に活動されていた楡井名誉教授との関係の方が濃いでしょうから、そちらに心情的に近いであろうことは想像に難くありません。


リミットは今年の9月まで

今年の9月までに委員会に「自由な立ち入りの証明」が出来なければ、審査が打ち切られて白紙に戻される可能性があります。

今まで熱心に活動されていた楡井名誉教授であれば、誰よりもこの地層の価値が分かってらっしゃるはずです。
もし、本当に命名にふさわしくない明確な瑕疵があるのであれば、はっきりお示しになるべきでしょう。
そのために国際的な専門家の手によって、徹底的に現地調査を行ってもらうのが一番良い方法のように思います。


*1:国際地質科学連合の下部組織にあたり、地質の名称や年代を決める。更に下部組織に小委員会があり、更に下にワーキンググループがある。