台湾メディア「サムスン電子、3nm収率20%未満」 vs 韓国メディア「TSMC3nm収率高くても50%未満」...どっちも根拠は噂?な話

韓国の半導体産業への支援の不十分さを訴える(野党を非難する)記事なのですが、ダシにされている台湾メディアの報道への嚙みつき方がちょっと面白かったので紹介します。
なんいうか、目クソ鼻クソ的と言いますか、記者が指摘している「台湾メディアの根拠のなさ」とそっくりそのまま同じことをしているんですよね。

 



韓国経済の記事からです。

サムスン電子、90%は不良品」と言っていた台湾メディア、調べてみると...[ファン・ジョンスの半導体イシューを考えてみる]


昨年6月、サムスン3nmの収率(全体生産品で良品の割合)は20%未満だった。一部のウェアハーでは10%に過ぎない。アナリストたちは「サムスン電子が何が問題なのか分からない」と評価した。サムスン電子の収率改善は容易ではない。

最近、ある台湾メディアがサムスン電子の最先端3nmファウンダリー(半導体受託生産)技術について評価した内容だ。サムスン電子のイ・ジェヨン会長が2019年「有望新事業」に挙げて集中的に育成している。サムスンのライバル会社は台湾のTSMCだ。
この報道の通りならサムスン電子の3nmラインで生産された半導体は100個のうち80個以上は「不良」なので捨てなければならないという意味だ。つまり、20個未満のチップだけが使えるということだ。また、サムスンが今後も不良品を減らすのは容易ではないというのが同報道の核心だ。

TSMCに対する評価は全く違う。TSMCは最近3nm工程の量産を開始した。このメディアは「TSMC3nm工程(N3)収率(全体生産品で良品が占める割合)が最小60~70%、最大75~80%に達する。1次物量にしてはかなり良いもの」と書いた。TSMCが3nm工程でチップ100個を作れば80個は良品で20個だけ捨てるという意味だ。

「ビジネスネクスト」という正体不明の台湾メディアが報道したこの内容は、ブログとメディアの中間程度に属している。「フォンアリーナ」のようなサイトなどを通じて拡散している。果たして彼らの報道内容は事実に近いのだろうか。

サムスン電子の3nm第1世代工程収率は『完璧な水準』」

最近、サムスン電子ファウンダリー事業部の事情に詳しい半導体業界関係者に3nm収率について聞いた。サムスン電子は昨年6月、世界で初めてGAA(Gate All Around*1)工程技術を適用した3nm製品の量産を開始した。

同関係者は「現在、サムスン電子3nm第1世代工程の収率は完璧な水準」と話した。続けて「現在、サムスン電子は3nm第2世代工程も開発中」とし「開発中の工程の収率を言うことに意味が無いため言及しないが、計画通りに進行している」と説明した。一言でいえば、サムスン電子の3nm工程は何の問題もないということだ。

(中略)

反面、TSMCの3nm収率が最大80%に達するという報道に対しては「とんでもない話」と評価した。この関係者は「サムスン電子のような半導体メーカーは多様な経路を通じてライバル会社の収率を把握している」として「国内半導体業界に知られたTSMC3nm工程の現在の収率は高く見積もっても『50%未満』」と評価した。

根拠としてはTSMC3nm工程の主要顧客会社であるアップルの新型チップ発売日程が遅れることを挙げた。アップルはiPhoneの頭脳の役割をするアプリケーションプロセッサ「A17」をTSMC3nm工程を通じて生産する計画だ。ところがA17量産日程が計画より遅れている。TSMC3nm工程が円滑ではないと推測される。

台湾メディアが根拠なしにサムスン電子の技術力を引き下げるのは今回が初めてではない。2020年7月、台湾IT専門メディアとして知られるデジタルタイムズは「業界筋」の話として「サムスン電子、5nm問題に直面」というタイトルの記事を報じた。

(中略)

また、サムスン電子TSMCと技術競争で勝つために4nm工程をスキップし直ちに3nm工程に直行すると報じた。TSMCとの競争で後れをとっているためサムスン電子が焦りを感じているというニュアンスだった。

(中略)

その後、また悪意的な報道が続いた。台湾メディアは「サムスン電子4nm工程の収率が35%に過ぎない」として「TSMCの収率は70%に達する」と書いた。サムスン電子は実績説明会で「4nm収率が低かったのは事実だが正常化した状態」と釈明した。

(中略)

