「経済が安保」だからこそ「戦略的あいまい性」を推す話

10日ほど前ですが、ユンさんはロイター通信とのインタビューで、「民間人が大規模な攻撃を受けた場合」と前置きした上での話ではありますがウクライナに対する武器支援を示唆する発言をしました。
中国に対しては「力による現状変更」という表現を使い、中国の強硬姿勢へ反対する趣旨の発言をしました。
両国からは反発を招いています。ロシアは韓国を非友好国に指定する対抗措置を取りましたし、中国には「余計な口出しをするな」と一喝されました。

ロシアにはエネルギーで、中国には貿易で大きく依存しています。これは別に韓国に限った話ではありませんけれども、特に韓国では依存度の高さ=戦略的あいまい性の必要性として論じられることが多く、ユンさんの両国への強硬な対応を「経済が安保」の観点から不安視するコラムがありましたので紹介します。

 



時事ジャーナルの記事からです。

「経済が安保」の時代、大きくなるロシアと中国リスク[クォン・サンジプの論戦]


ユン・ソンニョル大統領はロシアと中国の敵対行為に対して厳重な警告を発した。ロイター通信とのインタビュー内容が発端だった。ロシアにとって「ウクライナ」、中国によって「台湾」はタブー視されている。ユン大統領はこのタブーを破った。ウクライナに対する武器支援の可能性を開いており、台湾問題に対しては力による現状変更に反対するという原則を強調した。

(中略)

インタビューが公開された後、ロシアと中国は直ちに内政干渉だと不快感を越えて極度の怒りを表した。ロシアのメドベージェフ元大統領は「ロシアが北韓に最新兵器を支援すれば、韓国国民はどう見るだろうか」とし、北韓に対する兵器支援カードを取り出した。中国は「台湾問題に関して火遊びする人は焼け〇ぬだろう」と脅迫性のメッセージを伝えた。ロシアと中国の恐怖ムード作りに国内企業は動揺している。

(中略 ※ロシア、中国に対するエネルギー・経済依存に触れ)

大韓民国が輸出中心国家と言うことは国民皆が良く知っている事実だ。大統領が「大韓民国1号営業社員になって国内企業の活力を高めるために努力する」と言及したのも、輸出が滞れば韓国経済の成長が止まるためだ。ロシアで国内企業の営業利益が下落し、工場稼働中断が続く状況、そして中国との貿易で一貫して赤字が加速する状況で発生した今回のリスクは、決して軽くはない。何よりも、ロシアと中国は口だけで強硬さを取る国家ではない。

(中略)

該当状況を考慮すると、エネルギーに強みを持っているロシアが電子、自動車、食品市場に進出した国内企業を統制し圧迫するのはそれほど難しいことではない。また中国は私たちの最大の輸出国の1つである。ロシアと中国が韓国に向かって扉を閉ざせば企業は困難に陥るしかなく、これは韓国経済の難関に繋がる。輸出と輸入が滞れば投資は減少し、食料品価格は上昇し、雇用は減少する。

実際は大統領がロシアと中国に対して不適切な発言をしたわけではない。強者が弱者を苦しめ、力によって世界秩序を乱す行為に賛成する人はどこにもいない。

(中略)

しかし個人と国家の行為、そして発言の重さは厳然と異なり、また異ならなければならない。

韓国政府は経済が安保、安保が経済だと話す。我々だけがそのように主張するのではない。全世界のすべての国は、経済を安全保障の枠で解釈する。大韓民国の悩みはここから始まる。韓国の外交政策は、米国と安保、中国と経済という大きな流れの下で続けられてきた。米国と中国のどちらかを選択して支持すれば、経済または安保が危険になるからだ。そのため我々は戦略的あいまい性の綱渡りをしてきた。米国との関係を強化しながらも同時に中国と戦略的パートナー関係を作ったのも、そして米国の反対にも関わらず、中国主導のアジア投資銀行に加入したのもイ・ミョンバク政府とパク・クネ政府だった。ムン・ジェイン政府も初期から中国との関係回復にあらゆる努力を傾けてきた。ロシアと中国を愛しているからではない。経済の持続成長、ひいては国民の安全と国家安保を考えれば止むを得ずしなければならない大韓民国大統領の宿命だ。

