同意なしに滞納税金を確認できる...ジョンセ金詐欺を受けて法改正が決定した話

韓国独特の賃貸文化であるジョンセ保証金、これは家を借りるときに家主に預けておいて賃貸契約終了時にまるまる返してもらうものですが、最近このジョンセ金を返してもらえないという事例が相次いでおり、とうとう詐欺事件として警察が動く事態にまで発展しました。

紹介する事例は特に悪質で大規模なものです。複数の関係者がオーナーの資金繰りが悪化していることを把握していながら「家主は資産が多く土地も多いので心配しなくて良い」と被害者たちを説き伏せ、327軒の物件で合わせてジョンセ保証金266億ウォンを集めました。
関係者たちは万が一の時はジョンセ金を「代理弁済する」とした保証書まで書いたとのこと。しかし、この保証書は何の効力も無いそうで被害額は1人当たり600~1000万円程度と見られています。

オーナーは確認できているだけで2700軒もの不動産を所有しているそうです。(建築業者と報じられていますが、それにしても多すぎます)
10年ほど前から知人名義でマンションや集合住宅を買い入れ、住宅担保融資金や購入したマンション・集合住宅を貸した際に預かったジョンセ保証金などを元手に次の物件を購入するという方法でどんどん物件を増やしていったそうです。典型的な不動産バブルです。

こうした事態を受けて来年から賃貸契約を結んだあとにオーナーの税金滞納状況を確認できるよう法改正が行われました。税金を滞納しているオーナーは資金繰りが危ないかもしれないと知ることが出来るという趣旨です。

 



聯合ニュースの記事からです。

「ヴィラ王」顔負けの2700軒「建築王」...266億のジョンセ金詐欺


(前略)

仁川警察庁広域捜査隊は23日、詐欺と不動産実権者名簿登記に関する法律違反などの疑いで建築業者A氏(61)ら5人に対する捜索令状を申請したと発表した。
警察はまた犯行に加担した公認仲介者、雇われ賃貸業者、仲介補助人など共犯46人も同じ疑いで在宅起訴した。

A氏らは昨年3月から7月まで仁川市ミチュホル区一帯のマンションとアパートなど共同住宅327軒のジョンセ保証金266億ウォンを借り手から受け取り横領した疑惑などを受けている。

彼らは昨年から資金事情の悪化によりマンションやアパートが競売に掛けられる可能性があるにも関わらず、無理にジョンセ契約をしたことが調査された。
住宅担保貸出利子と各種税金が延滞されたまま契約満了時期が到来すればジョンセ保証金を返すことが出来ない状況であるにも関わらず、むしろ保証金を数千万ウォンずつ上げて契約を維持したと伝えられた。

調査の結果、約10年前から住宅を買い入れ始めたA氏は知人などから名義を借りてマンションやアパートの建物を新築した後、ジョンセ保証金と住宅担保融資金を集め、また共同住宅を新築する形で不動産を増やしていった。
A氏所有の住宅は仁川と京畿道一帯に計2700軒で、大部分は彼が直接新築した。

(中略)

公認仲介者や仲介補助人はA氏の良くない資金事情を知りながらも「家主は資産が多く土地も多いので心配しなくて良い」として被害者を安心させた。
マンションやアパートに優先順位として捉えられている担保貸出のせいでジョンセ契約を躊躇う借り手には「ジョンセ保証金を受け取れなかったら代わりに返す」として効力も無い履行保証覚書を書くなどした。

A氏と共に拘束令状が申請された室長4人がこれらの雇われ賃貸業者と公認仲介者を管理し被害者1人当たり少なくとも6千万ウォンから最大1億ウォン程度のジョンセ保証金を返してもらえなかった。

(中略)

警察関係者は「ジョンセ契約をする際は不動産登記簿謄本を通じて権利関係を確認しなければならず、担保貸出などで優先順位が低く設定位された物件は今後競売の可能性も考えて注意しなければならない」と話した。



聯合ニュース「'빌라왕' 뺨치는 2천700채 '건축왕'…266억 전세 사기(종합)(「ヴィラ王」顔負けの2700軒「建築王」...266億のジョンセ金詐欺)」より一部抜粋

「ヴィラ(集合住宅)王」というのは、1139軒の集合住宅を所有しジョンセ金を返さないまま亡くなったオーナーのことです。

最後の警察の注意喚起の文言から、ジョンセ契約は「自己責任で」感が強く感じられます。賃貸契約を結ぶのにわざわざ地権者を確認しろというのは手間が掛かり過ぎるように思います。また担保貸出の状況(オーナーの資金繰り)など確かめようがありません。

そこで国会にて「国税徴収法改正案」が提出され可決されました。これにより借主は家主(オーナー)の同意なしに家主の納税状況を確認できるようになります。

 

 



朝鮮Bizの記事からです。

来年から家主の同意なしに滞納税金を閲覧可能...「ヴィラ王」詐欺を防ぐ


(前略)

23日、国会本会議を通過した「国税徴収法改正案」によれば、今後、賃借人(借り手)は賃貸借契約締結後に賃貸人(家主)の同意なしでも家主の国税滞納現況を閲覧できる。賃借人が直接家主の税金滞納内容を確認しジョンセ詐欺被害を予防できるようにするという趣旨だ。

滞納現況は全国税務署で閲覧できる。ただし大統領令で定める額以下の保証金のジョンセ契約は未納国税閲覧対象から除外される。

同時に保証金を返してもらえない状態で借りた家が競売や公売に移る場合、借り手が優先返済を受けられるようになった。現在は競売・公売で家が渡れば国税など滞納税額を優先返済した後に残った金額から返済される。しかし来年からは滞納税額の返済に先立ち、借主が先に返済される。

(後略)



朝鮮Biz「내년부터 집주인 동의 없이 체납 세금 열람 가능… ‘빌라왕’ 사기 막는다(来年から家主の同意なしに滞納税金を閲覧可能...「ヴィラ王」詐欺を防ぐ)」より一部抜粋

ジョンセ保証金が優先的に返済されるようになるのは良いことだと思います。

しかし「借り手が自己の責任でオーナーの資産状況を確認して自己防衛すべし」というのは建前上は分かるのですけど...なんというか「借り手」と「オーナー」とを「対立(敵対)関係」として「オーナー」を悪者扱いしているかのような違和感を感じます。
一定の規模で賃貸業を行っている人は登録(免許)制にして、そこの資金状況を金融庁辺りが監督するとかは難しいんでしょうか?