WTO、産業用バルブ反ダンピング訴訟で日韓が共に「自国勝訴」と報じている話

日本がWTOに訴えていた、韓国による産業用バルブへの反ダンピング*1課税に対する上級委員会の最終判断の報告書が公表されました。


ところが、この上級委員会の判断についての報道が日韓で真逆になっています。
日本メディアは「日本勝訴」、韓国メディアは「韓国勝訴」で報じています。

同じ事案を扱っているはずなのに、なじぇ?


日韓それぞれの報道


この件について、日韓それぞれでどのように報じられているか確認しておきます。


まず日本側の報道から。産経さんの記事です。

日本政府は11日未明、世界貿易機関WTO、本部=スイス・ジュネーブ)が10日(現地時間)、韓国による産業用バルブへの反ダンピング(不当廉売)課税は不当として日本が提訴していた問題で、韓国側のWTO協定違反を認定し、是正を勧告したと発表した。WTOの紛争処理の最終審にあたる上級委員会が最終判断の報告書を公表し、日本側の勝訴が確定した。
(中略)
1審に続き日本の勝訴となった。 11日、世耕弘成経済産業省は「韓国にWTO協定に整合しない措置の誠実かつ速やかな是正を求めていく」とのコメントを発表した。韓国が韓国を履行しない場合、日本はWTO協定に従って、対抗措置を発動することができる。
産経新聞「WTO、韓国のバルブ課税措置に是正勧告 日本の勝訴確定」より一部抜粋


次に韓国の聯合ニュースさんの記事(日本語版)です。

日本製の「空気圧伝送用バルブ」に対する韓国の反ダンピング(不当廉売)課税は不公正だとして日本が世界貿易機関WTO)に提訴していた問題で、韓国が実質的な争点で大部分勝訴した。
(中略)
パネルは2018年4月、ダンピングによる価格効果、量効果など九つの実質的な争点のうち、八つに対して韓国勝訴の判断を示した。ただ、一部の価格効果分析が不十分で、日本の製品が韓国メーカーに被害を及ぼしている因果関係の立証を十分にできなかったとして、ダンピングによる因果関係をめぐる争点の一部では日本側の訴えを認めた。
上級委は、九つの実質的な争点のうち七つについては一審の判断を維持したが、価格効果に対しては日本に有利に判断を覆した。ただ、一審で韓国が敗訴していた一部の因果関係に関しては韓国が勝訴。結果として、韓国は最終審で九つの実質的な争点のうち八つで勝訴した。
聯合ニュース「日本製バルブ関税巡る通商紛争 韓国が大部分勝訴=WTO最終審」より一部抜粋


産経さんが1審、最終判断とも一言で「勝訴」としているのに対し、聯合さんは「大部分勝訴」というよく分からない言葉で表現しています。

同じ出来事を取り上げているのに、どうも注目しているポイントが違うような気がします。(日本が総合判定を見ているのに対して、韓国は小計を見ているような)


しかも、韓国側の報道では「結果」が報じられていません。
これは韓国国内のメディア(ノーカットニュースやSBS)にしても同じで、韓国側に是正勧告がなされたことには一切触れられていません。どうやら不都合な事実のようです。


日本の勝訴と見るのが妥当では?


話はすごくシンプルです。


2016年に提訴された日本側の訴えは「韓国による産業用バルブへの反ダンピング課税は不当である」 です。
それに対してWTO上級委員会が出した判断は「韓国へ是正勧告」 です。

一番大事なのはココです、韓国側の課税が 「不当」か「否か」
主訴と判断を一対一で見れば、日本の訴えが認められた=日本勝訴と見るのが普通です。
日本は目的を果たしました。


もう少し詳しく見ますと、韓国側の報道では、9つの争点のうち8つで韓国側の主張が受け入れられた、となっていますが一番肝心な価格効果に関する点については日本の主張が受け入れられています。

このたった一つの、日本側の主張が一番のポイントです。

そもそも反ダンピング課税というのは、大量流入してくる安い輸入品から国内メーカーの市場を守ることを目的にしています。
ところが、日本の製品が韓国メーカーの市場に被害を及ぼしている、という因果関係が立証されなかったということはつまり、韓国の反ダンピング課税の正当性も立証されなかったことを意味します。


これにより、韓国が「大部分勝訴」(聯合ニュース)と報じている8つの争点での韓国の勝利なんて、関係なくなり、韓国が行っている反ダンピング課税に対する是正勧告、という最終結論に至ったわけです。


*1:輸出国の国内価格よりも安い値段で輸出する(不当廉売)ことから国内産業を守るために、価格差を相殺する関税を賦課する措置。WTO協定により認められている。