台湾は半導体産業の競争力を前面に押し出し、1人当たりの国内総生産GDP)関連の韓国を追い越すものとみられる。蔡英文台湾総統が昨年直接「台湾の1人当り国内総生産GDP)が2003年以後19年ぶりに韓国を追い越すものと見られる」とし「すべての台湾人が努力し政府が経済構造を改善したおかげ」と話した。国際通貨基金IMF)の世界経済展望報告書に基づいた発言だ。昨年、台湾1人当たりのGDP予測値は3万6050ドルで、3万4990ドルの韓国を上回っていることが分かった。

台湾の国民企業TSMCサムスン電子に押されてはならないという切迫感が現地メディアの報道にもにじみ出ているという評価だ。

(後略 ※台湾の国民企業であるTSMCを官民メディアそろって応援している。サムスンは十分な支援を得られていない。米国や台湾など半導体産業を積極的に育成する国家の逆を行く。もっと支援しろ、な結論へ)



韓国経済「"삼성전자, 90%는 불량품"이라던 대만 매체 알고 보니… [황정수의 반도체 이슈 짚어보기](「サムスン電子、90%は不良品」と言っていた台湾メディア、調べてみると...[ファン・ジョンスの半導体イシューを考えてみる])」より一部抜粋

自分も「業界筋」の話として「TSMCの3nm収率は高くても50%」って言ってますやん...。あなたの理屈なら「根拠なし」ですやん...。

揚げ足取りみたいでアレですけど、記者自身は「(自称)サムスン電子ファウンダリー事業部の事情に詳しい関係者」に直接話を聞いたのでしょうから説得力が違うと感じるのでしょうが、読者の目からすれば正体不明な台湾メディア「ビジネスネクスト」から拡散している話も、正体不明な「(自称)サムスン電子ファウンダリー事業部の事情に詳しい関係者」の話も似たようなレベルです。「根拠不明な推測」記事に、自分が聞いてきた「噂」をブツけた記事(感想文?)。
正直、ジャーナリストならここにもう一歩踏み込んだ検証をして欲しかったなぁ、と残念なところです。この記事(?)で確かな事実は「AppleのA17チップの量産計画が遅れている」だけですからねぇ。それすらもちょっと恣意的な見方かもしれませんし。

TSMCの3nmが遅れていることは昨年第3四半期決算時点で韓国メディアにより報じられた内容です。TSMCは「量産に向けて順調に進んでいる」と発表していましたが、Business Koreaというメディアが過去、TSMCが3nmの量産を「今期末としていた」とし「これはプロセスが遅れている証拠」と報じました。これにより「TSMCの3nmプロセスは遅れている」が韓国内での共通認識になった印象です。

実際のところは正直分かりませんけれど、2021年末から2022年初頭にかけてTSMC経営陣は「2022年下半期に量産」としていて、第3四半期量産というのは「早ければ8月」という台湾メディア報道がソースのようです。(実際の量産開始は12月29日)
「早ければ8月」のメディア報道を確定事項とするのは、なんとなくですけど、TSMCの3nm製造遅延を「サムスンに有利」との主張に持っていきたかったからかなぁ、という気がしています。

ここまでは推測や印象の話になってしまっていますけれど、少なくとも現実としてAppleのA17にはTSMCの3nmが採用される見込みであり、「サムスン有利」は叶っていません。



記事へのコメントは236件。反応は「おすすめ:29 いいね:15 感動:6 怒り:553 悲しい:6」です。

「台湾メディアは自国のためにフェイクニュースを流しているが、韓国メディアは日本のためのフェイクニュースをばらまくなんて。
 ああ、痛ましい」(共感212 非共感18)

「結局、共に民主党を非難するための記事だったね。国民の力はいいな。このように側面支援射撃が多くて」(共感189 非共感40)

「中国は中国に過ぎない。
 中共も台湾も結局同じだ。
 近づきすぎてはいけない」(共感150 非共感3)

「騒がしい台湾のTSMCは既に静かなサムスンに負けた!」(共感94 非共感3)

「無理矢理持ち込む野党のせい!www
 もうマスゴミだよww」

「中国産の血は争えないね~汚い中国」(共感61 非共感2)

マスゴミは言いたいことは、結局血税で再三支援しえくれということだね...まあ、いくらもらって私腹を肥やしたのかは知らないけど、80年代からサムソンが普通に大きかっただろうか?それだけ支援してもらったならもうちょっと自分でやれ」(共感108 非共感53)



*1:トランジスタの構造として360度全方位をゲートで囲まれたもの。