昨日も「言葉は厄介」的な話題を取り上げましたが、今日も似たようなネタです。
今度は中国語と英語です。
スイスに拠点を置く金融グループUBSのエコノミスト、ポール・ドノバンさんの発言が元で、中国鉄建(CRCC)の広報が、ドル建て債起債に関する業務でUBSを起用するのをやめた、と発表しました。
Bloombergの記事によると、問題となったのはドノバンさんの次の発言です。
It matters if you are a Chinese pig, It matters if you like eating pork in China. 如果你是头中国猪的话就有关系了。 如果你人在中国且喜欢吃猪肉,就有关系了。 あなたが中国の豚なら問題になる。あなたが中国で豚肉を食べるのが好きなら問題になる。
中国語訳は中国のニュースサイトで報道されていたものを引用
中国での豚コレラ流行を主因とした消費者物価指数の上昇の話の中で出た発言だそうです。
この発言は「UBSモーニング・オーディオ・コメント」というpodcastの中で出たもので、公式サイトにレポートとしてアップされていたようです。
これが「中国人への侮辱」「人種差別発言」と捉えられ、問題視されています。
具体的に何が侮辱にあたるか言及しているメディアは見つけられませんでした。
おそらくは「Chinese pig」を 「中国の豚野郎」という含意があると取ったのだろうと思います。
「Chinese pig」を「中国的猪*1」と訳すと「中国の豚」となります。
この場合、含意はなくそのままの意味です。
ところが 「中国猪」と訳されると侮蔑表現 と受け取られます。
「if you are ○○」は英語の慣用表現としてはよく見るパターンですが、中国語ではあまり使われないそうです。
中国語の場合は「人への言及」として理解される可能性が高い表現になるそうです。日本語と同じですね。
それと「pig」が悪口としても使われる表現であることです。
「hog(食用の豚)」であれば問題なかったかもしれません。
※ちなみに、英語の悪口で「pig」と言うと、日本語のような「デブ」の意味ではなく「強欲、汚い」という意味になります。
中国のSNSでは「英語では文法構造上こうなるだけ」とする擁護意見もあったようですが、結局、ドノバンさんもUBSも正式に謝罪することになりました。
ドノバンさんは「意図せず文化的に極めて無神経な言葉を使ってしまった」と謝罪しました。
でも彼の失言というより中国語訳のマズさが問題だったように思います。
彼の発言も公式サイトに掲載された文も英語でした。
それがどのように翻訳されSNSで広まるかまでは管理のしようがなかったはずです。
原文では悪意は無いのに、直訳すると含みのあるような言い回しになってしまったり、逆に直訳すると含みが消えてしまったり、そういうことはままあるわけで、邪推しよう(させよう)と思えばいくらでも出来てしまいます。
ドノバンさんの発言に人種差別的な意図があったのか、意図的な誤訳だったのか…それは分かりませんが、いずれにせよ、この件でUBSは中国での業務に悪影響を受け、ドノバンさんは「休暇」を申し付けられました。
*1:中国語で「豚」は「猪」になります