国際紛争解決センター、ローンスターの主張を一部認め韓国政府に2億1650万ドル+利子の賠償判定の話

OINK(Only in Korea ; 韓国でしか起こらない現象)」の代表的事例であるローンスターファンド事件の判定がとりあえず出ました。とりあえず、というのは韓国法務部が不服として異議申し立てを準備しているとの報道があるためです。

とはいえ、一つの判定ではあります。ローンスター国際紛争解決センターに紛争を持ち込んでから約10年、事件の発端となったローンスターによる韓国外換銀行KEB)からは約20年となります。長かったですねぇ...。

ローンスターが韓国政府に求めた賠償額は46億7500万ドル(1ドル138円換算で約6451億5000万)という莫大な額です。このうち認められた賠償額は2億1650万ドル(同約298億7700万円)でしたが、仲裁判定部がローンスター側の主張を一部とは言え認めたという事実は韓国側には容認しがたいでしょう。なにしろ、ローンスター側の主張は「韓国金融当局による不当な売却承認遅延措置」ですから。

 



記事を紹介する前にローンスター事件について簡単に時系列と背景を、ちょっと長くなりますけれど説明しておきます。

ローンスターはテキサスに本拠地を置く私設ファンドです。1998年に韓国に進出しました。ちょうどアジア通貨危機直後で大変だった頃ですね。
2003年9月にローンスターは当時、韓国5位だったKEB韓国外換銀行)の株式51.53%を約12億ドルで取得し、傘下に置きます。(韓国の法律では銀行の支配株をローンスターが取得することはできないはずでしたが、これには「銀行が財政難に陥っていない限り」という前提が付きます。当時、KEBは韓国金融規制当局による資金注入を受けていました。つまり「財政難」です)

その後、わずか2年でKEBの評価額は約2倍になりました。これにより「ローンスターに売却された時点でKEBは財政難ではなかったのではないか?」という疑惑が提起されました。
ローンスターは財政状態がすでに「健全」であったKEBを安く買い叩いたハゲタカ...そんな敵意の目で韓国国民から見られることになり、そうした世論に後押しされる形で当局からの監査を受けることになりました。

2006年に発表された監査の結果ではKEBの財務状況はローンスターに売却された時点で「健全」であったと発表され、これによりKEBローンスターへの売却は違法とされました。これを根拠に当時のKEB幹部2名と売却を承認した役人が起訴されていますが2010年に韓国最高裁3人に無罪判決を下しています。

これとは別に株価操作の疑いでも検察から捜査を受けていて、こちらは2011年にソウル高裁の有罪判決が出ています。

ローンスターは2007年にKEBHSBC約60億ドルで売却する契約を結んでいましたが前述の監査により金融当局の承認が得られず不発に終わりました。
その翌年、2008年にリーマンショックが発生しKEBの価値は激減。
さらに2011年の株式操作有罪判決を受けて韓国政府はローンスターKEB売却を命じます。韓国では刑事責任を問われた事業体が銀行株の10%以上を保有することが法律で禁止されているためです。

結局、ローンスターは2012年にハナ金融に約28億ドルでKEBを売却し韓国から撤退しました。
韓国政府はこの時の売却にかかる税金を納めることをローンスターに求めています。
これに対しローンスターは2012年、国際投資紛争解決センターに仲裁を持ち込みました。韓国のローンスター事業所はベルギー子会社のため、韓国 ‐ ベルギー間の二国間投資協定が適用されるはずだからです。
さらに、韓国金融当局によるローンスターKEB売却妨害(承認遅延)と、それによる価格暴落による損害賠償を求めました。この結果がついに出たと。こういうことです。

長くなってすみません。まとめると以下のようになります。

1998年 ローンスターが韓国に進出。
2003年 韓国外換銀行KEB)を買収。
2005年 KEBの評価額が買収時の2倍に。疑惑の提起。監査着手。
2006年 監査結果発表。ローンスターKEB取得は違法とみなされる。(ただし、その後責任者は無罪判決)
2007年 HSBCKEB売却契約を結ぶも金融当局の承認得られず。
2008年 HSBCKEBの買収契約白紙撤回。
2011年 株価操作で有罪判決。ローンスターKEB売却命令。
2012年 ローンスターはハナ金融へKEBを売却。国際投資紛争解決センターへ仲裁要請。

