検察庁法改正案を叩いても意味がない話

検察官の定年延長に関する検察庁法改正案について抗議の声が上がっていますが、具体的に何を問題とみなされているのかが分からず、しばらく観察していました。

ツイッターの投稿などを見ても、「反対」の意思表示はされていても、なぜ反対なのか、具体的に述べない人が結構いるみたいです。

で、なんとな〜く見えてきたのが…

  • 安倍政権に近いとされる黒川さんの検事総長人事に反対
  • コロナ禍の今すべきことなのか?
  • (番外)三権分立が崩壊する

このあたりを主な理由とする人が多いのかなぁ、という気がしてきました。


反対の意思表示をすること自体は健全な行為だと思います。反対する人を批判するつもりは全くありません。
けれど、自分が何に反対しているのか、なんで反対しているのか、ちゃんと分かっている人がどのくらいいるのかは疑問です。

まあ、私も全部の問題点が分かっていると胸を張っては言えませんけれども、少なくとも上にあげた3つの事由で反対するのは違うのでは?ということをツラツラ述べたいと思います。


黒川さんの検事総長人事を止めるためなら筋違い

黒川さんは現在、検事長です。改正前の検察庁法では検事長の定年は63歳です。
黒川さんは今年に2月に63歳になったので、本来なら既に退官しているはずの人です。

が、某日産のゴ○ンさんの件など諸々バタバタしていたので、定年の半年延長が決定され、適用されています。 予定は8月7日までです。

この件は1月31日に閣議で決定されました。 黒川さんが安倍政権に近いことを理由にするのであれば、このときに反対の声が上がらなかったのはおかしな話です。根拠とされた国家公務員法の勤務延長は、検察官には適用しない事を前提に制定された法律です。それを内閣が都合よく捻じ曲げた、と突っくことは充分可能であったわけですから。
国家公務員法の定年延長の改正案が出た当時(1980年)の国会答弁にそうした答弁が「あった」とされている。この件、2月にちゃんと報道されていて、森法相が「議事録は存じ上げない」と答えている。(それもそのはずで、どうやら「答弁」ではなく、「想定問答」だったもよう)
 しかし、森法相は2月の黒川さんの勤務延長に絡めた質疑でこのように答えており、報道でもその旨がきちんと示されている。黒川さんを問題視するのであれば、なぜスルーしたのか?


今回の改正法案が仮に通ったとして、施行されるのは2022年4月1日とされています。
黒川さんは2022年2月に65歳になるので、間に合いません。


仮に施行日を前倒ししたとしても、黒川さんが検事総長になるためには大前提として、現・検事総長がポストを空けてくれる必要があります。

法改正前でも検事総長の定年は65歳です。
今の検事総長である稲田さんが定年で退官されるのは2021年8月13日です。これを待つのであれば、改正法施行前(検事長は63歳退官)ですから、黒川さんは何度か勤務延長が必要になります。


逆に、稲田さんがそれまで留まらず慣例通り2年で検事総長のポストを空けたとしたら。
稲田さんの就任が2018年7月25日ですから、今年の7月25日までに検事総長の席が空く可能性があります。そうしますと、8月7日まで勤務延長されている黒川さんは間に合うことになります。
これは今更、検察庁法改正を止めても変わりません。


いずれにせよ、今回の法改正が通ろうが通るまいが、状態は変わりません。 条件付きで黒川さんの検事総長の椅子への道は残っていると見ることができます。
なら、いざとなってから突っつくならココを突っつけばいいだけです。
特別措置として勤務延長させた検察官を、勤務延長期間中に昇進させるような人事がまかりとおるのか、と。


以上のことから、検察庁法の改正により黒川さんへの人事が可能になる、というのは間違った認識です。
ここばかり目立ってしまって残念です。

それよりも、新しい改正案に盛り込まれた勤務延長措置の要件をはっきりさせるような国会答弁を引き出して欲しいんですけど。人事院を通さず、内閣の一存で決められるようにするのであれば、基準をしっかり示してもらわないと。

反対や批判ばかり叫ばずに、中身について言質を取るような働きを野党に期待したいです。


コロナ禍の今、すべきことか?

最もなように聞こえますけれども…

コロナはいつ終わるのでしょう?
コロナが終わるまでそれ以外のことはやっちゃ駄目なのでしょうか?

そもそも、この改正法案は2019年の秋には既にありました。(内容は一部変わっていますが…)
昨日今日出てきたわけではありません。


芸能人を中心に多く賛同者が集まっていることから、「文科系への支援や保障をしてほしい」という意見との見方を示している人もいましたが、それならそうと言うべきでしょう。
法案改正反対の理由としては甚だ筋違いです。

要求をはっきり伝えず婉曲表現で相手に汲み取って欲しい、というのは日本人にとても多いですけれども、それで相手が正確に読み取ってくれなかったからと言って臍を曲げるのはおかしな話です。


(番外) 三権分立関係ないよ

三権分立は、国会・内閣・裁判所が三つの独立した機関として相互に抑制しあい、均衡を保つことで権力の濫用を防ぐことを目的としています。

このうち、立法権は国会が、行政権は内閣が、司法権は裁判所が司っています。


検察は司法に携わるので司法権に属しているように思われがちですが、検察庁は行政政府の一部です。よって、行政権に含まれます。 司法権ではありません。


もちろん、検察というのは特殊な立場ですから、例え行政の一部であっても一定の距離を保った独立性は必要です。

と同時に、完全に独立していると、暴走しても誰も制御できない危険があります。
検察は日本で唯一、起訴する権限を持った組織です。
特別捜査部特別刑事部による独自捜査が可能であり、捜査から起訴までをセルフで賄うことが出来る非常に強力な権力を持った組織です。
過去には証拠の捏造や改ざんなどが行われた事件が大きく報道されています。
完全独立で内部の自浄作用だけに任せるには不安が残ります。

どこまで行政の干渉を受けて、どこまで独立性を維持させるか、このバランスが肝要なわけで、改正法案に反対の人/賛成の人で揉めるのもこの許容範囲が人によって違い、コンセンサスが取れていないからだと思います。


じゃあ、どうするんだ?って、それを考えるのが政治家の仕事です。
批判と反対で潰すことに一生懸命で建設的な議論がなされないのが日本の現状で国民の不幸です。