「日産の韓国撤退は不買運動の勝利」という話

日産が最終損益として7000億円近い赤字を計上したニュースが報じられました。
経営再建に向けて、過剰生産を整理するためにスペインやインドネシアの工場を閉鎖すると発表され、現地ではかなり大きな反発が起きています。

加えて、韓国市場からの年内撤退も決まったのですが、これについて韓国側からは「日本不買運動が直接的な影響を及ぼした」とする、「不買運動勝利」説の報道が大勢を占めています。
中には、不買運動による撤退で自尊心が傷ついた、としているものもあり、すごく韓国的な物の見方だなぁ、と感じます。

日産は直接進出ではなく、韓国日産とインフィニティを現地法人として設立しているので、一番気の毒なのは現地で雇用されている韓国人従業員なんですけどね…。


世界日報の記事からです。

日産、韓撤退..「韓国人鍋根性」云々言った日のマスコミ、取り繕う?[イ・ドンジュンの日本は今]


安倍晋三日本政府の輸出規制の後、韓国での不買運動狂風に日本の自動車企業「ルノー日産・インフィニティ」(以下日産)が最終的に崩壊した。
日産は今年1〜4月に国内でわずか813台の車両を販売した。これは前年同期比41.3%も減少した数値だ。

一方、日本のメディアは韓国撤退は一行などで短く手短に伝えて努めて無視する姿を見せる。
不買運動が盛んだった昨年7月頃、日本の大企業、有名人、政治家などは、韓国の不買運動を蔑視し長続きしないと大口を叩いた。日本のメディアは先を争ってこれを伝えるのに忙しかった。

(中略)

これらの不買運動は日本車の購入拒否で拡散した。昨年8月、日本の自動車5社の売上高は1398台で、なんと56.9%減少したのに続いて、12月、業界の積極的なマーケティングで3670台を販売記録した。以降、今年1月〜4月の累積販売台数は合計5636台で、前年同期の1万5121代に比べ62.7%減少した。
ベンツ、BMWアウディなどの輸入車市場全体の販売台数が同時期に10.3%増加したことを見れば、非常に大きな打撃を受けて回復していない様子だ。

こうした中、日産が最初に白旗を挙げた。
(中略)

一方、日本は日産の不振をコロナ19のせいとし、韓国との関連報道はいくつかのメディアのみが伝えた。NTVは「韓国では(日産の撤退が)不買運動のせいという」と報じた。
韓国市場の販売不振に伴う撤退に、自尊心が大きく傷ついた格好だ。

(後略)

世界日報「닛산 韓 철수..'한국인 냄비근성' 운운한 日 매체 표정 관리? [이동준의 일본은 지금](日産、韓撤退..「韓国人鍋根性」云々言った日のマスコミ、取り繕う?[イ・ドンジュンの日本は今])」より一部抜粋


いや、別に無視しているわけではなく…どう考えても不買運動の成果より、コロナによる経済萎縮の煽りを受けた販売不振が主要因でしょう…。


記事内にいかにもそれっぽい数字が出てきて、いかにもそれっぽい理屈が付けてあります。

日産は主に日本国内、北米、メキシコ、欧州、中国、その他で販売台数を月次で公表しています。韓国での販売実績は「その他」で集計されますので、この資料では個別の状況は分かりません。

が、ちょっと下の一覧を見てみてください。

2019 2020
月/地域 その他 海外全体 その他 海外全体
1月 59,800 371,390 54,349 326,105
2月 59,002 331,562 58,209 245,153
3月 75,635 476,054 45,042 256,302
4月 51,124 337,715 12,666 196,267


これは日産の公表資料から、「その他(韓国含む)」と「全体(海外のみ)」の1月〜4月の販売台数を抜き出したものです。

海外販売台数は2020年の2月から既に雲行きが怪しいです。これはこの時期の中国の販売台数が前年比-80%であったためです。(2019年2月76,745台→2020年2月15,111台)
4月以降、中国の販売台数は持ち直していますが、それ以外の地域は3月以降、軒並み30%以上のマイナスです。

「その他」だけに注目すると、3月までは前年とほぼ差はありません。不買運動は昨年7月からです。
つまり、今年3月以降の悪化はコロナによる世界的な経済萎縮と考えるのが自然なはずです。韓国による日本不買の影響が致命的、と主張するには無理があります。


韓国内での販売状況をもう少し知るために、自動車関連のデータを独自集計している自動車産業情報データベース(MarkLines)のデータに頼ります。
日産の韓国での販売実績は 2019年は3,049台で輸入車ブランドのシェアは1.2% 、不買前の 2018年でも5,053台でシェア1.9% しかありません。

韓国も立派な顧客です。ですが、韓国自身が思っている(=日産本体に致命傷を与えられる)ほど大きな市場でないことは間違いないでしょう。(そもそも、顧客だからといって企業の生殺与奪権を握っているわけではない)


もちろん、だからと言って軽んじていいと言っているわけではありませんよ?
ですが、グループ全体が減益で厳しい状況の中ではまず、大きな市場を優先し、小さな市場は整理していくのが普通の経営判断です。
とにかく体制を立て直して乗り切らなくてはいけませんから。幹は残して枝葉を切り落とします。


韓国は反日感情が扱いづらく日韓関係の修復も不透明な中で、販売促進のために注力するには市場としても弱いです。

そうすると切り捨ての優先順位が自ずと高くなっても不思議では……ああ、なるほど、「(我々が)日産に市場を捨てさせた」=「(我々が)日産を追い出した」と変換するなら、確かに「不買運動の勝利」と言えるかもしれませんね。