(中略)

亡くなったハーバード大学政治学科のサミュエル・ハンティントン教授は「外交関係は小学校の序列競争より幼稚で、時には卑劣だ」と話した。永遠の友も、そして永遠の敵も無いため相手を信じすぎてはならず、相手に背を向けてもいけないという意味だ。米国が今も変わらず同盟国に対して情報網を総動員して登頂を行う理由だ。そして米国は不利な状況では常に戦略的あいまい性のスタンスを維持する。

韓国政府がロシアと中国に低姿勢を維持しなければならないという意味ではない。ただし、経済が不透明な状況、そして安保が経済である時代に相手に背を向ける行為は危険なことだ。英国、フランス、ドイツが状況によってそれぞれ立場を変えているのも、日本がロシアと中国に対して断固たる立場を示していないのも経済が安保、安保が経済である時代に相手に背を向けるのは自国民、そして経済に及ぼすリスクが大きすぎるためだ。

韓国政府はアジア安保同盟の軸を日米から韓米に転換するために努力している。ロシアと中国に対してあいまいではなく鮮明性を維持するのもその一環とみられる。しかし、サミュエル・ハンティントン教授の話のように、外交関係は幼稚で時には卑劣だ。政府が耳を傾け信頼する対象も韓国国民と企業の声だ。経済が不透明で、安保こそ国民だからだ。



時事ジャーナル「‘경제가 안보’인 시대, 커지는 러시아와 중국 리스크 [권상집의 논전(論戰)](「経済が安保」の時代、大きくなるロシアと中国リスク[クォン・サンジプの論戦])」より一部抜粋

なんか変な主張なんですよねぇ。前提が「大韓民国の生きる道は戦略的あいまい性」があるからでしょうか。
「戦略的あいまい性」って、基本は常時発動するパッシブスキルではないと思うんですよねぇ。(スイスはパッシブスキルですけど、金融とバチカンを押さえてる上に国民皆兵士の覚悟がありますから)

「戦略的あいまい性」が効果を発揮するのは、両方から均等に「距離を取る」ときだと思います。要は首を突っ込まず当事者になることで被る「被害」を避ける戦略です。

しかし韓国の言う「戦略的あいまい性」は違います。両方に均等に「近づく」ことを意味します。なぜか。それは両方から「利益」を得るための戦略だからです。対立する両者の間に入っていくのですから、当然「被害」を被ります。当たり前ですよね。
それに、ロシアと中国にとって韓国は「強く言えば引っ込む相手」と思われている節もあります。実際、中国に対しては「力による現状変更とは、国際的に使われている表現に過ぎない」とトーンダウンしましたし。

英・仏・独が状況によって立場を変える、というのも日本が断固たる立場を示していない(なんのことかよく分かりませんが...サハリンのことかな?)というのも、要は「それはそれ、これはこれ」と問題を切り分けた上で一本線を引いて、その前後に「アソビ(=余地の部分)」を残しているということでしょう。それが「あいまい性(非武装地帯)」として機能しているわけです。
根本的に韓国が維持しようとしている「戦略的あいまい性」とは質が異なるモノのように私には思えます。

安保同盟の軸を米韓にしようとしている、というのもどうなんでしょうね?日米韓の三ヵ国という話なら分かりますが。心情的に日本を排除したい、という本音が出たのでしょうか?
少なくとも地理的に日本を抜いた米韓二ヵ国では無理です。地図を見れば一目瞭然。ロシアにとって日本列島がいかに邪魔か。日本の地理的利点は韓国ではカバーできません。
中国にしてもそうです。海洋国家ではない韓国に、中国の海洋進出を押さえるシーパワーは現状ありません。そもそも中国が動くとき、韓国は北朝鮮に備えなければいけませんから動けないでしょう。