新50ポンド紙幣の話

日本では2024年度上期に新紙幣が導入される予定ですが、一足早くイギリスさんでは2021年終り頃までに新50ポンド札が流通することになるそうです。
新たに発表された新紙幣の肖像はアラン・マチスン・チューリング氏です。


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新50ポンド紙幣デザイン

第二次大戦中、誰にも破れないと言われたドイツの暗号「エニグマ」を解読した数学者です。
映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」でベネディクト・カンバーバッチ氏が演じて話題になりましたので、一般的にはこの件が有名かと思いますが、彼は現代のAIに対して論理的基盤の定義を行っています。

それがチューリング・テストと呼ばれる、ある機械が知的がどうか(人工知能であるか)判定するためのものです。
1950年の彼の論文「Coputing Machinery and Intelligence(計算する機械の知性)」の中で出てくるもので、次のように判定します。

人間の判定者が別の人間と、一台の機械に対して通常の言語でチャット会話を行う。
(その際、判定者は相手が人間が機械かは見えないものとする)
機械と人間は「人間らしく」見えるよう対応する。
判定者が機械と人間とを確実に区別出来なかった場合、この機械はテストに合格したとと見なす。


このテストが考案されたのは前述の通り1950年でしたが、初めて合格者が出たのは2014年になってからです。
「13歳のウクライナ人の少年」という人格が設定されたチャットボットのユージーン・グーツマンが33%の審査員に人間と間違わせることに成功し、初のテスト合格となりました。
※ただし、このテストはロンドンで英語で行われています。
 「ロシア語を母語とする13歳の少年が英語で会話をする」という特異なシュチュエーションが加味されたことにより、一般的な常識の欠如による不自然なやり取りや文法上のミスがあっても審査員が「外国人の子供」という先入観から判断が甘くなった可能性は否定できません。


暗号解析による国家への貢献、現代へも引き継がれている人工知能の論理的基盤の定義と、大きな功績を残した人ですが、最後は恵まれていたとは言い難いようです。

同性愛者だったチューリングは1952年に同性愛の罪*1で有罪となり、刑務所に収監される代わりにホルモン治療による科学的な「去勢」を行われました。
その後、1954年に青酸カリで自殺*2しています。


チューリングの恩赦が認められたのは2013年になってからです。
更にイギリス政府は「アラン・チューリング法」を発表し、2016年に「現在ならば罪にならない行為によって性犯罪者となった人たちを赦免する」措置を行いました。


つい最近までイギリスで同性愛が罪とされていたことが驚きです。
が、例え合法になっていたとしてもフレディ・マーキュリーのように偏見から国を追われる人たちは沢山いたのでしょうね。
現代でも「同性愛」を理由に火を付けられたという悲惨な事件がイスラム教圏を中心に起きています。
いずれも一神教が強く根付いている地であることが皮肉のように思えます。


…ちなみに日本では同性愛…特に男色については記録が古くからあります。
明治の頃に一時期禁止になったらしいですが、刑法として存在したのは1872年〜1880年の8年間だけのようです。


*1:当時のイギリスには性犯罪法というのがあり、同性愛が違法であった。1967年にイングランドウェールズで21歳以上の男性同士の同性愛が合法となり、1980年にはスコットランド、最後に1982年に北アイルランドで合法となり、ようやくイギリス全土で合法となった。

*2:検死により青酸カリが検出されたため青酸カリによる自殺、とされているが、家族や友人は事故によるものと主張している。