「専攻医1万2千人を『モンスター』に育てたのは国の責任」という話

いわゆる「医療大乱」はまだ終息していません。
医大の授業は一応、再開されたようですが、先月集団辞職を予告した医大教授たちの本格辞職が始まるのは今月25日とされています。辞職表を提出してから実際に辞職するまでに一カ月掛かるためです。期日を前に全国医科大学教授非常対策委員会は「真正性のある対話の場」を求めているそうです。韓国人が「真正性のある」というときは「無条件にこちらの言い分を認めろ」と同義ですので、「対話」とは「顔を見て一方的にこちらの言い分を認める場を設けろ」と言っているものと思われます。
また、先の総選挙で与党が大敗したことを受けて「国民が医大生増員にNoと言った」との主張も出てきているようです。

そんな中、ハンギョレに集団退職した専攻医1万2千人を「モンスター(怪物)」呼ばわりし、彼らを育てた(力を与えた)のは「国と病院」と批判しているコラムが掲載されました。
韓国は日本や米国などと比べ、専攻医が占める割合が高くなっています。「安い労働力」として病院に都合よく使われていた専攻医らが反旗を翻した…現在の医療大乱をこうした構図で説明することで「人、金、時間を使って教育し訓練させなければならない人々(専攻医)をただ安い労働力扱いした報いがブーメランになって返って来た」としています。

 



ハンギョレの記事からです。

1万2千人に振り回される国、専攻医を「怪物」に育て上げた


(前略)

2022年、大韓専攻医協議会の実態調査で専攻医の週間平均勤労時間は77.7時間であり、100時間以上の勤務者も25%にもなった。2016年に「専攻医修練環境改善および地位向上のための法律」(専攻医法)が制定され、週当り80時間という勤労時間限度が決まったが、それほど改善されなかった。なぜこのような状況を持続するのか?病院の診療収益に役立つからだ。安い人件費で長時間使える労働力、その上「修練」「教育」という名前でこれを合理化までできるので申し分ない。

2月下旬から専攻医1万1900人余りが集団辞職した。修練病院の打撃が大きい。50の修練病院の収入は、昨年同期比4238億ウォン(15.9%)減少した。「ビッグ5」病院はその打撃がより大きく、外来患者が大幅に減少し一般病床の稼働率も50~60%水準に落ちた。複数の病院が非常経営体制に突入した。ある所は職員に無給休暇を強制し、給与を返却する所、希望退職を受ける病院も現れた。病院経営だけが心配されるわけではない。患者が適時に適正な治療を受けられない状況が大きな懸念を生んでいる。わずか1万2000人の作業場離脱で国家的医療大乱が起き、大型病院が甚大な経営打撃を受けるとは、これまでいかなる社会勢力も見せることができなかった破壊力だ。

なぜ韓国社会がたった1万2000人の若い医師たちに振り回されなければならないのか? 第一に、医療利用が過度に大型病院に集中し、第二に、これらの病院が過度に専攻の依存度が高かったからである。ビッグ5病院の医師約7千人のうち専攻の割合は39%に達する。ソウル大学病院のように専攻の割合が46.2%に達するところもある。一方、米国と日本は10%余りに過ぎない。人、金、時間を使って教育し訓練させなければならない人々をただ安い労働力扱いした報いがブーメランになって返って来たのだ。

2020年保健医療人材実態調査結果を見れば修練医と専攻医の年平均賃金は専門医の30%水準に過ぎない。まだ完全な専門家ではなく、修練生の身分だからだ。専攻医法でも彼らが仕事をする時間を「勤労時間」ではなく「修練時間」と表現される。他の分野で資格と関連した大部分の時間規定は最小投入基準を定めるのに比べ、特異に専攻の修練時間規定は最大許容限度を定める。これは労働時間規制を迂回するための手段としか言えない。

専攻医に前代未聞の力を与えたのは、ほかならぬ政府と病院だ。修練病院の教授らは病院を離れた専攻医らに不利益が生じれば決して座視しないと宣言したが、彼らは(認めるか認めなくても)搾取の鎖で中間管理者の役割を果たしてきた。問題の当事者である病院は、医ー政葛藤の罪のない被害者のふりをして、その負担を他の保健医療労働者にそのまま転嫁している。首都圏の大学病院は2028年までに首都圏近隣に競争的に分院を設立する計画を持っているが、専攻医に対する依存度が過度に高い奇異な人材構造を変える計画はない。このような状況に至るまで、医療システムの商業化、市場化を放置してきた国の責任が至大である。

(後略)



ハンギョレ「1만2천명에 휘둘리는 나라, 전공의를 ‘괴물’로 키웠다(1万2千人に振り回される国、専攻医を「怪物」に育て上げた)」より一部抜粋

専攻医の団体である大韓専攻医協議会の緊急対策委員長がこのコラムを通して病院側を批判しました。
まあ、当然と言えば当然ですが「安い労働力扱い」された専攻医たちはいわば「搾取される側」であり「被害者」とも呼べるのに、それを「モンスター」扱いですから、一言なり二言なり言いたくもなるでしょうね。

今までの扱いに対する専攻医の不満が、今回の医療改革案を機に爆発したとして、根本の原因は専攻医の待遇であるはずなんですけど、記事の指摘はそこを通り越して「専攻医に力を与えた」「専攻医を怪物として育てた」ことが問題であるかのように読める構成になってしまっています(私の読み方が悪い?)。
なんか、こう…一言余計というか、病院や国の責任を指摘する傍ら、専攻医も「悪者」扱いしないと気が済まないのか?と思わず思ってしまいます。
日本相手のときによく見る論調で、韓国に都合の悪い方向になると「どっちもどっち」に着地させようとしますが、それをよく似ているかもしれません。