映画はプロパガンダツールという話

米国のアニメ映画制作会社Dream Worksの最新作「Abominable(アボミナブル)」がインドネシア以外の東南アジア各国で問題視されています。
この映画は中国の制作会社であるPearl Studioが絡んでおり、主人公は中国人の少女です。
イー(Yi;伊?)が上海の自宅アパートでイエティと出会い、友人2人と協力して「エベレスト」と名付けたイエティを故郷へ送り届けるというハートフル(?)なストーリーです。


問題となっているのは、作中で出てくる地図です。
中国独自の領海線である「九段線」が引かれており、南シナ海を中国の領海としてあるのです。


九段線とは

起源(?)は1930年の中華民国時代まで遡ります。
当時の中華民国は伝統的な地図を使用していましたが、1930年6月に政府が初めて近代的な手法で作成された地図に切り替えました。
その地図には南シナ海島嶼が「中国の領域」とされていました。

大戦後の1947年の地図では、「中国の権威が及ぶ範囲の限界」として南シナ海の11の区画から構成される段線が記載されていました。(十一段線)
この十一段線の意味や法的根拠に関する正式な見解は中華民国中華人民共和国いずれも明らかにしていませんが、研究者の間では「中国の主権が及ぶ範囲」という認識だとされているそうです。
1953年には2つの領域が削除され、9の区画からなる九段線が新たに発行された地図に記載され、これが現在まで続いています。

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画像はYahooニュースより


今の所、インドネシア南シナ海での中国との領有権争いが起きていないので問題視していないようです。
一方で、フィリピン、マレーシア、ベトナムでは大きな反発が起きており、マレーシアでは映画上映の条件として「該当シーンのカット」が要求され、ベトナムでは韓国系の大手映画館が上映を中止し、既に公開中(小規模劇場のみ)のフィリピンでもシーンを削除すべき、との声があがっているそうです。


成功した手法は踏襲される

映画はプロパガンダツールとして有効です。
特に政治問題にあまり関心がなく、あくまでエンタメとして消費している人たちの無意識への刷り込みという意味で、これ以上のものはありません。

一時期、アメリカでは西部劇映画が沢山造られた時期があります。
これは別に懐古主義として作られたわけではなく、白人入植者による支配を正当化する側面があったとも言われています。
他にも「テロリスト」というと「アラブ人」、善悪二元論による「善」と「悪」の戦い、というのがハリウッド映画によるプロパガンダの成功例と言えます。(もちろん、アメリカは常に「善」)


かつてアメリカが行って成功を収めた戦略をロシアと中国は冷静に見ています。
例えばクリミア半島のロシア編入、あれはアメリカがカリフォルニアを編入したのとよく似ています。

カリフォルニアは元々メキシコでした。地名にスペイン語が多く残っているのがその名残です。ロサンゼルス(Los Angels;天使)とかネバダNevada;雪に覆われた)、ラスベガス(Las Vegas;肥沃な草原)とか。
メキシコ政府の正式な許可のもと、アメリカから移民が流入カリフォルニア共和国を独立宣言、合衆国への編入を希望した、という流れがあります。
クリミアもロシア系住民がロシアへの編入を希望したことで実現しましたよね。
私はこの手法を中国は沖縄に対して使うつもりではないかと思っています。


ハリウッドによる映画プロパガンダ戦略は最も成功したアメリカの情報戦略だろうと思います。
強かな中国がそれを見逃すとは思えません。
最近のハリウッド映画を見ていると、中国の影響が大きくなっているのは明らかです。


ちなみに、映画タイトルの「Abominable」には「憎むべき」「忌まわしい」「ひどく嫌な」「不愉快な」といった、かなりネガティブな意味があります。
北米ではイエティは忌まわしい存在とされているそうです。