「ハノイ会談は韓国の創作物」という話

元・ホワイトハウス国家安全保障問題担当大統領補佐官であるジョン・ボルトンさんの回顧録が明日出版される予定です。
日本ではあまり話題になっている印象を受けませんが、ハノイ会談の裏側などが描かれていることもあり、韓国ではそれなりに取り上げられています。

朝鮮日報が問題のハノイ会談の主要部分を入手したとして記事にしています。
また、趙甲済ドットコムの方ではCSISの韓国系米国人の研究員の投稿から、もう少し詳しく紹介されています。

これらを見ると、北朝鮮が韓国を「邪魔」扱いして排除しようとする理由が分かります。
回顧録ではハノイ会談は「韓国の創作物」となっています。


朝鮮日報の記事からです。

【単独】「トランプと会談、キム・ジョンウンではなく、チョン・ウィヨンが提案」


(前略)

本紙は21日、ボルトン前補佐官が23日(現地時間)出版する回顧録「そのことが起きた部屋*1」の韓半島関連の主要な部分を入手した。回顧録によると、2018年6月にシンガポール米朝首脳会談は、チョン・ウィヨン青瓦台国家安保室長がその年の3月にホワイトハウスを訪問し、トランプ大統領に会った席でまとまった。ボルトンは「チョン室長はトランプに会いたいというキム・ジョンウンの招待(invitation)を伝え、トランプはその瞬間衝動的に受け入れた」と回想した。

ボルトンは、しかし「後にチョン室長は(トランプに会う)そのような招待をすることを先にキム・ジョンウンに提案した人物は自分だったと認めた」と書いた。

(中略)

このため、ボルトン回顧録で「(米朝外交は)韓国の創造物だった。キム・ジョンウンや米国の真剣な戦略ではなく、韓国の統一アジェンダが反映された」とした。米朝首脳会談がそのように緻密な準備なしに始まり、結果的に特別な収穫なしに終わったという意味だ。

ボルトン終戦宣言にも「最初に北朝鮮のアイデアだと思った」とし「後になって、これがムン・ジェインの統一アジェンダからと疑った」とした。彼はまた「北朝鮮をそれ(終戦宣言)をムン大統領が望むものと見て、自分たちは気にしない」とし「しかし、なぜ米国が推進するのか?」と言った。このような背景のため、韓半島終戦宣言も最終的に成功しなかった。

(後略)

朝鮮日報「[단독] "트럼프와 회담, 김정은이 아닌 정의용이 제안"(【単独】「トランプと会談、キム・ジョンウンではなく、チョン・ウィヨンが提案」)」より一部抜粋


終戦宣言については、韓国メディアしか騒いでいなかったので、言い出しっぺは韓国だといのが私の中での確定事項でした。

ハノイ会談は「韓国の創造物」については、見ようによれば「仲介者」としての役割を評価したようにも取れますが、次の引用からは真逆の意味合いに受け取れます。


趙甲済ドットコムの記事からです。

ボルトン回顧録の中で、シンガポールハノイ会談部分


(前略)

9. キム・ジョンウンは、ムン・ジェインが状況を誇張して約束を履行することができなかったと思うはずである。キム・ジョンウンは、だからムン・ジェインが約束した制裁問題を解決しろと圧迫する。ボルトンは、トランプもキム・ジョンウンに誇張した期待を持たせたと批判する。
(中略)
4. シンガポール会談を終えてキム・ジョンウンは行動対行動の原則に合意したことについて、喜びながら次が制裁を解除する手順か、と尋ねた。トランプはそのような問題にオープンに検討してみる、とした。だからキム・ジョンウンは希望的期待をして会談の場を出ていった。
(中略)
8. ボルトンは、ムン・ジェイン北朝鮮と米国に非現実的な期待を持つようにしたとして、すべての外交的ダンスは韓国の作品だとした。

ハノイ会談について
ボルトンは、トランプが3つの選択肢を持って協議に臨んだとした。ビッグ・ディール、スモール・ディール、そして決裂。彼は会談前日の夜、マイケル・コーエンの議会証言を見守りながら、落ち着かなかったという。彼は、コーエンの暴露証言記事を覆うだけの合意、すなわちビッグ・ディールが出来なければ、スモール・ディールは意味がなく、決裂させるのがむしろコーエン証言を覆う大きなニュースになるはずである、と計算した。キム・ジョンウンが核を放棄する戦略的決断を下すことができないので、ビッグ・ディールは出来ず決裂しかなかった。
(後略)
趙甲済ドットコム「볼턴 회고록 중 싱가포르 하노이 회담 부분(ボルトンの回顧録の中で、シンガポールハノイ会談部分)」より一部抜粋


この記事の大本であるCSISの投稿はこちらです。「Bolton Book and NK Blow UP」(音声)が該当記事になります。
話しているのは韓国系アメリカ人のビクター・チャさん(駐韓大使に内定後、取り消された方)と、同じく韓国系アメリカ人のスミ・テリーさん(元CIAアナリスト)です。


そもそもハノイ会談は「決裂した」というのが結果の評価です。
ムン政権が北朝鮮にも米国にも良い顔をしてその気にさせた…「韓国の創造物」というのは、この部分を指していると思われます。いわゆる、八方美人だったんですね、韓国は。
※八方美人は、日本語では「誰にでも良い顔をする≒いい加減な人」という意味で、褒め言葉とみなされることはありませんが、韓国語では「そつなくことなす(世渡り上手)」や「完璧」という意味の褒め言葉になります。
 これは、日本には「誰かにとって良いこと」は「誰かにとって悪いこと」となりえる、つまり「完璧」は存在しない、という意識が根底にあるためだろうと思います。


韓国には韓国の、北朝鮮には北朝鮮の、米国には米国の…それぞれの思惑がある中でハノイ会談は開催され、仲介(?)であった韓国が自分の思惑通りに事を運ぼうと「雰囲気」作りをしたものの成功しなかった、ということです。

人間関係でもありませんか?仲直り出来るようお膳立て(雰囲気)作りをしようとしてくれるんだけれども、余計なお世話な人。そんなイメージです。


仲介に当たる人に思惑(利害)があると、両者への伝達に希望的観測による情報の捻じ曲げが入り込む余地があります。ムン政権は「統一計画(アジェンダ)」から、事更にそれが強く出たのではないかと思います。


北朝鮮からしてみれば、韓国が米国と会えば制裁が解除される、というから提案に乗ったのに、何も変わっていないわけです。
これでは韓国を通すメリットがありません。直接、米国と交渉すべき、と考えるのは無理ないことでしょう。


*1:原題「The Room Where It Happened(それが起こった部屋)」