では、聯合ニュースの記事からです。

政府、ローンスターに2800億ウォン賠償責任...10年ぶりにISDS判定(総合)


大韓民国政府が外資系私募ファンド、ローンスターとの国際投資紛争の末に要求額約6兆1千億ウォンのうち約2千800億ウォンを賠償せよという国際機構の判定が出た。紛争開始10年ぶりに出た結果だ。

法務部は31日、世界銀行国際投資紛争解決センター(ICSID)のローンスター事件仲裁判定部が韓国政府にローンスターが請求した損害賠償金の4.6%にあたる2億1650万ドル(約2800億ウォン・為替レート1300ウォン基準)を支払うよう判定したと明らかにした。

併せて2011年12月3日からこれをすべて支給する日まで1ヶ月満期の米国債収益率に伴う利子を賠償せよと決めた。利子額は約1千億ウォンと推算される。

ただ、韓国政府が賠償しなければならないウォン基準金額はウォン・ドル為替レートが同日午前1,352ウォン台まで上昇し、節目を更新するなど上昇傾向にあるため規模がさらに増える可能性もある。為替レート1,350ウォンを適用すれば賠償額は2千925億ウォンになる。

ローンスターは2012年11月、韓国政府が外換銀行売却過程に不当介入し、46億7千950万ドル(約6兆1千億ウォン)の損害を被ったとし「投資家 ‐ 国家紛争解決制度」(ISDS・Investor-State Dispute Settlement)を通じて国際仲裁を提起した。

(中略)

具体的には2007年~2008年、香港上海銀行HSBC)と売却交渉過程で金融委員会が規定した審査期間内の承認可否を決めなければならないのに、不当にこれを遅延し売却が失敗に終わったとし、これは「韓国 - ベルギー二者間投資保障協定」に違反したと主張した。
2011年~2012年のハナ金融との交渉過程でも承認を遅延し、売却価格を引き下げるよう不当に圧力を加えたと主張した。

あわせて国税庁が免税恩恵を不当に拒否して恣意的な基準を適用し、税金を賦課したともした。

(中略)

これに対して韓国政府は当時「ローンスター株価操作事件」など、刑事裁判が進行中だったので正当に売却審査期間を延期したと反論した。売却価格の引き下げは刑事事件の有罪判決による外換銀行の株価下落が反映されたに過ぎないと強調した。

課税についてもローンスターがただ免税特典を享受するために設立された実体のない会社であるため実質課税原則を適用してこれを付与せず、個別課税ごとに具体的な事実関係だけを考慮したと説明した。

(中略)

仲裁判定がローンスターが要求した金額の4.6%だけを認めたという点を考慮すれば韓国政府の説明を受け入れる代わりにローンスターの主張を相当部分棄却したものと分析される。

(後略)



聯合ニュース「정부, 론스타에 2800억원 배상 책임…10년만에 ISDS 판정(종합)(政府、ローンスターに2800億ウォン賠償責任...10年ぶりにISDS判定(総合))」より一部抜粋

「請求された賠償額に対して判決の賠償額が少ないのは、原告の訴えを相当部分棄却したからだ」の理屈は成り立ちません。なぜなら、ローンスター側がちゃんと計算して実損額を請求しているわけではないからです。
賠償請求額は青天井です。いくら請求してもいいんです。認められたらラッキー。(ただし、日本の場合、訴状に貼る収入印紙代が高いので現実的な金額になる)
日本の裁判でも原告の主張が100%認められても判決で提示された賠償額がかなり目減りしてる、なんて普通にありますよね。

なので判決文を見ないことには主張が認められたか棄却されたかは判断できないはずですが...この記者は一体何を言っているんでしょうね?

それはともかく、韓国法務部は判定を「不服」として「異議申し立て」をするそうです。