北朝鮮へのワクチン支援に対する共感が拡がっている?という話

韓国統一部の長官が「北朝鮮にワクチン分けよう」と言い出した件で、政府内に共感が拡がっているとのことです。
まだこんなこと言ってたんですね、北朝鮮から結構キツイ物言いで断られたはずなんですけど…。

記事タイトルは「政府内で共感」なんですけど、記事内に具体的な韓国政府内の声は出てきません。それどころか「国際社会でも共感が〜」とか言っています。
でも実際よくよく読んでみると、国際的な機関はどこも「そんな予定ない」とキッパリ言い切っています。
一部欧州の外務省関係者が「コバックスを通じて供給されるかもね」とは言っていますけど、これはコバックス(COVAX Facility)という枠組みの話ですから、北朝鮮を「個別」に「率先して」支援しようとしている韓国の主張とは若干ズレていると思います。


アジア経済の記事からです。

北韓にコロナワクチン支援、政府内で共感..今年の実現は可能か


北韓の第8回労働党大会や米国のバイデン政権発足などが韓半島情勢の転換点になるという観測が出ている中、新型コロナウィルス感染症(コロナ19)ワクチンの対北韓支援による韓半島情勢転換の可能性も注目されている。韓国政府が対北韓ワクチン支援の可能性を示唆したことで、国際社会でも共感が形成されている。

北韓コロナ19ワクチン支援の信号弾を打ち上げたのは、イ・インヨン統一部長官だ。彼は数回にわたってマスコミとのインタビューなどを通じ、北韓にコロナ19ワクチンと治療剤を支援すべきだ、という立場を明らかにしてきた。

イ長官は昨年11月、KBSとのインタビューで「(コロナ19)治療剤とワクチンでお互いに協力できれば、北としては防疫体系によって経済的犠牲を享受した部分から少し脱することができる契機になるはず」とし「足りない時に一緒に分かち合うことが本当に分け合うということだ」と述べた。

(中略)

当時、イ長官と統一部のこうした立場が伝えられると、自国民のためのコロナワクチン・治療剤も確保できていない状況で不適切な言及だという批判が相次いだ。
しかし、最近になってコロナ19ワクチンの北韓支援に対する変化の気流も感じられる。人道主義的アプローとの次元で韓半島の緊張を緩和するなど、前向きな機能を期待できるということだ。

北韓問題の専門家であり、対北韓強硬派とされるブルース・ベネット、ランド研究所専任研究員は昨年12月、自由アジア放送(RFA)とのインタビューで「北韓に、挑発しない条件でコロナ19治療剤とワクチンなど人道的医療支援を提案せよ」と勧告した。

RFAは先月31日(現地時間)、国連安全保障理事会の対北韓制裁委員会議議長国のドイツとオーストリア政府もコロナ19ワクチンの対北韓支援の可能性と関連し、「コバックス(COVAX Facility)」を通じた間接支援の可能性を示唆したと報じた。
コバックスはコロナ19ワクチンを全世界に公平に分配するため、世界保健機構(WHO)、世界ワクチン免疫連合(GAVI)、感染病革新連合(CEPI)などが参加して作られた機関だ。2021年末までに全世界人口の20%までワクチンを均等に供給することを目標としている。韓国と北朝鮮を含め、現在190カ国と団体が参加している。

(中略)

コロナ19関連の対北韓支援を行ってきた国連機関と国際非政府機関(NGO)は、北韓からワクチンの支援要請を受けていないし、またワクチンを供給する計画はまだないと明らかにした状態だ。
ユニセフUNICEF)のシマ・イスラム*1、アジア太平洋地域報道官は「コロナ19ワクチンが北韓にどのように普及するかを語るのは時期尚早」とRFA側に明らかにした。北韓に医療物品を支援してきた国境なき医師団も「来念、北韓にワクチンを供給する計画はない」と明らかにした。

(後略)

アジア経済「북한에 코로나 백신 지원, 정부내 공감대..올해 현실화 가능할까(北韓にコロナワクチン支援、政府内で共感..今年の実現は可能か)」より一部抜粋


真偽の程は定かではありませんが朝日新聞は12月に北朝鮮がロシア製ワクチンの接種を開始した、と報じています。

ランド研究所のブルース・ベネットさんは北朝鮮に対して「挑発行為をしない」を交換条件として提示しています。言い方悪いですけど、弱みに付け込んで足元見ていけ、と言っているわけです。
一方の韓国は無条件に「困ったときは助け合おう」と言っているわけで、これは意味合いが大きく異なります。

また、コバックスを通じてのワクチン供給をここで持ち出すのはもっと見当違いで、記事の言うとおり北朝鮮が枠組みに正式に参加しているのであればコバックスから北朝鮮に渡るワクチンは正当な分配分であって、韓国が主張するような「支援」とは違います。

そして記事の後半を読んでもらえれば分かりますが、国連にしろユニセフにしろ国際NGO団体にしろ北朝鮮へのワクチン供給計画はまだない」としています。
途中、省いた部分にドイツとオーストリアの外務省関係者が「コバックスを通じて北朝鮮など発展途上国がワクチンの支援を受ける可能性もある」と述べていますが、これだってコバックスという枠組みの中の話です。
このような状況で「国際社会でも共感が形成されている」と捉えられるとは…。ポジティブ・シンキングを通り越してもう思い込みのレベルです。

朝鮮半島の緊張緩和の可能性」というロジックは対北ビラ禁止法と同じで北朝鮮に「韓国は北朝鮮の味方」というメッセージを送り安心させようとしているのでしょう。
相手からの譲歩を引き出すために、こちらがまず友好的態度を示す。一見、理にかなっているように見えますが、かつての太陽政策と同じです。(きっと結果も同じです)
裏返せば、韓国は北朝鮮との交渉材料を他に何も持っていない、ということを伺わせます。なにせ北朝鮮との対話を一手に担う統一部がこんなことを言い出すのですから。

*1:Shima Islam